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新型コロナウイルス感染症に対するアビガンの効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

昨日日本全国に緊急事態宣言が出されました。
ゴールデンウイークが近いことを深刻に捉え、
極力長距離の移動を抑えよう、という趣旨であると思います。
(これは後で読み返した時のためのメモ的記載です)

本日は金曜日でクリニックは休診です。
老人ホームとグループホームの診療には往復し、
戻ったら家に籠もる予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
アビガンの臨床試験.jpg
もうお馴染みの査読前の論文を保存するサーバー、
medRxivに2020年3月27日に投稿された、
インフルエンザ治療薬アビガン(ファビピラビル)の、
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する効果を、
同じくインフルエンザ用に開発されたアルビドール(ウミフェノビル)と、
1対1で比較した臨床試験の論文です。

現状新型コロナウイルス感染症に確実に有効という薬剤はなく、
初期に使用するべきか、
悪化してから使用するべきか、
予防的に使用するべきか、
といった点についての現時点の方針も、
明確にはなっていません。

今度またまとめて記事にしたいと思っていますが、
現状世界的に最も評価され期待されている薬は、
レムデシビルとクロロキン(ヒドロキシクロロキンを含む)で、
アビガンの評価は日本以外ではそこまでではありません。

それは決して根拠のないことではなくて、
培養細胞に新型コロナウイルスを感染させた基礎実験において、
抗ウイルス効果の1つの指標であるEC50
(これはウイルスの増殖を50%抑制する濃度という意味です)
という数値が、
これは低いほど有効性が高いことになるのですが、
レムデシビルが0.77μM、クロロキンが1.13μMであったのに対して、
同じ実験系ではアビガンは61.88μMであったことにも起因しています。

ただ、これはあくまで基礎実験ですから、
臨床的効果はこれとは異なる、
という可能性も勿論あります。

今回の臨床試験は中国で行われたもので、
アビガンと比較されているアルビドールは、
ロシアで開発された抗ウイルス剤で、
現行ロシアと中国のみで使用されています。

薬のメカニズムとしては、
アビガンはRNAポリメラーゼ阻害剤と言って、
感染した細胞の中でウイルスが増殖すること自体を、
ブロックするような仕組みの薬です。
一方のアルビドールはウイルス粒子の突起が、
組織のACE2に結合することを阻害し、
感染の際のウイルス被膜と細胞膜の融合も阻止する、
というユニークな効果を持っています。

どちらもインフルエンザ用に開発され、
新型コロナウイルスにも有効な可能性はあるものの、
現時点までに臨床的なデータは乏しい、
という点では同じです。

今回の臨床試験は中国の3つの病院において、
新型コロナウイルス肺炎と診断された18歳以上の240名を、
くじ引きで2つの群に割り付け、
一方はアビガンを使用し、もう一方はアルビドールを使用して、
7日間の治療後の回復率を比較しています。
この回復というのは、
臨床的に平熱で咳や低酸素血症などが改善している、
という臨床的回復のことを指しています。
その結果、アビガン群での回復率は61.20%であったのに対して、
アルビドール群の回復率は51.67%で、
両者に明確な差は認められませんでした。
発熱や咳の症状に関しては、
アビガン群でやや早く回復する傾向は認められました。

アビガンの有害事象は、
尿酸値の上昇が多く、
それ以外には精神症状や吐き気などの胃腸症状が、
アルビドールより多く認められました。

アビガンについてはもう1つ中国の臨床試験データがあり、
軽症例での一定の改善が認められたというものでしたが、
現在は論文自体が取り下げられています。

日本では症例報告は複数発表されていて、
概ね「改善した」というものですが、
実際には多くの薬剤と併用されているので、
比較対照はなく、臨床試験としての価値のあるものは、
現時点ではまだないようです。

日本の病院では、
「この病院ではこの治療」というような割り付けが、
ある程度行われているように漏れ聞いているので、
アビガンの有効性がある程度まとまった形で、
近い将来に報告されることを期待したいのですが、
現行はこのようなデータしかなく、
手探りで使用をしているのが実際であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 2

秀樹

石原先生

先生のプログ毎日楽しみに拝見させて頂いております。とても参考になります。
実はアビガンですがもともと尿酸値が8以上あるものは使用しない方が宜しいでしょうか?
他に頼れる薬もなく、ジスロマックにもアレルギーがあるようです。心配です。
心構えとして少しでも不安を取り除きたいのですが、やはりアビガンを恐る恐る服用するのが宜しいでしょうか?
血圧も高く、かなり太っています。
お忙しいところ大変申し訳ございません。
先生のご意見を教えて頂くと幸いです。
by 秀樹 (2020-04-17 20:48) 

患者候補

重篤者への治療は、適切な時期に複数の阻害薬類と症状の緩和薬、そして発生した副作用への対処(処置)等、非常に投薬がキモとなって来ると思います。
内科医の意見を頂けないでしょうか。
患者候補(非医療従事者)としては、気になります。
by 患者候補 (2020-04-22 22:12) 

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