「帰還不能点」(劇団チョコレートケーキ第33回公演) [演劇]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
劇団チョコレートケーキの新作公演が、
今池袋のシアターイーストで上演されています。
最近は太平洋戦争を素材に扱うことが多いチョコレートケーキですが、
今回は日中戦争の泥沼から日米開戦に至る、
日本の指導層の政治判断の誤りを、
当時模擬内閣で政策研究に従事した、
当時のエリートの若者のその後を描いて、
「負けることの分かっている戦争を何故止められなかったのか」
という苦悩に収斂される物語です。
総力戦研究所や模擬内閣という、
あまり知られていない挿話から、
過去の失敗を実証的に突き詰めようとする辺り、
いつもながら作者の切り口は鮮やかです。
近衛文麿や東条英機、松岡洋右の行動を検証するのに、
当時の若手官僚が敗戦5年後の1950年に居酒屋に集まり、
そこで過去を回想して、
劇中劇として演じるという凝った構成です。
複数の俳優が同じ人物を演じたりもするので、
普通ゴタゴタとして観づらくなるところですが、
若手官僚としてもキャラが立っていて、
役者さんの芝居も非常にくっきりとしているので、
すんなりとその世界を咀嚼出来る点がさすがです。
この辺り、作者と演出、
演者のチームプレイの勝利という感じがします。
後半は戦争拡大を止められなかった責任を悔いて、
静かに死んで行った1人の官僚の死に収斂し、
ラストはもう一度模擬裁判が行われて、
模擬内閣として対米戦を止めるところで終わります。
戦後史の勉強にもなりますし、
工夫されていて面白く観られるお芝居です。
ただ、こうした作品ではいつものことですが、
今の感覚で当時を断罪しているようところがあり、
「戦争自体がより身近なものとして存在していた」
当時の現実をやや無視しているような感じはあります。
1950年を「現在」としている作品なのですから、
登場人物たちにもっと1950年に出来ることを、
模索して欲しかったように個人的には思いました。
確かに1人の官僚の死が描かれますが、
随分と象徴的な描かれ方で、
扱いもやや唐突でこなれていない印象はありました。
また、敗戦が悪ということになると、
勝てば善ということになり、
戦争自体の否定には繋がらないのではないか、
というような疑問も感じました。
また、ラストには世論操作をして、
世間の戦争熱を冷まそう、
というような趣旨の台詞があり、
作者の考える「正義」の一貫性に、
ちょっと揺らぎを感じるような部分もありました。
昭和16年の南部仏印侵攻が仮に中止されたとして、
その時点でドイツと縁を切り、
中華民国と講和交渉をしていたらどうなったのか、
本当に米国との関係は改善した可能性があるのか、
仮想世界としてはその後がどうなったのか、
その後も描いて欲しかったというようにも感じました。
そんな訳で如何にも劇団チョコレートケーキらしい、
力感あふれる知的なお芝居でした。
ただ、最近の作品は以前と比べて、
内容の振り幅は小さく、
観客を選ぶ芝居になっているという点は、
ちょっと残念にも思いました。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
劇団チョコレートケーキの新作公演が、
今池袋のシアターイーストで上演されています。
最近は太平洋戦争を素材に扱うことが多いチョコレートケーキですが、
今回は日中戦争の泥沼から日米開戦に至る、
日本の指導層の政治判断の誤りを、
当時模擬内閣で政策研究に従事した、
当時のエリートの若者のその後を描いて、
「負けることの分かっている戦争を何故止められなかったのか」
という苦悩に収斂される物語です。
総力戦研究所や模擬内閣という、
あまり知られていない挿話から、
過去の失敗を実証的に突き詰めようとする辺り、
いつもながら作者の切り口は鮮やかです。
近衛文麿や東条英機、松岡洋右の行動を検証するのに、
当時の若手官僚が敗戦5年後の1950年に居酒屋に集まり、
そこで過去を回想して、
劇中劇として演じるという凝った構成です。
複数の俳優が同じ人物を演じたりもするので、
普通ゴタゴタとして観づらくなるところですが、
若手官僚としてもキャラが立っていて、
役者さんの芝居も非常にくっきりとしているので、
すんなりとその世界を咀嚼出来る点がさすがです。
この辺り、作者と演出、
演者のチームプレイの勝利という感じがします。
後半は戦争拡大を止められなかった責任を悔いて、
静かに死んで行った1人の官僚の死に収斂し、
ラストはもう一度模擬裁判が行われて、
模擬内閣として対米戦を止めるところで終わります。
戦後史の勉強にもなりますし、
工夫されていて面白く観られるお芝居です。
ただ、こうした作品ではいつものことですが、
今の感覚で当時を断罪しているようところがあり、
「戦争自体がより身近なものとして存在していた」
当時の現実をやや無視しているような感じはあります。
1950年を「現在」としている作品なのですから、
登場人物たちにもっと1950年に出来ることを、
模索して欲しかったように個人的には思いました。
確かに1人の官僚の死が描かれますが、
随分と象徴的な描かれ方で、
扱いもやや唐突でこなれていない印象はありました。
また、敗戦が悪ということになると、
勝てば善ということになり、
戦争自体の否定には繋がらないのではないか、
というような疑問も感じました。
また、ラストには世論操作をして、
世間の戦争熱を冷まそう、
というような趣旨の台詞があり、
作者の考える「正義」の一貫性に、
ちょっと揺らぎを感じるような部分もありました。
昭和16年の南部仏印侵攻が仮に中止されたとして、
その時点でドイツと縁を切り、
中華民国と講和交渉をしていたらどうなったのか、
本当に米国との関係は改善した可能性があるのか、
仮想世界としてはその後がどうなったのか、
その後も描いて欲しかったというようにも感じました。
そんな訳で如何にも劇団チョコレートケーキらしい、
力感あふれる知的なお芝居でした。
ただ、最近の作品は以前と比べて、
内容の振り幅は小さく、
観客を選ぶ芝居になっているという点は、
ちょっと残念にも思いました。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2021-02-28 08:51
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