BCGワクチンの高齢者感染予防効果 [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
Cell誌に2020年8月31日ウェブ掲載された、
BCGワクチンの高齢者での感染予防効果についての論文です。
BCGワクチンというのは、
牛の結核菌由来の生ワクチンで、
結核の予防ワクチンとして開発されました。
そのまま他のワクチンのように接種すると、
皮膚が腫れあがったり水疱が出来るような副反応が強いので、
日本では独特の剣山のような器具を用いて、
複数の針を皮膚に押し当て、
判子を押すようにして注射する方法が開発され使用されています。
ただ、これは日本とその器具を輸入して使用している、
一部の国のみの接種法です。
日本では定期接種として、
1歳未満のお子さんの時期に接種が行われていますが、
こうした接種スケジュールも、
一部の結核の流行国以外では行われていません。
それはBCGを一旦打ってしまうと、
結核菌に対する身体の免疫が活性化されるので、
結核に実際に感染した際の診断が難しくなってしまうことと、
このワクチンの成人の結核の予防効果は、
充分に確認されていない、
という点がその主な理由です。
BCGワクチンは牛の結核菌を使用するという、
古い製法によるワクチンで副反応が強く、
その効果も現代の目で見るとそれほど高いものではないのです。
しかし、その後BCGを超える結核予防ワクチンが、
登場していないこともまた事実で、
そのためにやや消極的に使用されている、
というのが実際である訳です。
ところが…
BCGワクチンには、
結核予防以外に有効性があるのでは、
という見解が、
最近相次いで報告されるようになりました。
その幾つかは以前ブログでもご紹介しています。
複数の疫学研究において、
出生時にBCGワクチンを接種することにより、
子供の死亡リスクが減少する、
という報告が存在しています。
その後の解析によりこれは結核の予防効果のためではなく、
お子さんの時期の敗血症や呼吸器の感染症が、
トータルに減少したためと考えられています。
動物実験においても、
BCG接種がその後の死亡リスクを低下させ、
結核以外の細菌感染を予防するという結果が報告されています。
BCGはまた、
癌に対して非特異的免疫療法としても、
その効果が確認されています。
膀胱癌への補助的治療としてのBCGの効果は、
世界的に評価されている知見です。
更に疫学データにおいては、
出生時のBCGワクチンの接種が、
肺癌のリスクを低下させたという知見もあります。
それでは、
何故結核ワクチンのBCGが、
他の多くの感染症や癌に対して効果があるのでしょうか?
免疫には、
対象を選ばず相手を攻撃する自然免疫と、
相手に合わせて抗体を産生し、
次に同じ病原体の攻撃を受けた際には、
速やかに対応する獲得免疫という2種類があります。
これまでの研究により、
BCGは自然免疫の賦活による効果と、
獲得免疫の賦活による効果の、
両方があると想定されています。
最近になってBCGワクチンが注目されているのは、
新型コロナウイルス感染症(Covid-19)に対しても、
BCGワクチンには一定の予防効果があるのではないか、
という考え方があるからです。
今回の臨床試験は、
ギリシャの総合病院で行われたもので、
65歳以上で病院に入院した患者を退院時に登録し、
本人にも実施者にも分からないように、
2つの群に分けると、
一方はBCGワクチンを1回接種し、
もう一方は偽のワクチンを同じように接種して、
退院後12ヶ月までの間に、
発熱や咳、肺炎などの感染症の所見を、
どのくらい発症したかどうかを比較検証しています。
トータルで198名の患者が登録されています。
BCGワクチンは0.1mLという少量を、
ツベルクリンのような皮内注射で接種しています。
これは副反応のリスクを減らすためと思われます。
その結果、
BCGワクチンは退院後初回の感染症発症までの期間を、
偽ワクチンと比較して有意に延長させていました。
(中間値で16週対11週)
12ヶ月の間の新規感染症の発症リスクは、
偽ワクチンと比較してBCG接種群では、
45%有意に低下していました。
感染症の中でウイルス由来と思われる呼吸器感染症が、
最もBCGワクチンによる予防効果が高く、
その発症リスクを79%(95%CI: 0.06から0.72)有意に抑制していました。
この場合のウイルス性呼吸器感染症というのは、
38度以上の発熱以外に、
咽頭炎や咳、肝脾腫などの所見のうち2つ以上を満たすもの、
と規定されているもので、
敢くまで症状のみの診断である点には注意が必要です。
この中にはCovid-19が含まれている可能性がありますが、
その比率までは分かりません。
有害事象については、
BCGワクチンと偽ワクチンとの間で、
有意な違いは認められませんでした。
このように、
今回の例数は十分とは言えませんが、
厳密な方法による臨床試験において、
高齢者へのBCGワクチンの接種は、
その後12ヶ月の感染症の発症リスクを、
かなり明確に低下させていました。
同様の臨床試験が、
複数進行していると以前発表がありましたから、
今後データが積み重なってゆくと、
この知見の真偽はより明確になると思います。
将来的には高齢者へのBCGワクチンの再接種が、
議論になるかも知れません。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
