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瀬尾まいこ「そして、バトンは渡された」 [小説]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
そして、バトンは渡された.jpg
最近は小説というと、
映画の予習で読むことが多くて、
この小説は2019年本屋大賞受賞作ということで、
本屋大賞受賞作というのは、
基本的には僕向きではないことが多いので、
スルーすることにしているのですが、
映画が公開されるということで、
その予習として読むことにしました。

それと言うのも、
複雑な家庭環境の女子高生を主人公とした、
単純な家族の感動物語なのかと思っていたら、
映画の予告では、
「この家族には命懸けで守っている秘密がある」
みたいなナレーションがあって、
キャストが号泣したり茫然としたりしているので、
これはひょっとしたら、
誰かと誰かをこうした関係と思っていたら、
実は本当はこれこれであったのを、
何十年も隠していたのよ、
みたいな、驚いて感動みたいな話なのかしら、
東野圭吾の「秘密」みたいなあれかしら、
と妄想が膨らんでしまい、
それなら読まねばと思って、
連休を利用して、
結構じっくり読んでみました。

そうしたらね…

勿論悪くはなかったのですよ。
とても素晴らしい作品ではあって、
上白石萌音さん絶賛ということで、
それはさぞや感動されたことでしょう、
良かったですね、という感じなのですが、
あまり僕向きの話ではなくて、
つまり家族と人間の絆の素晴らしさを高らかに歌い上げるという、
本屋大賞受賞にふさわしい、
王道の作品であって、
特に内容にひねりなどはなく、
ラストは結婚式ですから「秘密」と同じなのですが、
別に秘密が明らかになるようなことはなく、
そのまま終わってしまいました。

オープニングだけ語り手が変わるんですね。
それって、如何にも叙述トリックがありそうでしょ。
意味もなく少し期待をしてしまったのですが、
別にそうした意味ではありませんでした。

ただ、勿論このお話はそれで良いのですよね。
映画の宣伝の仕方が酷いだけなのです。
こういうミスリードな宣伝は絶対しちゃいけないですよね。
まあ映画を見たら、原作にないどんでん返しがあって、
実は私が本当のお母さんなのよ、みたいに言われたり、
僕と君とは実は兄弟なんだよと言われたり、
僕はもう10年前に死んでいるんだよ、
みたいに言われたら、それはもうびっくりしますが、
多分そうしたことはないのだと思います。

以下少しネタバレがありますので、
これから読まれる予定の方は、
読了後にお読みください。

主人公は幼い時に母親に捨てられるのですね、
まあ義母ではあるのですが、
本当の母親は3歳の時に亡くなっているので、
母親と言って良い人に捨てられるんですね。
普通「その恨みを持ち続けて…」みたいなお話が定番でしょ。
それがそうならないんですね。
あのお母さんのおかげで、
いつも笑っていられる人になれた、
みたいに肯定しているんですね。
そんなことあるかよ、という気もチラリとするのですが、
主人公の造形に説得力があるので、
なるほど、と感じる部分もあるのです。

で、その主人公が、
高校生になって、
30代の男性を「父親」にして、
2人だけの家族で暮らしているんですね。
東大出のエリートサラリーマンで変人で、
一生結婚出来なさそうな人なんですが、
それを主人公を捨てた奔放な母親が、
敢えて選んで家族にしてしまったんですね。

なるほど。
評判になるだけあって、
その人間関係の捻り方と、
人物の配置の仕方に妙がありますね。
途中で主人公はイジメにあうのですが、
それを若い「父親」に全部話すんですね。
別に話したから解決する訳ではないのですが、
全て話しているうちに、
そう大したことのないことのように、
思えて来て、
そのうちに大したことなくなってしまうんですね。

これも、
「そんなことあるかよ。イジメってもっと底なし沼だぜ」
というようにチラリと思うのですが、
これはこれでいいんですね。
「隠さずに家族に話せばイジメも解決する」
というお話なので、
そのままだと、
そりゃないよ、と思うのですが、
その家族を何回目かのお父さんにして、
それも変人にしているのがクレヴァーなんですね。

つまり、不自然な設定を、
敢えて重ねることで自然に感じさせてしまう、
という結構な荒業なのです。

これ映画にするなら誰をキャスティングしますかね?

先に映画の予告を一度見てしまったのですが、
不思議と誰が出ていたのか忘れてしまったので、
もう一度考えてみました。

主人公は清原果耶さんか中山杏奈さん辺りかしら。
本当は本物の17歳を、
オーディションで選びたいところですね。
わざとらしくしたくないですもんね。
変人のお父さんは、
これはもう田村健太郎さんの一択なんですね。
読んでいてそのイメージしか浮かびませんでした。
二度目のお金持ちのお父さんは小日向文世さん。
奔放な義母が難しいのですが、
瀧内公美さんが今だと悪くないのじゃないかしら。
後は「Mother」の印象があるので、
長澤まさみさんも、
悪くないかも知れません。

それで映画のサイトで答え合わせをすると、
「ああーっ…」という感じでしたね。
特に主人公と義母のキャストは、
気持ちは分かりますが、
無理がありますよね。

そんな訳であまり僕向きの小説ではなかったのですが、
それなりに楽しむことが出来ました。
この小説がお好きな方には、
失礼があったかも知れません。
個人の好みということで、
お許し頂ければ幸いです。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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