SSブログ

新型コロナウイルス感染症回復後の細胞性免疫 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
新型コロナの細胞性免疫.jpg
査読前の論文を公開している、
bioRxivというサーバーに2020年6月29日掲載された、
新型コロナウイルス感染症の細胞性免疫を検証した論文です。

先日、新型コロナウイルス感染症後に、
身体で産生されるウイルスに結合する抗体が、
数か月以内に陰性化する事例が少なからず見られる、
というちょっとショッキングな報告をご紹介しました。

この現象は、
抗体が陰性化した患者では、
すぐにでも再び感染する可能性がある、
というように思われがちですが、
必ずしもそうではありません。

人間の身体がウイルス感染に対処して産生する免疫には、
抗体産生に関わる液性免疫以外に、
ウイルスに特異的に反応するリンパ球を産生するような、
細胞性免疫も同時にあるからです。

液性免疫と細胞性免疫というのは、
感染予防の両輪で、
通常は同時に賦活化されますが、
その予防効果は必ずしも同時に低下する、
というものではありません。

一般的には液性免疫(抗体)よりも、
細胞性免疫(メモリーT細胞)は長く持続すると考えられています

水痘(水ぼうそう)という病気は、
一度感染すると基本的には生涯2度は罹りませんが、
細胞性免疫の低下に伴い、
帯状疱疹という別の病気が起こると考えられています。
ワクチンの有効性は、
通常は抗体の上昇で評価されますが、
何度ワクチンを打っても抗体が上昇しない、
というようなケースがあり、
その場合にも全く免疫がないという訳ではなく、
細胞性免疫は一定レベル活性化しているので、
予防効果はある、というように説明がされています。

それでは今回の新型コロナウイルス(SARS-CoV2)の感染においては、
そうした液性免疫と細胞性免疫の乖離は生じているのでしょうか?

今回の研究はスウェーデンの研究者によるものですが、
新型コロナウイルス感染症と診断され、
その病状経過も明らかになっている204名の患者に、
複数回の抗体測定と細胞性免疫の指標の測定を行い、
病状経過との比較を行なっています。

その結果、
細胞性免疫はウイルス感染に伴って活性化し、
回復後はウイルスに特異的に働くメモリーT細胞が維持されます。
細胞性免疫の活性化は、
症状が重症な事例でより強く認められます。
そして、症状が軽症であったり無症状の事例、
また抗体が陰性の濃厚接触者においても、
ウイルスに特異的なメモリーT細胞の活性化は認められていて、
このことは新型コロナウイルスに一旦接触して感染すると、
抗体が早期に陰性化したり、陽性にならなくても、
細胞性免疫の活性化自体は起こっている可能性があり、
再度の感染を予防する力が備わっている可能性がある、
ということを示唆しています。

つまり、
比較的短期間で低下することの多い抗体価のみでは、
新型コロナウイルスの免疫を、
評価することは難しいという結果です。

この現象は非常に興味深いのですが、
通常は液性免疫と細胞性免疫は免疫反応の両輪ですから、
双方が並行して活性化することが理に適っている訳です。
細胞性免疫を定量的に評価することは簡単ではなく、
そのために簡単に測定可能な抗体価で、
通常は免疫の有無を評価している訳ですが、
それが乖離があって評価が難しいということになれば、
この病気の免疫の有無を、
別の指標によって評価しなければいけないということになります。

ワクチンの効果判定も、
短期的には抗体の上昇をもって判断されていますから、
それをどう評価するべきかという点も問題です。

更には抗体が陰性で、
細胞性免疫が活性化しているようなケースで、
本当に再感染が予防出来るのかという根拠も、
まだ臨床的には明らかではありません。

従って、
今後研究がより進められ、
データが積み重ねられないと、
この現象が臨床的にどのような意味を持っているのかを、
客観的に判断することはまだ難しいのですが、
少なくとも抗体検査のみで感染の広がりや免疫の有無を把握する、
というような方法があまり意味のないものであることは、
今回の検証からもほぼ確実になったと、
言って良いように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(6)  コメント(0) 

nice! 6

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。