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甲状腺癌のリスクに関わる母胎の変化(北欧4カ国の疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
妊娠と甲状腺癌リスク.jpg
Lancet Diabetes & Endocrinology誌に、
2020年12月18日ウェブ掲載された、
母親の妊娠中などの状態が、
子供の甲状腺癌のリスクに与える影響についての論文です。

甲状腺癌の有病率は世界的に上昇していますが、
その主な要因は超音波検査などによる検診の増加によるもので、
実際に癌の頻度自体が増加しているのかどうか、
という点については明確な結論は得られていません。

ただ、たとえば乳癌の発症年齢の中間値が62歳で、
肺癌のそれが71歳であるのに対して、
甲状腺癌の発症年齢の中間値は51歳と明らかに若く、
女性に多いという明確な性差があり、
小児発症も稀ではないという特徴があります。

このことは、
何らかの妊娠中の影響や、
母胎の状態が発症に関与しているという可能性を示唆しています。

ただ、現状で確立されている甲状腺癌の危険因子は、
肥満と小児期の被ばくのみで、
それ以外の危険因子についてのデータは限られたものしかありません。

今回の研究は、
国民総背番号制が導入されている北欧4カ国
(ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、デンマーク)において、
母胎の状態や妊娠中の環境要因が、
その後の子供の甲状腺癌の発症に、
どのような影響を与えたいたかを大規模に検証したものです。

トータルで2437件の甲状腺癌が診断され、
その81.4%に当たる1967例は乳頭癌でした。
性差では77.1%に当たる1880名が女性で、
56.7%に当たる1384名が30歳になる前に診断されていました。

その発症のリスクとして、
母親の体重が1キロ多いほど1.14 倍(95%CI: 1.05から1.23)、
母親が先天性甲状腺機能低下症であると4.55倍(95%CI:1.58から13.08)、
母親が産後出血をすると1.28倍(95%CI: 1.06から1.55)、
それぞれ有意に甲状腺癌の発症リスクが増加していました。

またデンマークのデータのみの解析として、
母親に甲状腺機能低下症があると18.12倍(95%CI: 10.52から31.20)、
甲状腺機能亢進症があると11.91倍(95%CI: 6.77から20.94)、
甲状腺腫があると67.36倍(95%CI: 39.89から113.76)、
良性甲状腺腫瘍があると22.50倍(95%CI: 6.93から73.06)、
それぞれ有意に子供の甲状腺癌のリスクは増加していました。

今回明確になったことは、
母親に甲状腺疾患があると、
明確にお子さんの将来的な甲状腺癌リスクは増加するということと、
母胎の肥満や産後出血などの状態も、
影響する可能性が高いということです。

その過剰診断や過剰治療のリスクを考えると、
お子さんの甲状腺癌の検診は必ずしも推奨されるものではありませんが、
今後リスクの高い対象に絞って検査を行うことは、
1つの有効な選択肢ではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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