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「騙し絵の牙」(2021年映画版) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
騙し絵の牙.jpg
三島由紀夫の怪作「美しい星」や、
カルト漫画の「羊の木」を映画化するなど、
スタイルは80年代のテレビドラマのような雰囲気ながら、
一癖も二癖もあるいびつで奇妙な映画を作る吉田大八監督が、
塩田武士さんの「騙し絵の牙」を映画化し、
今ロードショー公開されています。

これね、大泉洋さんをイメージモデルにした原作は、
刊行時に読んだのですが、
申し訳ないのですが物凄く詰まらない小説でした。
出版界の内幕ものなのですが、
目新しいところは全くないし、
ラストのどんでん返しと称するものは、
こちらも何の驚きもないものでした。

なのでこの作品を吉田大八監督が映画化すると聞いて、
これは大泉洋さんが映画にスライドするという話題優先の企画で、
この原作ではとても面白くなる筈がない、
と思い、あまり期待はせずに映画館に足を運びました。

ところがどうして、
これがなかなかの力作でした。

これね、全く原作とは別物なんですね。
大泉洋さんの役柄と雑誌の名前が一緒であるだけで、
後は全く別のオリジナルなストーリーが展開されます。

ここまで変えてしまって、
果たして原作者の塩田さんは、
納得されているのかしら、と、
その点は少し不安になりますが、
結果としては大正解で、
吉田監督の世界が自由自在に展開されています。

これは活字好きの人、
本好きの人のための映画なんですね。

「花束のような恋をした」は、
サブカル愛に満ちたその葬列のような映画でしたが、
この「騙し絵の牙」は、
本と創作への愛に満ちた、
矢張りその葬列のような映画です。

こうした文化はね、
もう瀕死の状態にあるという認識なんですね。
それを美しく飾って、
送り出してあげよう、というような映画なんです。

舞台は傾き掛けた老舗の出版社で、
廃刊の危機にあるエンタメ情報誌の編集長の大泉洋さんが、
本好きの若手編集者、松岡茉優さんと組んで、
埋もれていたサブカルや文学のアングラな才能達を、
闇の中から次々と掘り起こしてゆきます。
ベテランのたかり作家をたらし込むのは序の口で、
1作のみで姿を消した天才作家を、
奇想天外な方法で捜索したり、
アイドルが実はガンマニアで変態小説の名手だったりと、
発想も素敵ですし、
1つ1つのエピソードが実に手が込んでいます。
何度か思わず手を叩きたくなるような場面がありますし、
その裏に本や小説への愛が、
息づいているのがいいんですよね。

勿論得体の知れない大泉さんも良いのですが、
若手編集者役の松岡茉優さんが、
いつものことながらとても素晴らしくて、
時々散漫にもなりがちなストーリーに、
1つの大きな核を作っています。

ラストは甘い展開になるのが減点ポイントですが、
多分僕の観た吉田作品では最も心に残る力作で、
特に本好きの方には絶対の贈り物と言って良い映画です。

お時間があれば是非。
これは見逃したら勿体ないですよ。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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