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佐木隆三「身分帳」 [小説]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも須田医師が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
身分帳.jpg
2021年に西川美和監督が、
「すばらしき世界」という題名で公開する新作映画の原作、
佐木隆三さんの「身分帳」を、
この間の連休に読みました。

これは不遇な生い立ちから10代から犯罪を繰り返し、
その半生の殆どを刑務所の中で過ごした、
実在の人物の満期出所後の人生を描いた作品で、
佐木隆三さんは実際にその人物と交流し、
取材を重ねてこの作品を書き、
モデルとなる人物が生きているうちに刊行されているのですが、
主人公の名前は変えられていますし、
実際には主人公に介入していた作者の存在は、
ないものとして書かれています。
つまり、事実を元にしてはいますが、
ノンフィクションではなく小説なのです。

主人公はかなり癖の強い人物ですし、
暴力沙汰や訴訟、恫喝は日常茶飯事ですから、
ある程度は本人を美化する部分がないと、
本を出すことに同意が得られるとは思えません。
従って恣意的に事実は改変された部分はありそうです。
こうした手法は、
現在ではおそらく成立しないもののように思います。

その是非についてはともかくとして、
作品自体は非常に魅力的です。
驚くほど純粋で理論的でもありながら、
直情的で暴力的で抜き身の刀のような部分のある主人公の造形は、
実在の人物ならではの凄みがあります。
周辺の市囲の住民との交流が、
また滋味深く素敵なのです。
清濁併せ飲むというのか、
個々の人物がとても人間的に、
良いところも悪いところもあり、
またその時々の気分によって、
相手に対する対応も変わる人物として、
良い意味でも悪い意味でもいつも態度の一貫している主人公と、
明瞭な対照を見せています。

映画版ではこの主人公を、
役所広司さんが演じるとのことで、
これはもう当代の役者さんの中では、
間違いなくベストのキャスティングなので、
とても愉しみです。

ただ、映画は原作の昭和61年という時代背景を、
現代に移すとしていて、
その点は非常に心配です。

果たしてこの、
如何にも昭和という物語が、
現代で成立するのでしょうか?

今の時点では、
とても成立しないように思いますが、
そこは手練れの西川美和監督のことですから、
見事に換骨奪胎された「身分帳」の世界を、
まずは期待して公開を待ちたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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