GIP/GLP-1受容体作動薬の有効性(第3相臨床試験結果) [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
Lancet誌に2021年6月26日ウェブ掲載された、
糖尿病の新薬の第3相臨床試験の結果をまとめた論文です。
2型糖尿病の最近の治療において、
最も注目されているのは、
SGLT2阻害剤という飲み薬とGLP-1アナログという注射薬です。
従来の糖尿病治療薬の欠点であった、
重症の低血糖や体重増加、高インスリン血症などが生じにくく、
長期的な予後においても、
生命予後の改善や心血管疾患のリスク低下が、
精度の高い臨床データにおいて、
確認されつつあるからです。
ただ、その血糖降下作用は、
インスリンの注射やSU剤など従来の治療薬に比べるとマイルドで、
単剤では充分な血糖コントロールが得られにくい、
という欠点もありました。
その薬の長所はそのままに、
より血糖降下作用の強い薬剤が求められていたのです。
そして今回新薬として臨床試験が行なわれたのが、
GIP/GLP-1受容体作動薬です。
この薬はインクレチン関連薬であるGLP-1アナログに、
もう1種類ののインクレチンであるGIPの受容体を刺激する性質を、
同時に持たせた注射薬です。
インクレチンとは何でしょうか?
血液の中に糖分を直接入れるより、
口から同じ量の糖分を取る方が、
膵臓からのインスリンの出る量は多い、
という事実が以前から分かっていました。
この事実は、胃や腸の何処かから、
インスリンの出を刺激するような物質が、
分泌されているのではないか、
という推論に繋がります。
この推論上の物質を「インクレチン」と名付けたのです。
その後、このインクレチンの本体は、
小腸の上部から分泌される、
GIP(グルコース依存性インスリン分泌性ポリペプチド)と、
小腸の下部から分泌される、
GLP-1(グルカゴン様ペプチド)であることが分かりました。
いずれも、アミノ酸がくっついた1種のホルモンです。
このようにインクレチンには2種類があるのですが、
注射の受容体作動薬として開発されたのは、
GLP-1受容体作動薬だけでした。
これは何故かと言うと、
2型糖尿病の状態においては、
膵臓のインスリン分泌細胞におけるGIPの作用が、
大きく低下しているという知見があったからです。
そのためGIPの受容体の刺激単独では、
充分な作用が期待出来ないと考えられたのです。
ただ、もともとGIPとGLP-1は相補的な働きを持つホルモンなので、
GLP-1アナログにGIPアナログとしての作用を共に持たせれば、
より強力な血糖低下作用が得られるのでは、
という想定は可能で、
そのコンセプトの元に生まれたのが今回の薬なのです。
このチルゼパチド(Tirzepatide)と命名された、
製薬メーカー、イーライリリーによる薬剤は、
同一分子にGIPとGLP-1の両者の作用を併せ持ち、
週1回の注射薬として開発が進められています。
今回の第3相臨床試験においては、
18歳以上の2型糖尿病患者で、
生活改善のみではHbA1cが7.0から9.5%の状態の、
トータル705名の患者を、
偽薬もしくはチルゼパチド5mg、10mg、15mgの4群にくじ引きで分け、
40週間の経過観察を施行しています。
その結果、
チルゼパチドは用量依存性に血糖を低下させ、
15mgの使用ではHbA1cを2.07%低下させていました。
これは従来の治療薬単剤の効果を上回るもので、
体重も用量依存性に低下させ、
主な有害事象はGLP-1アナログと同様、
吐き気や下痢などの消化器症状でした。
このようにGIP/GLP-1受容体作動薬は、
GLP-1アナログを上回る有効性が認められ、
今後糖尿病治療の新たな第一選択薬に、
なる可能性を秘めた薬剤であるようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
Lancet誌に2021年6月26日ウェブ掲載された、
糖尿病の新薬の第3相臨床試験の結果をまとめた論文です。
2型糖尿病の最近の治療において、
最も注目されているのは、
SGLT2阻害剤という飲み薬とGLP-1アナログという注射薬です。
従来の糖尿病治療薬の欠点であった、
重症の低血糖や体重増加、高インスリン血症などが生じにくく、
長期的な予後においても、
生命予後の改善や心血管疾患のリスク低下が、
精度の高い臨床データにおいて、
確認されつつあるからです。
ただ、その血糖降下作用は、
インスリンの注射やSU剤など従来の治療薬に比べるとマイルドで、
単剤では充分な血糖コントロールが得られにくい、
という欠点もありました。
その薬の長所はそのままに、
より血糖降下作用の強い薬剤が求められていたのです。
そして今回新薬として臨床試験が行なわれたのが、
GIP/GLP-1受容体作動薬です。
この薬はインクレチン関連薬であるGLP-1アナログに、
もう1種類ののインクレチンであるGIPの受容体を刺激する性質を、
同時に持たせた注射薬です。
インクレチンとは何でしょうか?
血液の中に糖分を直接入れるより、
口から同じ量の糖分を取る方が、
膵臓からのインスリンの出る量は多い、
という事実が以前から分かっていました。
この事実は、胃や腸の何処かから、
インスリンの出を刺激するような物質が、
分泌されているのではないか、
という推論に繋がります。
この推論上の物質を「インクレチン」と名付けたのです。
その後、このインクレチンの本体は、
小腸の上部から分泌される、
GIP(グルコース依存性インスリン分泌性ポリペプチド)と、
小腸の下部から分泌される、
GLP-1(グルカゴン様ペプチド)であることが分かりました。
いずれも、アミノ酸がくっついた1種のホルモンです。
このようにインクレチンには2種類があるのですが、
注射の受容体作動薬として開発されたのは、
GLP-1受容体作動薬だけでした。
これは何故かと言うと、
2型糖尿病の状態においては、
膵臓のインスリン分泌細胞におけるGIPの作用が、
大きく低下しているという知見があったからです。
そのためGIPの受容体の刺激単独では、
充分な作用が期待出来ないと考えられたのです。
ただ、もともとGIPとGLP-1は相補的な働きを持つホルモンなので、
GLP-1アナログにGIPアナログとしての作用を共に持たせれば、
より強力な血糖低下作用が得られるのでは、
という想定は可能で、
そのコンセプトの元に生まれたのが今回の薬なのです。
このチルゼパチド(Tirzepatide)と命名された、
製薬メーカー、イーライリリーによる薬剤は、
同一分子にGIPとGLP-1の両者の作用を併せ持ち、
週1回の注射薬として開発が進められています。
今回の第3相臨床試験においては、
18歳以上の2型糖尿病患者で、
生活改善のみではHbA1cが7.0から9.5%の状態の、
トータル705名の患者を、
偽薬もしくはチルゼパチド5mg、10mg、15mgの4群にくじ引きで分け、
40週間の経過観察を施行しています。
その結果、
チルゼパチドは用量依存性に血糖を低下させ、
15mgの使用ではHbA1cを2.07%低下させていました。
これは従来の治療薬単剤の効果を上回るもので、
体重も用量依存性に低下させ、
主な有害事象はGLP-1アナログと同様、
吐き気や下痢などの消化器症状でした。
このようにGIP/GLP-1受容体作動薬は、
GLP-1アナログを上回る有効性が認められ、
今後糖尿病治療の新たな第一選択薬に、
なる可能性を秘めた薬剤であるようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2021-06-29 07:42
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