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肥満減量手術(バリアトリック手術)の長期生命予後 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
バリアトリック手術の長期予後.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2020年10月15日掲載された、
肥満減量手術の長期の生命予後についての論文です。

肥満減量手術はバリアトリック手術(Bariatric Surgery)と呼ばれ、
高度の肥満が社会問題となっている欧米では、
古くから行われている減量法です。
最も一般的なのは胃の容量を縮小する手術で、
それ以外に胃癌の胃切除手術のように、
部分切除した胃と小腸を倍パウするなど、
多くの方法が考案されています。
日本においては2014年から、
腹腔鏡下スリーブ状胃切除術が肥満減量手術として、
保険適用となっています。
ただ、欧米と比較して高度の肥満が少ない日本で、
現状その施行はまだ限られています。

減量手術は物理的に胃に入る食事の量を減らすので、
摂取カロリーは減り、体重減少効果のあることは間違いありません。
しかし、栄養素の吸収などは低下する可能性がありますから、
長期的にそれが健康寿命の延長に結び付くかどうかは、
この手術が始まって長期間の経過を観察しないと、
明確にはならない事項です。

今回の検証は肥満減量手術が多く行われているスウェーデンにおいて、
肥満減量手術を受けた2007名と、
肥満手術の適応はありながら、
保存的治療を選択した2040名、
そして、年齢などをマッチングさせた肥満のない一般住民、
1135名がコントロールとして比較されています。

肥満群の登録時の年齢は37から60歳で、
肥満の指標のBMIは、
男性は34以上、女性は38以上となっています。
かなり高度の肥満の事例です。

手術群で中間値24年、保存治療群で中間値22年、
という長期の経過観察を行った結果、
観察期間中に手術群の22.8%に当たる457名と、
保存的治療群の26.4%に当たる539名が死亡していて、
肥満減量手術によりその後の死亡リスクは、
23%(95%CI: 0.68から0.87)有意に低下していました。
個別の死因では、
心血管疾患による死亡リスクは30%(95%CI:0.57から0.85)、
癌による死亡リスクは23%(95%CI: 0.61から0.96)、
それぞれ有意に低下していました。

保存的治療に比較して、
高度の肥満者に手術療法を施行すると、
中間値で3.0年(95%CI:1.8から4.2)余命が延長していました。
しかし、肥満のない一般住民との比較では、
手術群でもその余命は5.5年短縮が認められました。

このように高度の肥満者に肥満減量手術を行うと、
長期的に生命予後の改善効果が確認されました。
ただ、それでも肥満のない人と比較するとまだ、
少なからず寿命の短縮は認められていて、
肥満の治療は決して手術だけでは解決はしない、
という点にも留意する必要があると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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