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頸動脈エコーによる検診の有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
頸動脈エコーの有効性.jpg
JAMA誌の2021年2月2日号に掲載された、
無症状の頸動脈狭窄のスクリーニングの意義についての、
アメリカ予防医学作業部会(USPSTF)がまとめた、
ガイドラインの解説記事です。

頸動脈の狭窄というのは、
主に動脈硬化が原因となって、
脳に血液を運ぶ血管である頸動脈が、
狭くなるという病態のことです。

このうち無症状性頸動脈狭窄は、
虚血性梗塞や一過性脳虚血発作、
それ以外の頸動脈狭窄に由来するような神経症状を、
伴わない頸動脈狭窄症のことです。

以前は頸動脈の狭窄を発見するには、
聴診器で頚部に雑音を聴取することが、
重要な所見であると教科書に記載されていました。
その確定診断には血管造影という検査が必須でした。
しかし、超音波検査が進歩し、
ドップラーによる血流測定も、
クリニックレベルで気軽に施行可能となって、
その発見頻度は急速に増加しました。

日本では人間ドックなどの詳細な健診において、
この頚部の超音波検査が、
動脈硬化の診断のための検査として行われています。

しかし、こうした検査にはどの程度の健康上の意義があるのでしょうか?

実はUSPSTFは2014年に既に、
この問題についての提言をまとめていて、
その結果は「推奨度D」、
つまり明確に推奨しない、というものになっています。

それは何故なのでしょうか?

頸動脈に有意な狭窄があるということは、
全身的な動脈硬化の1つの現れ、
というようには考えることが出来ます。
ただ、それは高血圧や脂質異常症、肥満など、
他の危険因子と比較してより有用、
というものではありません。

実際に頸動脈に有意な狭窄があっても、
脳への血管は4本ありますから、
すぐに脳への血流が減るという訳ではありません。
最も危険なのは頸動脈に不安定な血栓があって、
それが脳に飛ぶというリスクですが、
そうした事例がそれほど多いということはありません。

つまり、症状のない不特定多数の人に検診として超音波検査をすることが、
余り効率的な検査であるとは言えないのです。

一方で頸動脈の検査をして狭窄が見付かった場合には、
その程度によって血管造影などの精査を行い、
頸動脈の動脈硬化巣を切除したり、
バルーンで膨らませて拡張したり、
ステントを挿入するような治療が行われることがあります。
ただ、その有効性については、
心臓の冠動脈のような精度の高い臨床データはなく、
むしろ術前術後の合併症や後遺症などのリスクが、
少なからず認められる、
というような報告すらあります。

この両者を天秤に掛けた時、
無症状性頸動脈狭窄のスクリーニング検査は、
現時点ではそのデメリットの方が、
明確にメリットより大きい、
というのが今回再検証された提言においても、
USPSTFのこの問題に対する結論となっていました。

勿論、現行人間ドックなどで行われている頸動脈エコーが、
全て有害だ、ということではありません。
症状が疑われる時に行われる検査は、
有用性のあることは間違いありませんし、
他の検査と併せて検証されることで、
全身的な動脈硬化の進行予防のために、
節度を持って使用されるのであれば、
これも一定の有効性があると思われます。

問題は検査自体よりもその使用法であって、
この検査に脳卒中自体の予防効果はなく、
それが過剰診断や過剰治療に結び付き易いという事実は、
知っておく必要があると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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