Cell誌に2020年8月31日ウェブ掲載された、
BCGワクチンの高齢者での感染予防効果についての論文です。
BCGワクチンというのは、
牛の結核菌由来の生ワクチンで、
結核の予防ワクチンとして開発されました。
そのまま他のワクチンのように接種すると、
皮膚が腫れあがったり水疱が出来るような副反応が強いので、
日本では独特の剣山のような器具を用いて、
複数の針を皮膚に押し当て、
判子を押すようにして注射する方法が開発され使用されています。
ただ、これは日本とその器具を輸入して使用している、
一部の国のみの接種法です。
日本では定期接種として、
1歳未満のお子さんの時期に接種が行われていますが、
こうした接種スケジュールも、
一部の結核の流行国以外では行われていません。
それはBCGを一旦打ってしまうと、
結核菌に対する身体の免疫が活性化されるので、
結核に実際に感染した際の診断が難しくなってしまうことと、
このワクチンの成人の結核の予防効果は、
充分に確認されていない、
という点がその主な理由です。
BCGワクチンは牛の結核菌を使用するという、
古い製法によるワクチンで副反応が強く、
その効果も現代の目で見るとそれほど高いものではないのです。
しかし、その後BCGを超える結核予防ワクチンが、
登場していないこともまた事実で、
そのためにやや消極的に使用されている、
というのが実際である訳です。
ところが…
BCGワクチンには、
結核予防以外に有効性があるのでは、
という見解が、
最近相次いで報告されるようになりました。
その幾つかは以前ブログでもご紹介しています。
複数の疫学研究において、
出生時にBCGワクチンを接種することにより、
子供の死亡リスクが減少する、
という報告が存在しています。
その後の解析によりこれは結核の予防効果のためではなく、
お子さんの時期の敗血症や呼吸器の感染症が、
トータルに減少したためと考えられています。
動物実験においても、
BCG接種がその後の死亡リスクを低下させ、
結核以外の細菌感染を予防するという結果が報告されています。
BCGはまた、
癌に対して非特異的免疫療法としても、
その効果が確認されています。
膀胱癌への補助的治療としてのBCGの効果は、
世界的に評価されている知見です。
更に疫学データにおいては、
出生時のBCGワクチンの接種が、
肺癌のリスクを低下させたという知見もあります。
それでは、
何故結核ワクチンのBCGが、
他の多くの感染症や癌に対して効果があるのでしょうか?
免疫には、
対象を選ばず相手を攻撃する自然免疫と、
相手に合わせて抗体を産生し、
次に同じ病原体の攻撃を受けた際には、
速やかに対応する獲得免疫という2種類があります。
これまでの研究により、
BCGは自然免疫の賦活による効果と、
獲得免疫の賦活による効果の、
両方があると想定されています。
最近になってBCGワクチンが注目されているのは、
新型コロナウイルス感染症(Covid-19)に対しても、
BCGワクチンには一定の予防効果があるのではないか、
という考え方があるからです。
今回の臨床試験は、
ギリシャの総合病院で行われたもので、
65歳以上で病院に入院した患者を退院時に登録し、
本人にも実施者にも分からないように、
2つの群に分けると、
一方はBCGワクチンを1回接種し、
もう一方は偽のワクチンを同じように接種して、
退院後12ヶ月までの間に、
発熱や咳、肺炎などの感染症の所見を、
どのくらい発症したかどうかを比較検証しています。
トータルで198名の患者が登録されています。
BCGワクチンは0.1mLという少量を、
ツベルクリンのような皮内注射で接種しています。
これは副反応のリスクを減らすためと思われます。
その結果、
BCGワクチンは退院後初回の感染症発症までの期間を、
偽ワクチンと比較して有意に延長させていました。
(中間値で16週対11週)
12ヶ月の間の新規感染症の発症リスクは、
偽ワクチンと比較してBCG接種群では、
45%有意に低下していました。
感染症の中でウイルス由来と思われる呼吸器感染症が、
最もBCGワクチンによる予防効果が高く、
その発症リスクを79%(95%CI: 0.06から0.72)有意に抑制していました。
この場合のウイルス性呼吸器感染症というのは、
38度以上の発熱以外に、
咽頭炎や咳、肝脾腫などの所見のうち2つ以上を満たすもの、
と規定されているもので、
敢くまで症状のみの診断である点には注意が必要です。
この中にはCovid-19が含まれている可能性がありますが、
その比率までは分かりません。
有害事象については、
BCGワクチンと偽ワクチンとの間で、
有意な違いは認められませんでした。
このように、
今回の例数は十分とは言えませんが、
厳密な方法による臨床試験において、
高齢者へのBCGワクチンの接種は、
その後12ヶ月の感染症の発症リスクを、
かなり明確に低下させていました。
同様の臨床試験が、
複数進行していると以前発表がありましたから、
今後データが積み重なってゆくと、
この知見の真偽はより明確になると思います。
将来的には高齢者へのBCGワクチンの再接種が、
議論になるかも知れません。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2020-09-07 06:06
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