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「Go To トラベル」と新型コロナウイルス感染症との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
GOTOと感染拡大.jpg
査読前の論文を公開するサイトである、
medRxivに2020年12月5日掲載された、
東大などの研究者らによる疫学論文で、
「Go Toで感染拡大?」と、
報道もされ政治的にも議論になっている、
件の論文の原文です。

これは内容的にはですね、
楽天の登録者に送られた、
メールのアンケートみたいなものを元にしているのですね。

224389名にアンケートを送信して、
12.5%に当たる28000名から回答を得て、
内容が不自然なものを除外して、
25482名のデータを解析しています。

アンケートは8月下旬から9月末に掛けて行われていて、
その時点から1か月以内に、
新型コロナウイルス感染症を疑わせる症状、
具体的には高熱、咽頭痛、咳、頭痛、味覚嗅覚障害が、
認められたかどうかと、
その人が「Go To トラベル」を利用したかどうかを、
比較検証しているものです。

その結果、「Go To トラベル」を利用しない場合と比較して、
利用した場合には、
高熱が生じるリスクが1.90倍(95%CI:1.40から2.56)、
咽頭痛のリスクが2.13倍(95%CI:1.39から3.26)、
咳のリスクが1.97倍(95%CI: 1.28から3.03)、
頭痛のリスクが1.26倍(95%CI:1.09から1.46)、
味覚嗅覚障害のリスクが2.01倍(95%CI:1.16から3.49)、
それぞれ有意に増加していました。

年齢に分けての検証を行うと、
15から64歳では「Go To トラベル」使用者での、
リスク増加は認められましたが、
65歳から79歳という高齢者では、
そうしたリスクの増加は認められませんでした。

これね、例数は確かにかなり多いのですが、
あまり精度の高い研究ではありませんよね。

もともとのアンケートも今回の研究のためのものではありませんし、
新型コロナウイルス感染症と診断された人のデータではなく、
症状を聞き取りしただけで、
それに結び付けるのはかなり無理筋です。
丁度「Go Toトラベル」の盛り上がっていた時期ですから、
楽天のアンケートに答えるような人で、
利用した率が多いことは当然ですし、
利用するような人は、
他の社会活動や娯楽にも、
活発に参加していたと思いますから、
多変量解析するにしても、
「Go Toトラベル」だけをやり玉に挙げるのは、
かなり強引だと思います。

データをみますとね、
頭痛の症状などは、
「Go Toトラベル」を利用した人の29.4%、
しない人の25.5%にもあるのですね。
この集団、ちょっと症状のある人が多過ぎませんかね。
現物のアンケートを確認していないので何とも言えませんが、
ちょっと聞き方に問題があるように思います。

この論文はデータはこれしかないのですが、
考察の部分は結構饒舌なのですね。

その趣旨はですね、
経済と感染対策の両立を図る時に、
「Go Toトラベル」のような施策は重要であるけれど、
それで感染が広がる結果になっては元も子もないので、
感染リスクの低い集団のみで行うのが望ましい、
という考えなんですね。
具体的には感染を伝播し易い若い世代は、
若い世代のみで活用して、
65歳以上の高齢者は、
一緒に活用はしない方が良いのでは、
「ステイホーム」しているべきでは、
という提言になっているのです。

論文では「Go Toトラベル」によって感染が広がった可能性がある、
とそこは結構はっきり言っているのですね。
これだけのデータでそこまでは言い過ぎじゃないかしら、
というくらいの表現になっているのです。
ただ、それじゃ「Go Toトラベル」やめろ、
ということではなくて、
高齢者を除外するなどプランを練り直すのが良いのでは、
というように言っているのです。

結構政治的に踏み込んでいますし、
実際にそうした対策が今の傾向として、
政治的にも考えられていますよね。

おそらく著者に近い辺りからのアドバイスが、
働いている部分があるように思います。

従って、メディアや政党の一部が煽っているような、
「Go To トラベル」否定の論文ではこれはないのです。
仮に原文を読んでもなお、
そうした主張をしている人がいるとすれば、
ちゃんと読めていないか、
読めているのに敢えて曲解していのかのいずれかなのです。

個人的は見解としては、
意義のある研究であることを否定はしませんが、
かなり雑な研究であることは確かですし、
査読を受けて一流どころの雑誌に掲載される可能性は、
高くはないように思います。
そして結論についてはデータの不確かさから考えれば、
ちょっと踏み込み過ぎの考察になっているように思いました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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nakayama toshio

いつも興味深く読ませていただいております。
さて、統計学は初心者級ですので、ご教示ください。
今回の調査の様な場合、エビデンスを明らかにするためには、
どの様な統計手法が有効なのでしょうか?

by nakayama toshio (2020-12-12 07:08) 

fujiki

nakayama toshioさんへ
いつもお読み頂きありがとうございます。
矢張り感染増加を云々するのであれば、
発熱のような症状ではなく、
COVID-19と診断された事例を解析しないと、
あまり意味がないように考えます。
感染リスクを増加させるような行為を解析するという意味では、
単独の「Go To」という政策を、
そのリスク因子とするのはあまり適切ではないように思いました。
むしろ「県を超えた移動」などと、
COVID-19感染との関連を検証して、
そこに関連があれば、
「Go To」との関係が時期的に示唆される、
というような趣旨の方が良かったのではないでしょうか?
by fujiki (2020-12-13 07:51) 

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