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高齢者の副腎不全 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は事務作業などの予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
アドレナルクライシスの臨床.jpg
2020年のLancet Diabetes & Endocrinology誌に掲載されたレビューですが、
高齢者の副腎機能低下と副腎クリーゼについての総説です。

昨日はオピオイドによる副腎機能低下の事例をご紹介しましたが、
今回は高齢者の副腎不全の総説になります。

副腎というのは両側の腎臓の上にある小さな腺組織で、
ステロイド核を持つ複数のホルモンを産生分泌しています。

一般にステロイドと呼ばれることの多い、
糖質コルチコイド(コルチゾールなど)や、
血圧や電解質を調節する電解質コルチコイド(アルドステロンなど)、
血圧上昇や強心作用のあるカテコールアミンは、
その代表です。

副腎皮質機能低下症と言うのは、
このうち主に糖質コルチコイドの分泌が低下した状態のことで、
糖質コルチコイドは身体の定常性を保ち、
ストレスに即応しているホルモンなので、
その欠乏は特に身体がストレスを受けた時の、
体調不良として現れます。

もともと副腎機能低下症を持っている人が、
重症感染などの強いストレスに晒されると、
血圧の急激な低下などの副腎不全症状が、
急性に出現することがあります。
これを「副腎クリーゼ(Adrenal crisis)」と呼んでいます。

60歳以上の高齢者では、
副腎機能低下症から副腎クリーゼになるリスクが高いとされ、
副腎機能低下で治療を受けている高齢者のうち、
年間6から8%がクリーゼを発症する、
というような報告もあります。

高齢者の副腎皮質機能低下症の症状は、
全身倦怠感や食欲低下、吐き気、
立ちくらみ、筋力低下など、
加齢のみでも説明可能な症状が多く、
診断が遅れがちな要因となっています。
検査データでは低ナトリウム血症や高カリウム血症、
低血糖などが、この病気を疑うきっかけになります。
副腎に原因のある機能低下では、
下垂体のACTHが増加するので、
口や手足の先などに色素沈着が起こります。

副腎クリーゼの主症状は血圧低下で、
通常収縮期血圧は100mmHg未満となるか、
通常時より20mmHg以上低下します。
そこに意識レベルの低下や腹痛、
嘔吐、下痢などの症状が加わります。
低血糖発作も見逃せない兆候の1つです。

こうした症状が見られて、
朝8時前の採血において、
コルチゾールが5μg/dL未満の場合には、
副腎皮質機能低下症の可能性が高まります。
逆に同時刻のコルチゾールが、
14.5μg/dLを超えている場合には、
副腎皮質機能低下症の可能性はほぼ否定されます。

確定診断のためには、
インスリンを注射して低血糖のストレスを与え、
その後のコルチゾールを測定する、
インスリン負荷テストが有用とされていますが、
低血糖を人為的に起こすという試験なのでリスクがあり、
僕は個人的にはクリニックでは行なっていません。
ACTHを注射してコルチゾールの反応をみる、
迅速ACTH試験は、
原因が副腎にあるかどうかの鑑別診断に有効で、
こちらはリスクは殆どありません。

高齢者の副腎皮質機能低下で多いのは、
プレドニンなどの合成ステロイドを使用していたことによる、
副腎機能の抑制によるもので、
この場合はプレドニンなどのステロイドを中止することにより、
体調不良が持続するのが特徴です。
血液のACTHとコルチゾールは、
概ね感度以下に低下しており、
長期のコートリルによる治療が必要となります。
薬剤で無視できないのは、
昨日ご紹介したオピオイドによる副作用で、
オピオイドの使用時には定期的なコルチゾールのチェックが必要です。

一旦副腎クリーゼとなった場合には、
まずハイドロコルチゾンを100㎎注射し、
その後24時間毎に200㎎を追加するか、
6時間毎に50㎎を追加して症状の改善をみます。
ナトリウムの喪失があるため、
生理食塩水の投与も電解質を見ながら行います。
症状が安定した後の維持量は、
以前はハイドロコルチゾンを1日30mg以上というような、
高用量が使用されていましたが、
その後の研究により高齢者の1日の必要量は、
より少ないことが明らかとなり、
現在では1日10mgから15㎎くらいまでにとどめるのが一般的です。
ハイドロコルチゾンは安全性は高いのですが、
半減期が短く、持続時間が短いので、
少量に分けて分服した方が症状は安定します。
ただ、そうした服用は持続困難な側面があり、
持続型のハイドロコルチゾンのような製剤が、
開発を期待されています。
しかし、現状はまだそうした薬はないようです。

今日は高齢者の副腎不全の総説でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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