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初期アルツハイマーアミロイドアミロイドプラーク抗体薬の効果(第2相臨床試験) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
アミロイド抗体の有効性.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2021年3月13日ウェブ掲載された、
アルツハイマー病の新薬の臨床試験結果(第2相)についての論文です。

認知症の代表であるアルツハイマー病と、
アルツハイマー型老年認知症では、
脳の実質に老人斑と呼ばれる異常な蛋白の沈着が認められます。

この沈着物の主体は、
アミロイドβ蛋白質であることが分かっています。
アミロイドβ蛋白質は、
アミロイド前駆体蛋白質(APP)が、
βセクレターゼとγセクレターゼという、
2種類の酵素により分解され、
異常に折り畳まれた結果として生じる、
ということが明らかになっています。

APP自体には何らかの生理的な役割がある筈ですが、
あまり明確にはなっていません。

いずれにしても、
アミロイドβ蛋白質の産生が抑制されれば、
その神経細胞への沈着が起こらず、
アルツハイマー病の進展が予防され、
その治癒に結び付くのではないか、
という仮説が成立します。

ただ、これは人間で明確に証明されているような事実ではありません。

これまでにアミロイドそのものに対する抗体や、
アミロイド産生に関わる酵素の阻害剤など、
アミロイドの脳への沈着を抑制するような薬剤が多く開発され、
臨床試験が行われましたが、
現時点で実際に臨床応用されている薬剤はありません。

その要因には色々な考えがあり、
アミロイドの沈着はアルツハイマー病の真の原因ではないのではないか、
というものもあり、
またこれまでの臨床試験は主に中等度から高度の認知症を、
その対象としていたので、
それではもう手遅れなのではないか、
というような意見もあります。

今回臨床試験が施行されたドナネマブは、
沈着したアミロイドプラークに、
特異的に結合する抗体製剤で、
この薬を初期のアルツハイマー病に使用して、
長期の経過をみているという点が、
今回の臨床試験の特徴です。

画像検査などでアミロイドの沈着が認められ、
MMSE(ミニメンタルテスト)という一般的な認知症の指標が、
20点から28点という軽症のアルツハイマー病の患者、
トータル257名を、
本人にも主治医にも分からないように、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方はドナネマブを4週に1回筋注し、
もう一方は偽の注射を施行して、
1年半(72週)という比較的長期の経過を比較しています。

その結果、
画像上のアミロイドプラークは、
使用群で明確に減少し、
iADRSという認知機能と日常生活能力を併せた指標による、
アルツハイマー病の進行度は、
使用群で32%有意に抑制されていました。
ただ、MMSEなどの個別の認知症の指標については、
明確な差は見られませんでした。
アミロイドプラークの減少に伴い、
脳浮腫などの異常所見が使用群で有意に多く認められましたが、
その多くは無症状でした。
今回の試験ではアミロイドプラークが一定レベル以上減少した時点で、
薬の投与は安全のため中止されています。

このように、
これまでの同種の薬剤の臨床試験と比較して、
一次目標で一定の有効性が確認され、
有害事象も概ね許容範囲内に留まったという意味では、
今回の臨床試験結果は今後に期待を持たせるものですが、
本当にこの薬剤の使用が認知症治療の切り札の1つになるかどうかは、
今後より長期かつ大規模な検証が必須と考えられます。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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