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癌の治療の遅れと生命予後(コロナ禍の医療の問題) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
がんの治療遅れと死亡リスク.jpg
British Medical Journal誌に2020年11月4日ウェブ掲載された、
癌の診断後の治療の遅れが、
患者さんの生命予後に与える影響についての論文です。
何故かPDFファイルが入手不可だったので、
まとめ画像でのご紹介です。

癌は進行性の病気なので、
癌と診断された場合には、
速やかに治療を行う必要があります。

ただ、たとえば手術が必要であるとして、
病院で手術が可能な件数というものがありますし、
手術を行うのは人間ですから、
当然順番に行うということになり、
それなりの待機時間というものが必要になります。

通常の進行度の癌の場合、
1週間や2週間の違いが生死を分ける、
というようなことは考えにくいのですが、
それが1か月になり2か月になるとどうか、
というように考えると、
問題はそう単純ではありません。

特に今大きな問題となっているのは、
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響です。

院内感染が起これば病棟閉鎖や手術中止となりますし、
そうしたことがなくても、
新型コロナの診療を優先する観点から、
患者数が急増すれば、
通常の手術件数は減らさざるを得ない、
というような状況が生じます。

実際にクリニックを受診されて、
腎臓癌と診断されたある患者さんは、
手術予定の病院で新型コロナの院内感染が発生したため、
当初の予定が2か月延期となってしまいました。

こうした延期により、
その患者さんの生命予後には、
どれほどの影響があるのでしょうか?

臨床上では非常に重要な問題ですが、
実際にはこれまでそうした点についての、
精度の高いデータはあまり存在していませんでした。

今回の研究はこれまでの臨床データをまとめて解析した、
システマティックレビューとメタ解析ですが、
この問題についての1つの見方を提供しているものです。

手術の遅れや集学的治療の遅れなど、
様々な条件のデータを解析したところ、
そのうちの13の条件で、
治療の遅れによる有意な死亡率の増加が認められました。

データのあるのは、
膀胱癌、乳癌、大腸癌、頭頚部癌、非小細胞肺癌の、
5種類の癌ですが、その手術が4週遅れる毎に、
死亡リスクは6から8%の幅で増加が認められました。
乳癌が8%と最も高く、
膀胱癌、大腸癌、頭頚部癌が6%、
非小細胞肺癌のみ有意な増加は認められませんでした。

一方で手術以外の放射線治療や集学的治療の遅延については、
データにかなりばらつきが大きく、
中では頭頚部癌に対する放射線治療が、
4週遅れる毎に9%の死亡リスクの増加に繋がっていました。

このように、
特に乳癌の手術や頭頚部癌の放射線治療において、
4週を超えて治療が遅延することで、
その生命予後に与える影響は大きく、
こうしたデータを元にして、
患者さんに大きな不利益が生じないように、
コロナ禍においての適切な治療プランが、
練られることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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