SSブログ

新型コロナウイルス変異株検査への提言 [仕事のこと]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

今日は新型コロナウイルス関連の話題です。

4月21日の朝のニュースを見ていたら、
4月20日の東京の新型コロナウイルス感染症の患者は、
711名報告され、
検査数は6435件、
変異株は初めて100例を越え、
115例が報告された、
という報道がありました。

これね、皆さんはどう理解をされますか?

多分、711例の感染者のうち、
115例が変異株であった、
と理解されるのではないでしょうか?

でもそれは違うんですね。

こちらをご覧ください。
変異ウイルス発生届.jpg
こちらが東京都健康安全研究センターを介した、
4 月20日夜の時点での、
変異株の報告をまとめた資料です。

全体で322件の検査をして、
そのうち115件が変異株であった、
と記載されています。
その内訳は東京都の機関である、
東京都健康安全研究センターで検査された事例が77件で、
そのうちの19件が陽性、
民間の検査機関(含む大学など)で検査された事例が245件で、
そのうちの96件が陽性です。

これは敢くまで4月19日夜の報告以降で、
判明した数を示しているものなのですね。
その全てが陽性者の711名の中に含まれているのかどうかは、
分からない訳です。

東京都健康安全研究センターの検査というのは、
保健所を介して行われた検査の中から、
抽出されたものという説明になっています。
つまり、クラスターなどの事例で、
施設や病院、学校などでの検査が、
その主体ではないかと思われます。
この場合はN501YとE484K両方のスクリーニングをして、
それから遺伝子解析も全例ではないのでしょうが、
自前でやっているようです。
こちらはそのまま東京都に直接報告される分ですね。

それから、残りの245件の検査というのは、
主にクリニックが委託しているような、
検査会社が変異株の検査をしている分です。

これは感染症研究所から、
なるべく変異株の検査をして下さい、
というお願いというか依頼が来ているのですね。
ただ、それは義務ではないし、命令でもないので、
個々の検査会社は「やれる分だけ仕方なくやっている」
というのが実際なのです。
検査会社によって、
真面目なところは全例に近く検査をしているようですし、
不真面目というか儲け主義のところは、
あまり検査はしていないのです。

検査は主にN501Yのみが行われているようで、
遺伝子解析までは勿論やってはいないのです。

こうした検査会社での検査は、
依頼した僕達のような医療機関の指示とは、
全く無関係に行われています。
その結果は依頼した医療機関には直接開示はされず、
時には実施されたかどうかさえ説明はされません。
そして、全て感染症研究所に報告され、
感染症研究所がとりまとめた上で、
保健所に改めて報告されるという段取りです。

711例中322例の検査がされているとすれば、
これは半数は検査をされているということになります。
そうした理解をされている方も多いかと思いますが、
それは違うのですね。
変異株検査にはタイムラグがありますし。
報告も発生数とは異なり、毎日ではないのですね。
ここ数日は毎日に近く報告されていますが、
その前は数日毎か1週間に1回程度でした。
集計がバラバラなので正確な数字は分かりませんが、
現状でも4分の1程度しか変異株の検査はされていないと思います。

しかも、問題なのは誰の検査をするのかは、
検査会社によって恣意的に選択されていて、
依頼した医療機関の意向も反映されていませんし、
逆に無作為に抽出されている、
という訳でもないということです。

要するにこの数字から、
全体としての変異株流行の広がりや頻度を、
科学的に推定することは不可能だということです。

東京の場合2月くらいには殆ど報告事例はないのですが、
これは検査をされた事例自体がとても少ないので、
その頃は本当に変異株が少なかったのか、
それとも同じくらいあったのに検査がされていないためなのか、
それも全く分からないのです。

こんな状態で本当に良いのでしょうか?

良い訳がありません。

そこで僕の現時点での提言ですが、
少なくとも行政検査を受託している検査会社は、
全ての陽性事例でもれなく変異株の検査をするべきだと思います。

これは不可能ではないのです。
検査会社によっては、
もう既に全例検査をしているからです。

それを多くの検査会社が今していないのは、
単純にそうした明確な指示がないからです。

行政検査は自費検査と比べれば遙かに高い価格で受託されています。
値引きはされず全て公費で賄われています。
一方で3000円の自費検査があるにも関わらずです。
勿論3000円できちんとした精度管理がされているとは到底思えませんから、
その価格設定は論外ですが、
今検査がシステム化され大量に行われているのに、
今の価格設定も別の意味で法外だと思います。

何が言いたいかと言えば、
行政検査を受託している検査会社は大きな利潤を出しているのです。
端的に言えば大儲けしているのです。
そうであるなら、
陽性の事例全例で変異株の検査をしても、
これはもう罰は当たらないのではないでしょうか?

いや、公共の福祉の観点から言って、
やるべきではないでしょうか?

PCR検査をもっと増やせと声高に言う人は多くいますが、
何故か変異株の検査を陽性例で全例やれ、
という声はそれほど大きくは聞こえて来ません。

しかし、実際には無症状の人に闇雲に行うRT-PCR検査より、
変異株の検査を陽性事例全例で行う方が、
今の感染状況を正確に判断し、
有効な対策に結びつけるためには、
遙かに有効な方法であると思います。

変異株に感染した患者は、
若年で持病がなくても重症化している、
というような言い方がされていますね。

しかし、そこに科学的根拠がどれだけあるのでしょうか?

メディアに登場する病院の医師は、
自分の病院の入院患者のみの経験から、
割と平気でそうした発言をされていますが、
それは敢くまで少数例の患者を診ての「感想」に過ぎない知見ですよね。

医者も科学者の端くれであるなら、
自分の経験を根拠なく一般化して、
一般の方の不安を煽るような行為は、
慎むべきではないかと個人的には考えます。

それから英国型や南アフリカ型という言い方をしないで、
N501Y変異とか、E484K変異という言い方を多用していますよね。

これも不適切な言葉の使い方のように思います。
N501Yというのは多くの変異株が持っている点変異、
と言っているに過ぎませんよね。

英国型というのは、501Y.V1(B.1.1.7)、
南アフリカ型というのは501Y.V2(B.1.351)という名称があり、
それはN501Y変異を含む複数の変異を持つ変異株のことです。
この2種類の変異株はかなり異なる性質を持っているので、
これを一括りにN501Y変異株として扱うのは、
誤解を招くもので適切なものとは思えません。
まっとうな英文の論文で、
そうした言い回しを僕は目にしたことがありません。

こうした言い方をするのは、
多くの変異株の検査がN501Yのみを検出しているためで、
厚労省の資料などを読めば、
勿論正しいことが書かれているのですが、
一般に報道されている情報などをみると、
「N501Y」という独立の変異株があるように誤解されていて、
この点は解析の方法論にも問題はありそうです。

変異株の知見は、
それほどの裏付けがないまま1人歩きしているという感があり、
これは日本国内に限りませんが、
行政の責任者や政治家は、
感染の急拡大を、
自分の施策の責任ではなく、
「変異株が悪いのだ」という言い方で、
責任転嫁の道具にしているように感じます。

そうした言説を許さないためにも、
もっと正確なデータと知見を元に、
変異株の意味と対策が、
より科学的になされることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(3)  コメント(0) 

nice! 3

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。