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変異型新型コロナウイルス(SARS-CoV-2 VUI 202012/01)のまとめ(ECDC) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
変異ウイルスの詳細.jpg
これは欧州疾病予防センター(ECDC)が、
2020年12月20日に出したレポートですが、
昨日のBritish Medical Journalの記事より詳しく、
イギリスで急激に増加している、
新型コロナウイルスの変異型ウイルス、
VUI 202012/01(これは2020年12月に最初に見つかった変異ウイルス、という意味です)
についてまとめているものです。

この変異型ウイルスは、
その突起(スパイク)の部分に、
多くの変異が見られるという特徴があります。
具体的には69、70、144番目のアミノ酸の欠損、
N501Y、A570D、D614G、P681H、T716I、
S982A、D1118Hという複数のスパイク蛋白部の変異が、
複合的に認められている点がその特徴です。

このうち特に注目されるのはN501Yという、
点遺伝子変異で、
この変異は丁度ウイルスが人間の細胞のACE2受容体と、
結合する部位(receptor binding domain )にあるからです。
この変異は実験的なデータにおいては、
ウイルスの細胞への感染感受性を、
高める可能性が示唆されています。

この変異ウイルスが注目されているのは、
イギリス南東部において2020年10月以降に、
急激な感染者の増加が認められ、
ウイルスの遺伝子解析を行ったところ、
この変異ウイルスの急激な比率の増加と相関していたからです。
12月19日にイギリスのジョンソン首相はその演説の中で、
この変異ウイルスが実効再生産数(R1)を0.4増加させ、
感染感受性を70%増加させる可能性がある、
と語っています。
これは専門家の見解を元にした発言ですが、
現時点では上記レポートにおいても、
そのソースとして示されているのは、
ジョンソン首相のスピーチだけです。
この変異ウイルスが本当に、
これまでの新型コロナウイルスより強い感染力を持っているかどうかは、
今後の研究データなどの開示を待つ必要がありそうです。

ウイルスは常に部分的な遺伝子変異を繰り返しているので、
変異ウイルスが出現すること自体は、
それほど珍しいことではありません。
むしろ当たり前のことです。
ただ、今回問題の変異ウイルスは、
多くの変異を同時に有していて、
それが非連続的に、
突然に出現して急激に増加したように見える、
という点が特異な点です。

それでは、どのようにしてこの変異ウイルスは出現したのでしょうか?
1つの可能性は免疫の低下した患者の体内で、
持続的に新型コロナウイルス感染が続き、
その過程で免疫をすり抜けるような遺伝子変異が蓄積し、
出現したという可能性が指摘されています。
もう1つの可能性は新型コロナウイルスが一旦他の動物に感染し、
その体内で変異したウイルスが、
再び人間に感染したというものです。
デンマークで今回の変異ウイルスと同じ、
幾つかの変異を共有するウイルスが発見されていることは、
この可能性を補強するものです。
ただ、現時点でこの変異ウイルスが、
イギリスの外から入って来たことを、
明確に占めるような証拠はありません。

色々な意味で注目される今回の変異ウイルスですが、
まだ不明の点ばかりであるのが実際です。
今後の検証を冷静に待ちたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

(付記)実効再生産数の表記が、
基礎再生産数と誤って記載されていたため、
その点を修正しました。
(2021年1月17日午後2時修正)
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