「すばらしき世界」 [映画]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当します。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
西川美和監督の新作は、
佐木隆三さんの「身分帳」を元にして、
人生の大半を刑務所で過ごした初老の元ヤクザが、
今の生きづらい社会で奮闘する様を、
悲喜こもごもに描いた力作です。
これは前半は素晴らしかったですね。
今村昌平監督の映画を観ているみたい。
話自体も「うなぎ」に似ていますしね。
と言うか、まあ同じですね。
意図的なのでしょうが、
昔の骨太日本映画のタッチなんですね。
映像も凝りに凝っていて、
主人公の生い立ちを8ミリっぽい映像で見せるのですが、
物凄いリアルですよね。
最初の音効が入るきっかけもゾクゾクしますし、
主人公が安アパートの部屋からぼんやり外を見ているカット、
奥の家の緑の壁面が素敵でしょ。
ちょっとしたところに、
物凄い拘っていることが分かります。
原作は読んでブログ記事にもしたのですが、
しっかり完結しているという内容ではなくて、
主人公の人生が、
少し前向きになって来たかな、
というところで終わるんですね。
それで終わってもそれはそれで良かったのじゃないかな、
というようには思うのですが、
映画としては確かに弱いですよね。
また、原作は昭和61年が舞台なのですが、
それを映画は2019年にしているんですね。
これはまあ、「身分帳」の主人公を、
現代にタイムスリップしてもらって、
今の社会と格闘してもらう、
という作品であると思うので、
その部分はオリジナルでないとまずいのですね。
それで、映画は途中で、
山田洋次的ハッピーエンドが描かれて、
「これでまさか終わりじゃないよね」
という気分にさせるのですが、
そこからちょっとタッチが変わって、
原作を離れて、
主人公が「現代」に立ち向かい、
ある意味無残に敗北する姿が描かれて、
複雑な余白を残しながら、
主人公の死まで描いて映画は終わります。
西川監督、かなり悩み抜き、
考え抜いたのだろうな、
という気はするのですね。
空気を読まずに、自分の倫理観で、
全てを割り切り暴力も辞さないという主人公が、
自分の意見を最後は押しとどめ、
結局その後には死しか残らないのですね。
どうなのかしら。
ちょっとモヤモヤするラストですよね。
黒澤明監督の後期の映画に出て来る、
ちょっとくどくて中途半端なヒューマニズムと、
同じような欲求不満の感じがありますね。
矢張り迷わず、
スパッと何かを断ち切るようなラストにして欲しかったな、
というように個人的には思いました。
原作はノンフィクション的なフィクションなので、
主人公はその性格を変えることは一切ありませんし、
補足的なエッセイを読んでも、
結局はトラブルを起こして周囲を困らせながら、
そのまま死んでいったようです。
西川監督がそれを変えたかった、という意図は分かるのですが、
作品を観た感想としては、
そのままの方が良かったのに、
とどうしてもそう思ってしまいました。
また、
原作の主人公は、ばりばりの活動家で、
刑務所でも待遇改善の訴訟を起こしたり、
どちらかと言えば保守寄りの過激派なんですね。
ヤクザで活動家というのがあの時代ならではで、
それが彼の倫理観の根っこにあるのですが、
映画は時代を現代にしてしまったので、
その設定自体がなくなってしまい、
主人公の思想的なこだわりが見えにくい、
という欠点はあったように思います。
他にも昭和61年の話を現代にしているので、
主人公の生い立ちの部分とか、
ヤクザの兄貴分に会いに行くところとか、
ちょっと違和感がありますね。
現代でやるには、
綻びと無理があったようにも感じました。
後主人公が心電図を撮る場面があるのですが、
電極を付ける位置が違いますよね。
「ディアドクター」の時も思いましたが、
西川監督は、
あまり医療考証みたいなものには関心がないようです。
そんな訳で西川監督らしい骨太の意欲作で、
非常に面白い映画ですし、
前半だけなら全ての方にお勧めしたい傑作なのですが、
ラストは監督の迷いも感じられ、
少しモヤモヤする気分が残りました。
でも、一見の価値は充分にあります。
お勧めです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当します。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
西川美和監督の新作は、
