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新型コロナウイルス感染症抑制のための有効な対策は何か? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナウイルス感染と検査スケジュール.jpg
the Lancet Infectious Diseases誌に、
2020年8月18日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症の流行を抑制するための、
効率的な検査のあり方を検証した論文です。

インペリアル・カレッジ・ロンドンの研究者によるもので、
実際の臨床データを解析したものではなく、
数理モデルを使って理論的に予想したものですが、
今最も必要とされている情報を分かり易く示した、
非常に意義のある研究です。

日本における新型コロナウイルス感染症(Covid-19)は、
明確に市中感染という状況になっています。

感染を予防するための努力は、
マスクの着用やソーシャルディスタンシングの試み、
会食などリスクのある行為を避ける、
手指消毒の励行など、
これまでにないほど草の根的に行われているのですが、
それでも流行の拡大は、
とても目に見えて収束しているとは言えない状況です。

これ以上何をするべきなのでしょうか?

今年の4月から5月のような、
原則外出や移動の禁止というような措置を取ると、
それが有る程度実行されれば感染が収束することは、
その後の経緯を見ればほぼ明らかです。

その一方でその措置を少し緩めれば、
短期間でまた感染が拡大することは、
これも現実の経緯をみれば明らかです。

ただ、経済を廻すということを考えれば、
同じような措置を今取ることは非常に難しい、
という事実が問題を深刻なものにしています。

そこで現状検討されていることは、
診断のための検査をより増やしたり、
医療従事者や介護施設の職員など、
感染を広げるリスクが非常に高い対象者に、
定期的な検査を行う、
というような対応です。

ただ、こうした方法は行き当たりばったりに行うべきではなく、
少なくとも理論的には、
一定の効果がデータに基づいて推測可能であることを前提として、
行う必要があると思います。

この場合、
どのような指標をその有効性の物差しにするべきでしょうか?

上記文献の著者らの考えでは、
それは基礎再生産数(R0)という指標です。

R0というのは、
その時点で1人の患者が何人に感染を広げるのかを、
示す数値です。

中国でまとめられた疫学データによれば、
その感染拡大初期におけるR0は、
2.2と算出されています。
その後は3を超えているという推測もあります。

この数値が1を上回っている限り感染は拡大します。

従って、感染を封じ込めるためには、
感染者を隔離するなどして、
この数値を1に近づけ、それより低下させる、
という必要がある訳です。

新型コロナウイルス感染症は、
これまでのデータより、
およそ33%が無症状の感染で、
その無症状での感染力は、
有症状の50%程度と想定されています。
こうしたデータを元にして解析を行います。

まず、各個人が、
発熱や咳、味覚嗅覚障害などの症状を自覚した時点で、
他人との接触を避ける自己隔離をするとします。
この対処によりその集団の基礎再生産数は、
47%低下させる効果が期待されます。
これはある感染者の症状が出現してから、
その感染者から感染した、
次の感染者の症状が出現するまでを、
6日間として算出されたものですが、
仮にこの期間が8日になると、
無症状の時期における感染率は42%から26%に低下し、
自己隔離による基礎再生産数の低下率は60%に増加します。

次にRT-PCR検査の施行のタイミングについてです。
こちらをご覧下さい。
PCR検査陽性率有症状.jpg
これは想定としては、
感染してから4日後からRT-PCR検査が陽性となり、
6日後から症状が出現するという図になっています。

症状出現前にも感染は起こりうるのですが、
あまり早期にRT-PCR検査を行うと、
感染していても陰性となる可能性が高く、
感染していないと油断して、
自己隔離を守らなくなるというリスクが生じます。

早く検査を行ったから良い結果がもたらされる、
とは限らないのです。

次にこちらをご覧下さい。
PCRの陽性率無症状.jpg
これは無症状の感染の場合です。
この場合も平均化すると、
接触して感染してから4日くらいでRT-PCR検査が陽性となり。
感染力は6日後くらいにピークになります。

無症状のケースが一番厄介なのですが、
濃厚接触の時期が特定されていれば、
その6日後くらいに検査をすることが、
一番陽性者を検出しやすい、
ということが分かります。
逆に接触から3日以内での検査は、
あまり意味があるとは思えません。

このデータを元に、
今度は医療従事者や介護職員に、
定期的にRT-PCR検査を行うことの有効性を考えます。

1週間に1回定期的にRT-PCR検査を行い、
その結果が24時間で出て、それを元に隔離が行われた場合、
症状が出てからすぐに自己隔離する対応と比較して、
上乗せで23%の感染予防効果が期待出来ます。
つまり、リスクの高い集団では、
スクリーニングとして週に1回検査を行うことには、
一定の意義が確認されたのです。
ただし、検査の精度は高く、
迅速に結果が出てそれに沿ってすぐに陽性者の隔離が可能、
という精度とスピード感がないとその効果は限定的です。

今回の論文では重要なポイントが幾つかあります。
まず、今ある多くの感染拡大予防策の中で、
最も有効なのは症状が出た時点で、
速やかに他人との接触を避ける自己隔離をする、
という方法です。
感染を半分近く抑制する効果があり、
あらゆる対処法のうちで現時点ではベストなのです。

これは必ずしも検査をすることとセットではありません。
検査を行うことで、
同じ症状でも別の感冒などの病気の患者を、
除外することが可能となる一方、
感染していても陰性というケースを発生させることにより、
むしろ感染リスクを増加させてしまう、
という側面もあるからです。

ただ、多くの患者さんにとって、
「感染しているかどうか分からない」という状態より、
「検査で感染が確認されています」
という状態の方がストレスが少なく、
対応しやすいことは間違いがありませんから、
検査をすることの一定の意義はあると言えるのです。

勿論中等症以上の症状が見られるケースでは、
的確に診断を行った上で治療を行う必要があります。
今回の文脈での「検査の必要性」というのは、
敢くまで感染拡大抑止に効果があるか、
という点での議論で、
個々の患者さんの予後とは無関係である点に、
注意をして頂きたいと思います。

次に無症状者への対応ですが、
無症状者に一律に、時期や間隔を決めずに検査を拡大することは、
現状ではその有効性が実際にも、理論的にも、
証明はされていないので現時点では行うべきではありません。

ただ、無症状の感染者の拾い上げに検査をすることで、
感染の広がりを抑制する可能性はあるので、
濃厚接触者については検査の意義はないとは言えません。
この場合、確率的に考えると、
接触してから6日程度で検査をすることが、
最も効率的であると考えられます。

医療従事者や介護職員など、
感染者と接触するリスクが高く、
重症になる可能性の高い対象者に、
感染させるリスクも高い集団では、
1週間に一度無症状でもRT-PCR検査をすることで、
一定レベル感染を抑制する効果が期待されます。
ただ、その場合精度の高い検査を行うことと、
検査結果が迅速(24時間以内)に得られる環境、
その結果により速やかに陽性者が隔離出来る体制作りが、
その前提として必要となるのです。

今後形はどうあれ、
スクリーニングを含めたRT-PCR検査の拡充が、
行われることになると思いますが、
それが施策全体として有効に機能するためには、
事後の処置を含めたトータルなシステム設計と、
数ではなく検査の質の担保が、
何より重要となるのではないでしょうか。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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