新型コロナウイルスの経過とウイルス量 [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
Nature誌に2020年4月1日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルスのPCR検査を1人の患者で頻回、
かつ採取部位を変えて検査し、
抗体価の推移も計測して、
患者さんのトータルなウイルス量の推移を、
詳細に検証した論文です。
今までの報告とはかなり異なる部分があり、
一読ちょっと驚きました。
ただ、これまでの報告と違う部分については、
必ずしも今回の結果が事実であるとは現時点で言い切れません。
その点には注意の上お読み下さい。
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、
SARSコロナウイルス(SARS-CoV)と、
遺伝子的に高い相同性を持っています。
このため新型コロナウイルス流行の早期においては、
このウイルスの感染様式は、
SARS原因ウイルスと似通っていると考えられていました。
実際、
その感染にACE2とセリンプロテアーゼ(TMPRSS2)が必要である、
という点でも2つのウイルスは同じ特徴を持っています。
しかし、
SARS原因ウイルスは、
ほぼ下気道のACE2受容体にのみ結合して、
そこで増殖することによって、
気管支炎や肺炎を発症し、
そうなってから初めて、
咽頭や鼻腔などの上気道でも、
PCR検査で陽性反応が認められます。
上気道の細胞に直接感染するのではなく、
ある程度の量のウイルスが下気道で増殖し、
痰の喀出などにより上気道でも検出されるようになった、
という理屈です。
このためSARSの時は感染初期は、
咽頭や鼻腔でのPCRの陽性率は低く、
症状出現後7から10日くらいでウイルス量はピークとなります。
こうした性質が同様であると考えられたので、
新型コロナウイルスにおいても、
主に症状が出現してから4日以上経ってからの検体採取が行われ、
下気道感染の症状が出現する以前の時期においては、
周囲への感染も起こらないと想定されたのです。
これは、
新型コロナウイルスは上気道の細胞には感染しない、
という前提に立った場合の話です。
しかし、
実際には新型コロナウイルスは上気道の細胞にも感染し、
病初期や場合によって無症状の時期から、
周囲への感染力を持っていることが、
臨床的な観察から事実であることは、
皆さんももうご存じの通りです。
それでは、実際に患者さんの体内で、
どのようなことが起こっているのでしょうか?
今回の研究はドイツの単独施設において、
1人の感染者からの濃厚接触者の感染事例9名を、
症状出現時より入院で経過観察し、
咽頭や鼻腔、喀痰、便、血液、尿の検体でPCR検査を行い、
同時にウイルス培養も試みます。
更に血液の中和抗体も測定して、
免疫の成立とウイルス量との関連も検証しています。
複数例では、これまでで最も詳細な検証といって良いと思います。
その結果…
9名の患者全てで、
症状出現後1から5日以内の中咽頭もしくは鼻腔から採取した検体で、
PCR検査は陽性となっていました。
ウイルス量のピークは殆どの事例で5日以内にあり、
5日以降は上気道のウイルス量は低下していました。
症状出現5日目以降のPCR陽性率は39.93%でした。
ウイルス量は概ね14日後には低下しますが、
28日後にも陽性であった事例も認められました。
喀痰検体での陽性率は少し上気道より遅れますが、
ほぼ同じ推移を示し、
喀痰より鼻腔のウイルス量が多い、
というケースも複数認められました。
血液中の抗体は、
症例の50%では症状出現7日後までに陽性となり、
14日後には全例で陽性となっていました。
ただ、抗体が陽性化しても、
その後もPCRでウイルスは検出され、
病状の経過と抗体陽転との間にも、
明確な関連は認められませんでした。
他の検体では尿や血液からはウイルスは検出されませんでしたが、
便からは鼻腔より長期に渡りウイルスが検出され、
遺伝子変異の解析からは、
喀痰や上気道のウイルスが便に入り込んだものではなく、
上気道とは独立に消化管の中でウイルスが増殖したことが示唆されました。
それでは事例を2つご覧下さい。
まずこちらです。
これは発熱や咳はない軽症の事例です。