佐木隆三さんの「身分帳」を元にして、
人生の大半を刑務所で過ごした初老の元ヤクザが、
今の生きづらい社会で奮闘する様を、
悲喜こもごもに描いた力作です。
これは前半は素晴らしかったですね。
今村昌平監督の映画を観ているみたい。
話自体も「うなぎ」に似ていますしね。
と言うか、まあ同じですね。
意図的なのでしょうが、
昔の骨太日本映画のタッチなんですね。
映像も凝りに凝っていて、
主人公の生い立ちを8ミリっぽい映像で見せるのですが、
物凄いリアルですよね。
最初の音効が入るきっかけもゾクゾクしますし、
主人公が安アパートの部屋からぼんやり外を見ているカット、
奥の家の緑の壁面が素敵でしょ。
ちょっとしたところに、
物凄い拘っていることが分かります。
原作は読んでブログ記事にもしたのですが、
しっかり完結しているという内容ではなくて、
主人公の人生が、
少し前向きになって来たかな、
というところで終わるんですね。
それで終わってもそれはそれで良かったのじゃないかな、
というようには思うのですが、
映画としては確かに弱いですよね。
また、原作は昭和61年が舞台なのですが、
それを映画は2019年にしているんですね。
これはまあ、「身分帳」の主人公を、
現代にタイムスリップしてもらって、
今の社会と格闘してもらう、
という作品であると思うので、
その部分はオリジナルでないとまずいのですね。
それで、映画は途中で、
山田洋次的ハッピーエンドが描かれて、
「これでまさか終わりじゃないよね」
という気分にさせるのですが、
そこからちょっとタッチが変わって、
原作を離れて、
主人公が「現代」に立ち向かい、
ある意味無残に敗北する姿が描かれて、
複雑な余白を残しながら、
主人公の死まで描いて映画は終わります。
西川監督、かなり悩み抜き、
考え抜いたのだろうな、
という気はするのですね。
空気を読まずに、自分の倫理観で、
全てを割り切り暴力も辞さないという主人公が、
自分の意見を最後は押しとどめ、
結局その後には死しか残らないのですね。
どうなのかしら。
ちょっとモヤモヤするラストですよね。
黒澤明監督の後期の映画に出て来る、
ちょっとくどくて中途半端なヒューマニズムと、
同じような欲求不満の感じがありますね。
矢張り迷わず、
スパッと何かを断ち切るようなラストにして欲しかったな、
というように個人的には思いました。
原作はノンフィクション的なフィクションなので、
主人公はその性格を変えることは一切ありませんし、
補足的なエッセイを読んでも、
結局はトラブルを起こして周囲を困らせながら、
そのまま死んでいったようです。
西川監督がそれを変えたかった、という意図は分かるのですが、
作品を観た感想としては、
そのままの方が良かったのに、
とどうしてもそう思ってしまいました。
また、
原作の主人公は、ばりばりの活動家で、
刑務所でも待遇改善の訴訟を起こしたり、
どちらかと言えば保守寄りの過激派なんですね。
ヤクザで活動家というのがあの時代ならではで、
それが彼の倫理観の根っこにあるのですが、
映画は時代を現代にしてしまったので、
その設定自体がなくなってしまい、
主人公の思想的なこだわりが見えにくい、
という欠点はあったように思います。
他にも昭和61年の話を現代にしているので、
主人公の生い立ちの部分とか、
ヤクザの兄貴分に会いに行くところとか、
ちょっと違和感がありますね。
現代でやるには、
綻びと無理があったようにも感じました。
後主人公が心電図を撮る場面があるのですが、
電極を付ける位置が違いますよね。
「ディアドクター」の時も思いましたが、
西川監督は、
あまり医療考証みたいなものには関心がないようです。
そんな訳で西川監督らしい骨太の意欲作で、
非常に面白い映画ですし、
前半だけなら全ての方にお勧めしたい傑作なのですが、
ラストは監督の迷いも感じられ、
少しモヤモヤする気分が残りました。
でも、一見の価値は充分にあります。
お勧めです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2021-02-13 06:08
nice!(6)
コメント(1)
先生こんにちは。
今日,健康診断で休みを取ったので,帰りに観てきました。
途中ちょっと泣いたりもしたのですが,観終わると確かにモヤモヤしますね。
なんだろう,もう少し描いてほしかったのかな,わりと物足りない感じがしました(120分なので時間は十分なんですけど)。
後日もう1回観てきます。自分の中で今は評価が定まりません。
by midori (2021-02-15 17:25)