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藤本有紀「パ・ラパパンパン」(演出松尾スズキ) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療とインフルエンザワクチン接種などで、
都内を廻る予定です。

世間が休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
パ・ラパパンパン.jpg
松尾スズキさんの傑作「キレイ」を生み出した、
シアター・コクーンのオリジナルミュージカル企画の新作が、
今上演されています。

これまでは松尾さんのオリジナルでしたが、
今回はベテラン脚本家の藤本有紀さんのオリジナル戯曲を、
松尾さんが演出しています。

「パ・ラパパンパン」の繰り返しが印象的な、
クリスマスソングの「リトル・ドラマー・ボーイ」がテーマ曲で、
松たか子さん演じるラノベ作家が、
心機一転して本格ミステリーの長編を執筆すると宣言するのですが、
一向に進捗せず、
見かねて訪れた担当編集社の神木隆之介さんと、
「クリスマス・キャロル」の世界を舞台にした、
ミステリーを考えることになります。

その後は思いつくままに展開される古典ミステリーの世界が、
実際に舞台に再現され、
それに神木さんが茶々を入れたりして物語は展開。
1幕と2幕に分かれた構成で、
2幕では小説と同じように毒を飲んだ松さんが、
完全にミステリーの世界に入り込み、
探偵として作品の謎を解き明かすことになります。

非常にウェルメイドな作劇で、
松尾さん自身も表明しているように、
「誰でも安心して楽しめる娯楽としての演劇」を、
文字通りに体現した世界です。

藤本さんの戯曲は主人公の設定の中に、
松尾さん自身を忍び込ませた感じがあって、
ミニマルな読者を対象としていた作家が、
より幅広い観客を楽しませるための作品を書こうとする際の、
内的葛藤を裏テーマにしているのだと思います。
悪魔的な編集者が怪物化して、
その頸木から解き放たれるという結末も、
なにやら暗示的です。

ただ、主眼は敢くまで、
万人向けのクリスマスのミュージカルを提供することにあって、
歌と踊りを適度に配した古典ミステリーの世界は、
まずは楽しめるものに仕上がっていたと思います。

キャストは何と言っても松たか子さんが抜群で、
女優を扱うことにはピカイチの松尾さんの演出の冴えもあり、
彼女の魅力が十全に味わえる内容になっています。
美声も聴かせますし、
コミカルなやりとりも抜群の楽しさで、
ラスト、テーマ曲に乗ってステップを踏む姿だけで、
チケットの元は取った気分になります。
舞台の松さんは控え目に言って最高です。

正直別に松尾さんがこんな作品を演出しなくても、
という思いはあります。
でも、悪夢ばかり見続けていた中年男が、
クリスマスの夜に一度だけ見た、
心躍る楽しい夢だと思えば、
これはこれでありかな、というような気もします。

ただ、ミステリーファンとして言うと、
本格ミステリーの面白みには乏しい作品で、
「クリスマス・キャロル」が題材というのも如何にもベタ過ぎて、
脱力するという感じはありました。

肩の凝らない(その割には長いですが)娯楽ミュージカルとしては、
まずまずの作品でお勧めで、
松たか子さんのファンであれば満足出来ますが、
神木隆之介さんのファンにはおそらく物足りず、
本格ミステリーを期待したり、
これまでの松尾スズキさんの世界を期待すると、
失望は間違いないという、
そんな感じの舞台でした。

せめて、もう少しシュールでもいいよね。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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