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急性虫垂炎の抗菌剤治療の有効性(2020年アメリカの臨床データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
盲腸の治療法と予後.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2020年10月5日ウェブ掲載された、
急性虫垂炎の初期治療についての論文です。

急性虫垂炎(盲腸)の初期治療は、
以前は手術治療が第一選択でしたが、
抗菌剤の進歩と高解像度のCT検査などによる診断の進歩により、
抗菌剤による治療も第一選択として検討されるようになりました。

近年発表された幾つかの臨床試験において、
抗菌剤治療を第一選択とする治療も、
虫垂を切除する手術治療に遜色のない有効性と安全性とが、
確認されたこともその方針の後押しをしています。

現状ヨーロッパにおいては、
急性虫垂炎の初期治療として、
手術と抗菌剤の治療はほぼ同等の扱いとなっていますが、
アメリカではまだ手術による治療が、
スタンダードである点は変わりがないようです。

今回の研究はアメリカの複数施設で行われたもので、
腹膜炎などの合併症のない急性虫垂炎に対して、
抗菌剤による治療と虫垂切除術の予後を比較検証しています。
これまで除外されていた虫垂結石症も、
対象としている点が特徴で、
ヨーロッパの同種の試験と同じように、
治療後1年までの経過を観察する予定でしたが、
新型コロナウイルス感染症の拡大のため、
90日という短期の結果を確認した時点で終了となっています。

アメリカでは急性虫垂炎の治療は手術が主体ですが、
新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、
手術の実施は困難なケースが増え、
結果として抗菌剤治療の持つ意義が、
大きくなったという側面もあるのです。

対象は穿孔などの合併症のない急性虫垂炎の患者、
トータル1552名で、
アメリカの複数施設で登録され、
その中の414名が虫垂結石症を合併していました。
対象者はくじ引きで2つの群に分けられ、
一方は抗菌剤治療を優先し、
もう一方は手術を優先して、
その後90日までの経過を比較検証しています。

抗菌剤はまず注射として、
エルタペネム(カルバペネム系)かセフォキシチン(第2世代セフェム系)を、
1回のみ使用し、
その後10日間、
メトトニダゾール(フラジール)に加えて、
シプロフロキサチン(ニューキノロン系)もしくは、
セフジニル(第3世代セフェム系)を経口で使用する、
というのがスタンダードで、
それ以外にも幾つかのオプションがあり。
適宜薬剤は状況により変更がされています。

その結果、
30日の時点での臨床的予後には、
抗菌剤使用群と手術群との間で、
明確な差は認められませんでした。

抗菌剤使用群では90日までに、
29%が結果的には手術を施行されていて、
そのうちの41%は虫垂結石症を合併していました。
虫垂炎に伴う合併症は抗菌剤治療群で頻度が高くなっていましたが、
その多くは虫垂結石症に伴うもので、
虫垂結石症の認められないケースでは、
その頻度は手術群と差は見られませんでした。

このようにこれまでで最も大規模で、
かつより重症の事例も含まれた検証において、
抗菌剤による初期治療は、
虫垂切除術と比較して、
短期間の予後に明かな差を認めませんでした。

ただ、病状の悪化や再発などのリスクは、
手術より抗菌剤治療の方が高いことは間違いなく、
特に虫垂結石症のある場合には、
抗菌剤のリスクはより高くなることが想定されました。

この問題はまだ解決されたとは言えませんが、
今後どのような事例に抗菌剤治療を優先させるべきなのか、
より詳細な議論が必要となるようです。

ちなみに日本で虫垂結石の合併は比較的稀とされていて、
アメリカの状況とは異なっている部分があるようです。
おそらくは食生活の影響と思われますが、
詳細は不明です。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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