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不活化したビフィズス菌の過敏性腸症候群に対する有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ビフィズス菌の加熱.jpg
2020年のLancet Gastroenterology & Hepatology誌に掲載された、
加熱して不活化したビフィズス菌が過敏性腸症候群に有効、
というちょっと面白い知見です。

よく「生きて腸に届く乳酸菌」というような言い方がされますね。

乳酸菌に、
腸内環境を調整し、
腸の炎症を抑え、
炎症性の腸疾患などに、
一定の有効性があることには、
多くの知見があります。

物凄く効く、というような研究データはないのですが、
「少し症状が改善した」という程度のデータは、
多く存在しています。

この乳酸菌の有効性というのは、
通常は生きて腸で働くことによって生じる、
というように考えられています。

そのために、
乳酸菌は「生きて腸に届く」ということが、
重要であると考えられているのです。

一方で過敏性腸症候群という病気があります。
腸に明確な病気が証明されないのに、
繰り返す腹痛や便通異常、便の形態異常などが持続し、
その患者さんにとっては、
日常生活に多くの困難が生じる、
という症候群です。

この病気の本態は完全には解明されていませんが、
腸粘膜を外敵から守るバリア機能が障害され、
細菌などの侵入を受けやすくなることが、
その1つの要因と考えられています。

これまでに乳酸菌製剤の、
過敏性腸症候群に対する一定の有効性が示されていて、
その主なメカニズムは、
乳酸菌が腸粘膜に付着して、
付着による腸粘膜の変化が、
バリア機能の改善に結び付くためではないか、
と考えられています。

そして、興味深いことには、
ビフィズス菌を熱処理して不活化しても、
その形態が保たれていれば、
生菌と同様に腸粘膜に付着して効果を表す、
という実験データが存在しています。

仮に不活化した菌でも有効であるとすれば、
生きて腸に届く必要はないので、
投与はより安定しますし、
免疫状態が悪いような患者さんにも、
安心して使用することが出来ます。

しかし、不活化した菌に本当に臨床的効果があるのでしょうか?

その点を検証する目的で今回の研究では、
ドイツの20カ所の専門施設において、
腹痛などの症状のある過敏性腸症候群の患者さん、
トータル443名をクジ引きで2つの群に分け、
患者さんにも主治医にも分からないように、
一方はMIMBb75というビフィズス菌を加熱処理して不活化したものを、
1日1回経口で投与し、
もう一方は偽薬を使用して、
8週間の治療を行いその後の経過を比較しています。

その結果、
腹痛などの症状の30%以上の改善率は、
偽薬群が19%であったのに対して、
不活化ビフィズス菌群は34%で、
この差は有意と判断されました。

このように加熱して「死んだ」状態であっても、
ビフィズス菌には一定の有効性があるという知見は、
「コロンブスの卵」という感じで興味深く、
今後の知見の積み重ねに期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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木村充志

いつも勉強させていただいてます。ビフィズス菌の話と少しずれます。乳酸菌は生きている必要は無いようです。死菌であっても大腸のビフィズス菌の増殖を促すとのことです。この先生の著書を読んでみてください。乳酸菌研究の先駆者です。
光岡知足;1930年、千葉県市川市生まれ。東京大学農学部獣医学科卒業。同大学院博士課程修了。農学博士。’58年、理化学研究所に入所。ビフィズス菌をはじめとする腸内細菌研究の世界的な権威として同分野の樹立に尽力。腸内フローラと宿主とのかかわりを提唱し、腸内環境のバランスがヒトの健康・病態を左右すると指摘した。「善玉菌」「悪玉菌」の名づけ親としても知られている。

by 木村充志 (2020-06-02 09:19) 

ナカヤマ

光岡知足さんのインタビュー記事です。確かにそのように述べられておりました。
https://www.bio-anthropos.com/mitsuoka-interview2/
by ナカヤマ (2020-06-05 13:31) 

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