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「Arc アーク」(石川慶監督新作) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
アーク.jpg
石川慶監督の待望の新作が、
今ロードショー公開されています。

石川慶監督は、
長編1作目の「愚行録」から、
尋常ならざる映像センスで注目され、
次の「蜜蜂と遠雷」は商業企画映画でありながら、
感性豊かな堂々たる傑作でとても感心しました。

次は何をしてくれるのかしらと、
とても楽しみであったのですが、
中国系アメリカ人作家ケン・リュウのSF短編、
「Arc アーク」を、
作者自身のプロデュースで映画化する、
という意表を突いた企画で驚きました。

不老不死の実験台になった女性の数奇な運命を描いたもので、
これまでの2作品とは、
内容的には全く違いますが、
そのスタイリッシュで技巧的な映像センスは健在です。

今回はよりヨーロッパ映画的な感じで、
特に前半のカラーの部分は、
登場するのは日本人キャストが殆どですが、
その肌触りは日本映画めいたところが殆どありません。

ただ、面白かったかと言われると、
今回は正直面白くはありませんでしたし、
はっきり失敗作という感じでした。

これ、ほぼ原作通りの内容なのですが、
原作自体内容はかなり薄いんですね。
SFと称してはいますけれど、
不老不死のメカニズムについても、
「老化のいろんな遺伝子を操作する」というくらいしか、
説明がないんですね。
その意味ではとても適当です。

ただ、映像化した方が面白そう、
という感じはするんですね。

死体にポーズを付けて保存する、
というユニークなビジネスや、
それを活用した不老不死の技術など、
一体実際にはどんなイメージなのだろう、
と想像の膨らむ部分があるからです。

ただ、原作を読んでそれを期待して映画を観ても、
あまり納得のゆく映像が提示されている、
という訳ではありません。

死体のポージングにしても、
不老不死の技術論にしても、
一応原作の描かれた通りにやってみました、
という程度のサラリとした描写で、
監督の個性を感じさせるところがありません。
舞踏に近いテイストのモダンダンスが使われていますが、
それが1つの個性的なスタイルとして、
作品に溶け合っているというレベルではなく、
舞踏の動きのなぞり、
という感じに留まっていたのは、
舞踏好きとしては残念でした。

不老不死の処置も、
殆ど注射をするだけ、という感じなので、
これでは詰まらないと思いました。
CGをあまり使わないというのは、
1つのポリシーであったのかも知れませんし、
予算的な問題が大きかったのかも知れませんが、
どんなビジュアルでも表現出来る時代に、
この貧相さは如何なものだろうと感じました。
もう少し工夫するべきではなかったでしょうか?

この作品は主役の芳根京子さんが、
ドラマチックな筈の人生を、
非常に淡々と演じているのですね。
師匠と恋人と息子を全て失うのですが、
そのいずれもが何か些細なことのように描かれています。

それはそれで1つの見識ではあると思うのですが、
そうであれば、芳根さんを取り巻く面々が、
もっと過剰であっても良いと思うのですね。
そうでないとバランスが悪いと思うのですが、
寺島しのぶさん、岡田将生さん、小林薫さんと、
いずれももっと過剰に大暴れの出来る手練れが揃っているのに、
激情する部分は最低限しか見せないという抑制的なタッチで、
正直物足りなさを感じます。
小林薫さんなど、秘密を隠した無骨な漁師というのが、
少し前にテレビドラマでも、
ほぼ同じような役をやっていましたよね。
もっと他の設定があっても良かったのではないかしら。
如何にも凡庸に感じてしまいました。
岡田将生さんもメフィストフェレス的役柄なのですから、
もっと悪魔的で異常な部分があってもいいでしょ。
あまりに淡々として詰まらないと思います。

たとえば内田英治監督なら、
もっと濃いキャラに大暴れをさせたような素材でしょ。
どうも作品とスタイルが乖離しているように、
今回は感じてしまいました。

前半がカラーで後半がモノクロ、
というのもテンションが下がるんですね。
多分モノクロがやりたっかったのだろうな、
というようには感じるのですね。
色合い自体もただの白黒ではない濃淡があるんですよ。
相当凝っていると思うのですが、
矢張り地味でまったりしてしまうなあ、
というようには思ってしまいます。

総じて意欲作とは思うのですね。
単なる企画先行の失敗作ではないんです。
相当映像にも細部にも凝って、
力を入れて作っているのは分かるんですね。
ただ、どうも心が浮き立つような感じ、
テンションが上がる感じが皆無なので、
「ああ、何か見たな」という感じで終わったしまったのが実際でした。

でも、トリュフォーやタルコフスキーのSF映画も、
こんな感じではありましたよね。
素材の割には淡々としていて、
映像は妙に凝っているけれどチープでもあって、
何がやりたかったのが意味不明、
というようなところはあるでしょ。
そうした映画と比べて、
そう遜色はない仕上がりになっているので、
これはこれで良いのかな、と思わなくもありません。

僕は石川監督は大好きなので、
観て後悔はしませんでしたが、
監督のファン以外の方には、
とてもお勧め出来る内容ではありませんでした。

興味と忍耐力のある方のみにお勧めです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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