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「ヘレディタリー 継承」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日ですが、
もともとクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ヘレディタリー.jpg
「ミッドサマー」で話題のアリ・アスター監督の、
長編第一作「ヘレディタリー 継承」が、
今アップリンク渋谷で特別上映されています。
「ミッド・サマー」の記事を書いた時には、
あたかもこの作品を観ているかのような雰囲気で、
記事を書いてしまいましたが、
実は見逃していました。
2018年の11月の終わりでしょ。
何故かなあ、こういうのは逃さないようにしていたのに、
と悔やんでいて、
たまらずブルーレイも買ってしまったのですが、
小空間とは言え映画館で公開されたので、
これは大変と無理に観に行きました。

これは凄いですよ。

「ミッドサマー」はホラーの要素を外しているでしょ。
長編デビューのこちらはホラー色全開で素晴らしいですね。
ラス前の辺り、怖いですしその濃縮度が凄いのです。

これはね、
「ミッドサマー」と同じように、
2つのホラーのジャンルを組み合わせて成立しているのです。
そのうちの1つは、
現代版幽霊屋敷もので、
昔の幽霊屋敷というのは、
如何にもお化けの出そうな古城などの仰々しい道具立ての中で、
幽霊や怪物が登場するというもの。
それが60年代に「たたり」という作品があって、
シャーリー・ジャクソンが原作ですが、
古典的な幽霊屋敷の道具立てなのに、
1人の女性の病的な心理が幽霊と共鳴するという仕掛けで、
より現代的な心理劇として再構成されています。
これ以降、幽霊屋敷ものは、
心理スリラーのような要素を持つようになります。
更に「悪魔の棲む家」や「家」などの作品では、
古城などではなく、
普通の住宅に住む普通の一家が、
その場の魔力で精神に異常を来すという、
新たなフェーズに入ることになりました。

この現代的幽霊屋敷ものが、
この映画の1つの元ネタです。

そしてもう1つはそれとは別個のあるホラーのジャンルで、
それを組み合わせることにより、
物語は先の読めない展開となり、
ホラーの歴史に残る傑作となったのです。

これね、一番近い雰囲気の作品を探せば、
ロマン・ポランスキーですね。
物語の構成は「ローズマリーの赤ちゃん」ですし、
主人公の狂気の描写は「反撥」や「テナント」を彷彿とさせます。
いずれも大傑作ですが、
この作品決してポランスキーに退けは取っていないですね。
意識は絶対していますよね。
ガラスに映った自分がニヤリと笑うところや、
窓の向こうの小屋に明かりが点くところなど、
「テナント」そっくりの場面があります。
首がゴロンと落ちるのも、
「マクベス」や「テナント」の呼吸ですし、
ラストは「ローズマリーの赤ちゃん」の影響が強いと思います。
魔女は「マクベス」に瓜二つですね。

ポランスキーはホラーを藝術にした映画作家の1人です。

その薫陶を強く受けたこの作品は、
その志においてはポランスキーに及びませんが、
同じ映画藝術の高みに達していると思います。

上映時間は2時間7分。
ホラーのジャンルとしては長いですね。
前半を非常に悠然としたテンポで、
丁寧に描写を積み重ねる形で繊細に表現し、
後半はそれまでに積み重ねたものが、
一気に奔流のように迸るクライマックスになります。
後半の堂々たる仰々しさも凄いですし、
それを実現するための不穏な空気と緊張だけで見せきった、
前半も凄いと思います。

ポランスキーだけではなく、
ジャパニーズホラーを研究したような部分も、
随所に認められ、
特にラス前に女の幽霊(?)が高速移動して襲って来る、
という辺りはジャパニーズホラーを意識しながら、
ある意味それを超えた奇観でした。

それ以外にもドールハウスを巧みに使って、
ヒロインの心理を表現しつつ、
現実とミニチュアの区別があいまいになるような、
奇妙なムードを漂わせたり、
少年が痙攣を起こして倒れる場面で、
1人だけそれをスマホで摂っているクラスメートがいたりとか、
あらゆる技巧や映像手法を駆使して、
「不穏な空気」を表現する手際が鮮やかです。

ホラーのジャンル作でありながら、
それを超えた傑作で、
全く肌合いは違う作品でありながら、
ラストは「ミッドサマー」と同じになるという点も面白く、
監督はポランスキーと同じく、
おそらく倫理的には破綻している人格ではないかと思わせながら、
藝術ホラーを極める孤高の天才の今後には、
目を離せない状態が続きそうです。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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