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軽症および無症状の新型コロナウイルス感染症での細胞性免疫 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
メモリーT細胞とコロナウイルス.jpg
Cell誌に2020年8月14日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症の、
液性免疫(抗体産生)と細胞性免疫の乖離についての論文です。

新型コロナウイルス感染症の免疫については、
現状不明な点が多く、
それが対策の議論を混乱させる大きな要因となっています。

新型コロナウイルスに感染すると、
身体は免疫によりウイルスに対抗し、
ウイルスの駆除に成功すると、
液性免疫として血液の抗体価が上昇し、
細胞性免疫としては、
メモリーT細胞という、
新型コロナウイルスに特異的に反応する、
リンパ球が産生されます。

この免疫が適切に保持されている期間においては、
再度新型コロナウイルスが身体に侵入しても、
それは速やかに排除されるので、
病気の症状を出すには至らないのです。

この液性免疫と細胞性免疫は、
相互に関係しながらウイルスの駆除に働くので、
通常は両者が同時に活性化され維持されます。

しかし、場合によっては、
抗体価は充分上昇していても、
病気の症状が部分的に発症するようなケースや、
逆に抗体価はもう低下していても、
細胞性免疫は保たれているので、
その病気には罹りにくい、
というようなケースもあります。

たとえば、
水痘のウイルスに感染すると、
その後抗体価の上昇により、
一生水痘自体に罹るということはありませんが、
細胞性免疫の低下により、
同じウイルスの活性化による、
帯状疱疹という別の病気には、
複数回罹患するという現象が知られています。

新型コロナウイルス感染症の場合、
血液の抗体価は感染後1週間を過ぎると増加を始め、
4週間以内には中和抗体が陽性となって、
ウイルスは駆除されます。
しかし、この抗体の上昇はそれほど長期間は維持されず、
数か月で陰性化することも稀ではないと報告されています。
特に症状が軽症や無症状の感染においては、
概ね抗体価の上昇も軽度にとどまり、
抗体の上昇自体が認められないケースすら報告されています。

その一方でメモリーT細胞の活性化などの細胞性免疫は、
抗体価よりも長期間維持されるという報告があります。

今回の研究では、
スウェーデンでの感染者や無症状のその家族、
非感染者など背景の分かっている206名の血液検体を解析して、
新型コロナウイルスに対する、
液性免疫と細胞性免疫の状態を比較検証しています。

その結果、
非感染者と比較して、
感染者は無症状の患者も含めて、
細胞性免疫の機能は高度に活性化されていて、
新型コロナウイルス特異的なT細胞の活性化は、
血液の抗体価が陰性の患者においても確認されました。
更には非感染者の中にも、
一定の同様のT細胞の活性化は認められていて、
これは従来の風邪症候群の原因ウイルスである、
他のコロナウイルスの免疫が、
交差免疫として作用している可能性を示唆していました。

つまり、
軽症者や無症状の感染者においては、
液性免疫の活性化は弱く、
抗体上昇も弱いのですが、
細胞性免疫に関しては、
重症者と変わりない機能が維持されていることが、
明確に確認されたのです。

この液性免疫と細胞性免疫との乖離を、
どのように考えるのかは難しいところで、
抗体上昇はなくても一定の免疫が維持されて、
長期間再感染が起こらないのだとすれば朗報ですが、
今回のデータは決して感染しないことの証明にはなっていません。
また、ワクチン開発についても、
どのような指標を持って、
免疫が保持されたという判断をするべきなのか、
要するにワクチンの有効性をどのようにして判定するのか、
より困難になったという側面もありそうです。

今後も多くの知見が、
この問題については積み上げられてゆくと思いますが、
この感染症の本態が明確になるのは、
それほど簡単なことではなさそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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