黄色の線は鼻腔の検体で、
オレンジの線は喀痰の検体、
黒い線は便の検体で、
矢印は抗体が陽性になったタイミングを示しています。
抗体は10日目に陽性となっているのにも関わらず、
その後も長期間喀痰や鼻腔の検体ではウイルスが検出されています。
鼻腔の検体については、
ウイルス量が多いのは病初期で、
5日後以降は時期によっても陰性になったり陽性になったり、
時期により一定していないことが分かります。
それではもう1つの事例です。
こちらをご覧下さい。
こちらは熱や咳などの症状のあるケースです。
発症10日より前に抗体は陽性化していますが、
その後も長期間ウイルスは喀痰や便では検出されていて、
28日後にも陽性が続いています。
このように、
新型コロナウイルスはSARSとは異なり、
上気道での感染が初期から強く認められ、
抗体は2週間以内には陽性化するものの、
その後もウイルスの排出は持続します。
現状PCR検査はむしろ病状が進行した段階で、
初めて行われることが多く、
逆に濃厚接触者の検査では、
病初期に行われることが多い訳ですが、
今回の結果を見る限り、
鼻腔や咽頭でのPCR検査は病初期に行ってこそ意味があり、
その意味で濃厚接触者のフォローには、
意義が大きいと思われる反面、
通常の感染疑いの事例で、
発症から5日以上経ってからの検査には、
あまり向いていないように思います。
中和抗体が陽性となった時点で、
患者さん本人としては快方には向かい、
その時点以降でしばらく(おそらく1年くらい)は再感染はしない訳ですが、
それ以降も上気道や便などに長期間ウイルスは検出され、
そうした時期に周囲に感染する可能性は、
現時点ではないと言えないのです。
このウイルスの極めて厄介な部分は、
どうやらこの点にあるようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
Nature誌に2020年4月1日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルスのPCR検査を1人の患者で頻回、
かつ採取部位を変えて検査し、
抗体価の推移も計測して、
患者さんのトータルなウイルス量の推移を、
詳細に検証した論文です。
今までの報告とはかなり異なる部分があり、
一読ちょっと驚きました。
ただ、これまでの報告と違う部分については、
必ずしも今回の結果が事実であるとは現時点で言い切れません。
その点には注意の上お読み下さい。
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、
SARSコロナウイルス(SARS-CoV)と、
遺伝子的に高い相同性を持っています。
このため新型コロナウイルス流行の早期においては、
このウイルスの感染様式は、
SARS原因ウイルスと似通っていると考えられていました。
実際、
その感染にACE2とセリンプロテアーゼ(TMPRSS2)が必要である、
という点でも2つのウイルスは同じ特徴を持っています。
しかし、
SARS原因ウイルスは、
ほぼ下気道のACE2受容体にのみ結合して、
そこで増殖することによって、
気管支炎や肺炎を発症し、
そうなってから初めて、
咽頭や鼻腔などの上気道でも、
PCR検査で陽性反応が認められます。
上気道の細胞に直接感染するのではなく、
ある程度の量のウイルスが下気道で増殖し、
痰の喀出などにより上気道でも検出されるようになった、
という理屈です。
このためSARSの時は感染初期は、
咽頭や鼻腔でのPCRの陽性率は低く、
症状出現後7から10日くらいでウイルス量はピークとなります。
こうした性質が同様であると考えられたので、
新型コロナウイルスにおいても、
主に症状が出現してから4日以上経ってからの検体採取が行われ、
下気道感染の症状が出現する以前の時期においては、
周囲への感染も起こらないと想定されたのです。
これは、
新型コロナウイルスは上気道の細胞には感染しない、
という前提に立った場合の話です。
しかし、
実際には新型コロナウイルスは上気道の細胞にも感染し、
病初期や場合によって無症状の時期から、
周囲への感染力を持っていることが、
臨床的な観察から事実であることは、
皆さんももうご存じの通りです。
それでは、実際に患者さんの体内で、
どのようなことが起こっているのでしょうか?
