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新型コロナウイルス感染症の多彩な臨床像 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療には往復し、
後は家に籠もっている予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナウイルス感染症の多彩な臨床像.jpg
2020年4月17日のBritish Medical Journal誌にウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症の臨床像についての解説記事です。

新型コロナウイルス感染症は、
その発生当初は新型コロナウイルス肺炎と呼ばれました。

つまり、SARSと同じように、
その主要な症状は肺炎などの呼吸器症状であると、
そう考えられていたのです。

しかし、典型的な肺炎を来すのは、
新型コロナウイルスに感染した患者さんの一部で、
中国で行われた疫学研究によると、
感染者の86%は肺炎をターゲットとした現状のスクリーニングでは、
見逃されてしまうと推計されています。

それでは、肺炎を起こさない新型コロナウイルス感染症は、
どのような経過を辿るのでしょうか?

それは呼吸器症状を呈さず、
他の症状のみの場合と、
全くの無症状の場合の2つがあります。

まず呼吸器以外の症状ですが、
患者さんの2から40%は消化器症状が見られる、
という報告があります。
特徴的なのは下痢で、
下痢で発症するケースは実際には多く、
便中でウイルスが増殖し、
それはかなり長期に渡り持続するので、
感染拡大の1つの大きな要因となっています。

嗅覚障害と味覚障害は、
プロ野球選手の事例で一般の方にも有名になりましたが、
イタリアの疫学データでは53%のケースで認められたと報告されています。
若年層の感染では嗅覚障害が唯一の症状であるケースもあり、
積極的スクリーニングが必要とする意見もあります。

新型コロナウイルスに感染した19歳の女性の症例報告では、
頭部MRI検査において、
嗅粘膜のある嗅裂という部分が、
周辺の炎症性変化のために閉塞している所見が認められました。
嗅粘膜周囲にウイルス感染が起こって、
それが嗅覚障害の原因となることを、
これは推測させる所見です。
動物実験においては、コロナウイルスが嗅神経を介して、
脳に神経障害や壊死を起こしたという知見があり、
これは嗅覚障害が脳障害に進行する危惧を感じさせます。

実際にアメリカと中国において、
虚血性梗塞や出血性梗塞、
頭痛や眩暈、精神障害、ギラン・バレー症候群、
急性壊死性脳症など、
多彩な脳障害や神経障害が、
新型コロナウイルス感染に伴って生じることが報告されています。
ただ、脳や神経脂肪への、
直接的なウイルス増殖が、
証明されたことはこれまでにありません。

循環器領域の症状もまた、
新型コロナウイルス感染症に伴って報告されています。
そこには、心筋障害、心筋炎、心内膜炎、不整脈、
心不全などがあり、
症状から急性冠症候群と誤診されたケースもあります。
中国の臨床データでは感染に伴って、
凝固系が亢進した状態が生じ、
静脈血栓塞栓症のリスクを高めて、
肺塞栓症を発症するような事例も報告されています。
従って、胸部痛も新型コロナウルス感染症を否定出来ないのです。

結膜充血や結膜炎、涙液量の増加などの、
眼症状が認められる事例も報告されています。
中国での報告では32%に眼症状が認められ、
ウイルス遺伝子が涙から検出されています。

年齢による症状の違いにも注意が必要です。

小児では全体に症状は軽く、
鼻水だけ、というようなこともあります。
高齢者では重症肺炎の事例が多くなりますが、
発熱がなく、ただ元気がなくなったり食欲がないだけ、
というケースも多いので注意が必要です。

無症候性か、
鼻水や軽度の咽頭痛以外、
症状の全くないケースが多いことが、
新型コロナウイルス感染症の問題点です。

最近の研究により、
無症候性の時期にむしろ感染は成立しやすく、
それが流行の拡大を招いていることが確実となっています。

そうなると、
ある程度感染が拡大した段階においては、
現行の症状のある患者を特定して、
濃厚接触者を検査するというような方法では、
感染を収束させることは困難だ、
という答えが見えて来ます。

それではどうするべきなのでしょうか?

もう少しウイルスの動態が明確となり、
検査法や治療法も整理されてくると、
より効率的な対策が可能となるのだと思いますが、
現状では今のような人と人との距離を保つ施策以外に、
穏当な名案はありそうにないのが実状なのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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渡辺勉

今日も勉強させていただきました。このウイルスは難敵ですね。なお、「唯一」が「雄一」と誤記されております。
by 渡辺勉 (2020-04-24 12:38) 

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