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「朝が来る」(河瀬直美監督映画版) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも須田医師が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
朝が来る.jpg
独特の絵作りで、
唯一無二の世界を表現し続けている河瀬直美監督が、
ドラマ化もされた辻村深月さんの小説を、
題材とした新作を作り、
今ロードショー公開されています。

不妊治療や特別養子縁組を扱い、
ミステリー色もある原作ですが、
今回の映画版は14歳の少女の転落の道筋を、
極めて鮮烈かつ丁寧に描いて、
奈良、広島、東京の日本を駆け巡る、
如何にも河瀬監督らしい感動作に仕上がっています。

これは河瀬監督としては「あん」以来の、
素直に共感出来る傑作で、
個人的にも「あん」に次いで好きな1本です。

河瀬監督はオリジナルより、
原作ものがいいですね。
河瀬監督の演出スタイルは極めて独特で、
編集も通常とは異なっているので、
オリジナルではその意図を掴むことが、
かなり困難であることが多いのですが、
こうした原作ものでは、
基本的にシンプルな物語が描かれていて、
それが1つの核となっているので、
比較的その世界を理解しやすいのです。

この映画もまあ、
離ればなれになった母子の再開という、
極めてベタなストーリーなのですが、
神話的と言って良いような河瀬流演出によって、
ある種普遍的な人間ドラマとしての輝きを放っています。
もともと扇情的で極私的でドロドロした世界で、
実際深夜ドラマではそんな感じになっていたと思うのですが、
それが何か崇高な輝きを放つのが、
河瀬マジックの面白さです。

音のみの流れるオープニングから、
海の水面と風の表現が続くと、
「ああ、河瀬監督の世界だな」という感じです。
通常の編集とは異なるリズムで、
羽目絵細工のように自然の風景と人間のアップ、
幻想的な都会の情景などが重ね合わされ、
逆光から溶け出した光は、
キスをする2人のアップを、
光の中で融合させます。
役者の台詞はあたかもノンフィクションドラマを思わせますが、
却ってリアリティがないという、
奇妙な感覚を醸成しています。

その個性が往々にして観客の生理を、
置き去りにしてしまうことも多いのですが、
今回はストーリーが明確であるので、
時間のパズルが後半になって、
別の顔を見せ始めるのがとても効果的で、
最後まで観ると、
すぐにもう一度観たいという思いに繋がりました。

キャストは少女役の女優さんが抜群で、
浅田美代子さんの雰囲気もとても素敵です。
かつて大根と呼ばれていたのが、
信じられないような深みのある芝居でした。
永作博美さんは結果的に少し損な役回りですが、
その実力を発揮していたと思います。

そんな訳で河瀬監督としては「あん」以来の、
「通俗的な傑作」で、
監督の特質も良く表れた会心作ではないかと思います。

とてもお勧めですが、
河瀬監督作品が初めてという方は、
その独特の様式に戸惑って、
物語に入り込めないかも知れません。
何作か観ている方であれば、
これはもう文句なくお勧めですし、
「あん」がお好きな方であれば、
絶対の贈り物と言っていいと思います。

いい映画ですよ。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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