低体温療法の有効性(2021年新知見) [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
the New England Journal of Medicine誌に、
2021年6月17日掲載された、
心停止後の患者さんに対する低体温療法の有効性を、
通常体温を目標とした場合と比較した臨床試験についての論文です。
病院の外で心停止した意識障害の患者は死亡リスクは高く、
死を免れても重篤な後遺症を残すことが多いことが知られています。
2002年のHACA研究という有名な介入試験があり、
そこでは心室細動・粗動で心停止した患者に対して、
患者の体温を32から34℃に維持することを目標として、
温度管理を行なう低体温療法を、
特にそうした処置を行なわない場合と比較しています。
その結果、半年後の死亡率や重篤な後遺症の発生率は、
いずれも低体温療法群で有意に改善していました。
他にも幾つかの臨床試験において、
同様の結果が報告され、
低体温療法は脳障害の回復促進のために有用である、
という考え方が一気に広まり、
臨床的にも推奨される流れとなったのです。
ところが…
2013年に発表されたTTM研究という介入試験があり、
それは院外での心停止後の患者さんに対して、
33℃を目標とした低温療法の温度管理と、
36℃を目標とした温度管理を比較したものでしたが、
今回は低体温療法は通常体温を目標とした場合と比較して、
明確な優位性を示すことが出来ませんでした。
低体温療法は有効ではないのでしょうか?
1つのポイントは2002年の試験と比較して、
温度管理の方法が2013年の試験では格段に進歩している、
という点にあります。
2002年の研究においては、
通常体温を目標とした治療群でも、
実際には発熱者が多く含まれていました。
つまり、低体温と発熱という比較においては、
明らかに低体温の方が予後が良いのですが、
発熱さえなければ、
必ずしも低体温にする必要はないのでは、
という疑問が生じているのです。
今回の研究はTTM2研究と題されているもので、
2013年のTTM研究の続編的性質のものです。
心原性もしくは不明の原因により、
病院の外で心停止を来たし昏睡状態となった、
トータル1900名の患者をくじ引きで2つの群に分けると、
一方は33℃を目標とする低体温療法を28時間持続し、
もう一方は37.5℃未満を目標とする平温療法を矢張り同時間持続して、
その後6ヶ月の時点での予後を比較検証しています。
その結果、
最終的に解析された1850名のうち、
低体温療法群925名中の50%に当たる465名が死亡していて、
一方で平温療法では、
925名中48%に当たる446名が死亡していました。
両群には有意な差はなく、
重篤な後遺症についても同様に有意な差はありませんでした。
つまり、今回の臨床試験においても、
33℃を目標とした低体温療法と、
37℃未満を目標とした平温療法との間には、
患者の予後に有意な差は見られませんでした。
この結果はただ、心停止後の患者さんの体温管理が、
重要ではない、という結果ではありません。
以前の心停止後の救命率は25%程度というデータがありますから、
今回の50%という救命率は、
体温管理の重要性を示すものでもあるのです。
問題は正常な体温より温度を低くすることの意味で、
実際には低体温にすることよりも、
発熱を予防して正常体温を維持することが、
心停止後の患者の救命のためには重要であることを、
今回の結果は示唆するもののように思われます。
今後こうした知見を元に、
より明確な治療指針が、
示されることを期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
the New England Journal of Medicine誌に、
2021年6月17日掲載された、
心停止後の患者さんに対する低体温療法の有効性を、
通常体温を目標とした場合と比較した臨床試験についての論文です。
病院の外で心停止した意識障害の患者は死亡リスクは高く、
死を免れても重篤な後遺症を残すことが多いことが知られています。
2002年のHACA研究という有名な介入試験があり、
そこでは心室細動・粗動で心停止した患者に対して、
患者の体温を32から34℃に維持することを目標として、
温度管理を行なう低体温療法を、
特にそうした処置を行なわない場合と比較しています。
その結果、半年後の死亡率や重篤な後遺症の発生率は、
いずれも低体温療法群で有意に改善していました。
他にも幾つかの臨床試験において、
同様の結果が報告され、
低体温療法は脳障害の回復促進のために有用である、
という考え方が一気に広まり、
臨床的にも推奨される流れとなったのです。
ところが…
2013年に発表されたTTM研究という介入試験があり、
それは院外での心停止後の患者さんに対して、
33℃を目標とした低温療法の温度管理と、
36℃を目標とした温度管理を比較したものでしたが、
今回は低体温療法は通常体温を目標とした場合と比較して、
明確な優位性を示すことが出来ませんでした。
低体温療法は有効ではないのでしょうか?
1つのポイントは2002年の試験と比較して、
温度管理の方法が2013年の試験では格段に進歩している、
という点にあります。
2002年の研究においては、
通常体温を目標とした治療群でも、
実際には発熱者が多く含まれていました。
つまり、低体温と発熱という比較においては、
明らかに低体温の方が予後が良いのですが、
発熱さえなければ、
必ずしも低体温にする必要はないのでは、
という疑問が生じているのです。
今回の研究はTTM2研究と題されているもので、
2013年のTTM研究の続編的性質のものです。
心原性もしくは不明の原因により、
病院の外で心停止を来たし昏睡状態となった、
トータル1900名の患者をくじ引きで2つの群に分けると、
一方は33℃を目標とする低体温療法を28時間持続し、
もう一方は37.5℃未満を目標とする平温療法を矢張り同時間持続して、
その後6ヶ月の時点での予後を比較検証しています。
その結果、
最終的に解析された1850名のうち、
低体温療法群925名中の50%に当たる465名が死亡していて、
一方で平温療法では、
925名中48%に当たる446名が死亡していました。
両群には有意な差はなく、
重篤な後遺症についても同様に有意な差はありませんでした。
つまり、今回の臨床試験においても、
33℃を目標とした低体温療法と、
37℃未満を目標とした平温療法との間には、
患者の予後に有意な差は見られませんでした。
この結果はただ、心停止後の患者さんの体温管理が、
重要ではない、という結果ではありません。
以前の心停止後の救命率は25%程度というデータがありますから、
今回の50%という救命率は、
体温管理の重要性を示すものでもあるのです。
問題は正常な体温より温度を低くすることの意味で、
実際には低体温にすることよりも、
発熱を予防して正常体温を維持することが、
心停止後の患者の救命のためには重要であることを、
今回の結果は示唆するもののように思われます。
今後こうした知見を元に、
より明確な治療指針が、
示されることを期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2021-06-22 05:56
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