今回の研究はドイツの単独施設において、
1人の感染者からの濃厚接触者の感染事例9名を、
症状出現時より入院で経過観察し、
咽頭や鼻腔、喀痰、便、血液、尿の検体でPCR検査を行い、
同時にウイルス培養も試みます。
更に血液の中和抗体も測定して、
免疫の成立とウイルス量との関連も検証しています。
複数例では、これまでで最も詳細な検証といって良いと思います。
その結果…
9名の患者全てで、
症状出現後1から5日以内の中咽頭もしくは鼻腔から採取した検体で、
PCR検査は陽性となっていました。
ウイルス量のピークは殆どの事例で5日以内にあり、
5日以降は上気道のウイルス量は低下していました。
症状出現5日目以降のPCR陽性率は39.93%でした。
ウイルス量は概ね14日後には低下しますが、
28日後にも陽性であった事例も認められました。
喀痰検体での陽性率は少し上気道より遅れますが、
ほぼ同じ推移を示し、
喀痰より鼻腔のウイルス量が多い、
というケースも複数認められました。
血液中の抗体は、
症例の50%では症状出現7日後までに陽性となり、
14日後には全例で陽性となっていました。
ただ、抗体が陽性化しても、
その後もPCRでウイルスは検出され、
病状の経過と抗体陽転との間にも、
明確な関連は認められませんでした。
他の検体では尿や血液からはウイルスは検出されませんでしたが、
便からは鼻腔より長期に渡りウイルスが検出され、
遺伝子変異の解析からは、
喀痰や上気道のウイルスが便に入り込んだものではなく、
上気道とは独立に消化管の中でウイルスが増殖したことが示唆されました。
それでは事例を2つご覧下さい。
まずこちらです。
これは発熱や咳はない軽症の事例です。
黄色の線は鼻腔の検体で、
オレンジの線は喀痰の検体、
黒い線は便の検体で、
矢印は抗体が陽性になったタイミングを示しています。
抗体は10日目に陽性となっているのにも関わらず、
その後も長期間喀痰や鼻腔の検体ではウイルスが検出されています。
鼻腔の検体については、
ウイルス量が多いのは病初期で、
5日後以降は時期によっても陰性になったり陽性になったり、
時期により一定していないことが分かります。
それではもう1つの事例です。
こちらをご覧下さい。
こちらは熱や咳などの症状のあるケースです。
発症10日より前に抗体は陽性化していますが、
その後も長期間ウイルスは喀痰や便では検出されていて、
28日後にも陽性が続いています。
このように、
新型コロナウイルスはSARSとは異なり、
上気道での感染が初期から強く認められ、
抗体は2週間以内には陽性化するものの、
その後もウイルスの排出は持続します。
現状PCR検査はむしろ病状が進行した段階で、
初めて行われることが多く、
逆に濃厚接触者の検査では、
病初期に行われることが多い訳ですが、
今回の結果を見る限り、
鼻腔や咽頭でのPCR検査は病初期に行ってこそ意味があり、
その意味で濃厚接触者のフォローには、
意義が大きいと思われる反面、
通常の感染疑いの事例で、
発症から5日以上経ってからの検査には、
あまり向いていないように思います。
中和抗体が陽性となった時点で、
患者さん本人としては快方には向かい、
その時点以降でしばらく(おそらく1年くらい)は再感染はしない訳ですが、
それ以降も上気道や便などに長期間ウイルスは検出され、
そうした時期に周囲に感染する可能性は、
現時点ではないと言えないのです。
このウイルスの極めて厄介な部分は、
どうやらこの点にあるようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2020-04-06 06:11
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