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降圧剤選択における人種と年齢の影響(イギリスのプライマリケアデータ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
高血圧の治療薬と人種差.jpg
British Medical Journal誌に、
2020年11月18日ウェブ掲載された、
高血圧治療薬の第一選択薬を選ぶ条件として、
年齢と人種差について検証したイギリスの論文です。

通常本態性高血圧症の薬物治療において、
第一選択薬として考えられているのは、
カルシウム拮抗薬、
ACE阻害剤やARBのレニン・アンジオテンシン系の拮抗薬、
少量の利尿剤の3種類です。
この3種類のうちどれを選択しても、
基本的には問題はないのですが、
個々の患者さんの臓器などの状態により、
適宜担当医が調整を行う、
というのが通常の方法です。

ところがイギリスのガイドラインは、
他とはちょっと違っていて、
年齢が55歳未満であればACE阻害剤かARBが第一選択で、
55歳以上であればカルシウム拮抗薬が第一選択となり、
カルシウム拮抗薬が副作用などで使用困難であれば、
利尿剤を代用する、という記載になっています。

これは、年齢と共にレニン・アンギオテンシン系の反応は低下するので、
高齢者ではACE阻害剤やARBの有効性は低下する、
という知見を元にしています。

イギリスのガイドラインの一部には、
更に人種差についての記載もあり、
黒人種ではカルシウム拮抗薬や利尿剤を、
第一選択として考えるべき、とされています。
これもは白人種と比較して、
レニン・アンギオテンシン系の反応が低下している、
という知見がその元になっています。

ただ、いずれも理論的はそうだ、
というだけのもので、
実際に臨床で使用された降圧剤の種類により、
その有効性の違いがあることが確認されている、
という訳ではありません。

そこで今回の研究では、
イギリスのプライマリケアの医療データを活用して、
新規に3種類の降圧剤を開始した患者の血圧の1年間の推移を、
年齢や人種で比較検証しています。

ACE阻害剤やARBを開始した87440名、
カルシウム拮抗薬を開始した67274名、
そして利尿剤を開始した22040名を、
1年間観察したところ、
糖尿病のない非黒人種の対象者において、
治療開始後12週の時点では、
55歳未満でACE阻害剤やARBより、
カルシウム拮抗薬の方が収縮期血圧の低下は大きく、
55歳以上でも明確ではないもののそうした傾向が認められましたが、
52週の時点の解析ではそうした違いは有意には認められませんでした。

年齢階層別に解析すると、
75歳以上の群においては、
全経過でカルシウム拮抗薬の使用で、
ACE阻害剤やARBより収縮期血圧の低下が、
有意に大きく認められましたが、
それ以外の群では有意な差は認められませんでした。
カルシウム拮抗薬とサイアザイド系利尿剤との比較では、
全体においてカルシウム拮抗薬の収縮期血圧低下作用が、
より強く認められましたが、
その差は使用期間が長くなるにつれて小さくなり、
1年後には明確ではありませんでした。

糖尿病のない非黒人種と比較して黒人種では、
ACE阻害剤やARBと比較した時の、
カルシウム拮抗薬の収縮期血圧低下作用が、
より強く認められましたが、
ばらつきが大きく明確な差とまでは言えませんでした。

このように、
年齢や人種でレニン・アンギオテンシン系の感受性が変わり、
治療効果が薬剤で異なるとする、
今のイギリスのガイドラインの考え方は、
必ずしも実臨床で確認はされませんでした。

理屈と現実とは同じではないようで、
今後こうしたデータを元に、
ガイドラインも変更されることになるかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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