新型コロナウイルス感染と投薬との関連 [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
Lancet Respiratory Medicine誌に2020年3月11日ウェブ掲載された、
高血圧と糖尿病の患者さんが、
新型コロナウイルス感染症で重症化しやすいのは何故なのか、
という点を考察した解説記事です。
まとまった論文というものではなく、
1人の専門医の見解を示したものである、
という点には注意が必要です。
これは僕自身はスルーしていたのですが、
フランスの大臣が「イブプロフェンを新型コロナに使うのは良くない」
という趣旨の発言をして、
それに追随する内容をWHOでも示したことによって、
注目を集めている内容の元ネタなので、
改めて読んでみました。
新型コロナウイルス(SARS-CoV2)は、
その名の通りSARSの原因ウイルス(SARS-CoV)と似通っていて、
遺伝子自体も非常に高い相同性があります。
この2つのウイルスは、
いずれもACE2という受容体に結合して、
人間に感染するという特徴を持っています。
ACE2受容体は人間の身体では、
下気道の上皮細胞、腸管、腎臓、そして血管上皮細胞に、
主に発現しています。
高血圧の患者さんに使用される、
ACE阻害剤やアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬は、
結果としてACE2受容体を増やす作用があります。
ACE2受容体はまた、
インスリン抵抗性改善剤で糖尿病の治療に使用される、
チアゾリジンジオン(ピオグリタゾンなど)と、
解熱鎮痛剤のイブプロフェンによっても、
増加することが報告されています。
ここで上記論考の著者は、
糖尿病の患者さんや高血圧の患者さんは、
上記のACE2受容体を増やすような薬剤を使用していることが多く、
そのために新型コロナウイルスの感染を、
より受けやすいのではないか、
という推論を行なっています。
ただ、他方でACE2には炎症を抑制するような働きもあり、
その点はむしろ上記の推論に反するものです。
ACE2発現に関わる遺伝子多型が、
その重症化に関連しているのではないか、
という仮説もあり、
今後の検証を要する事項だとしています。
シンプルに考えると、
ACE阻害剤やARBの方が継続的に使用されている方が多く、
ACE2の誘導も高いと想定されるので、
仮にそうした薬剤の使用と、
新型コロナウイルスの重症化との間に、
関連があるとすればこれは大きな問題ですが、
今のところ本当に推論に過ぎないので、
当該の薬をお飲みの方は、
あまり無用の心配はされない方が良いように思います。
これは今の時点で、
実臨床的な根拠はない推論ですし、
個人的には差はあっても、
大勢には影響しないレベルであるように思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
Lancet Respiratory Medicine誌に2020年3月11日ウェブ掲載された、
高血圧と糖尿病の患者さんが、
新型コロナウイルス感染症で重症化しやすいのは何故なのか、
という点を考察した解説記事です。
まとまった論文というものではなく、
1人の専門医の見解を示したものである、
という点には注意が必要です。
これは僕自身はスルーしていたのですが、
フランスの大臣が「イブプロフェンを新型コロナに使うのは良くない」
という趣旨の発言をして、
それに追随する内容をWHOでも示したことによって、
注目を集めている内容の元ネタなので、
改めて読んでみました。
新型コロナウイルス(SARS-CoV2)は、
その名の通りSARSの原因ウイルス(SARS-CoV)と似通っていて、
遺伝子自体も非常に高い相同性があります。
この2つのウイルスは、
いずれもACE2という受容体に結合して、
人間に感染するという特徴を持っています。
ACE2受容体は人間の身体では、
下気道の上皮細胞、腸管、腎臓、そして血管上皮細胞に、
主に発現しています。
高血圧の患者さんに使用される、
ACE阻害剤やアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬は、
結果としてACE2受容体を増やす作用があります。
ACE2受容体はまた、
インスリン抵抗性改善剤で糖尿病の治療に使用される、
チアゾリジンジオン(ピオグリタゾンなど)と、
解熱鎮痛剤のイブプロフェンによっても、
増加することが報告されています。
ここで上記論考の著者は、
糖尿病の患者さんや高血圧の患者さんは、
上記のACE2受容体を増やすような薬剤を使用していることが多く、
そのために新型コロナウイルスの感染を、
より受けやすいのではないか、
という推論を行なっています。
ただ、他方でACE2には炎症を抑制するような働きもあり、
その点はむしろ上記の推論に反するものです。
ACE2発現に関わる遺伝子多型が、
その重症化に関連しているのではないか、
という仮説もあり、
今後の検証を要する事項だとしています。
シンプルに考えると、
ACE阻害剤やARBの方が継続的に使用されている方が多く、
ACE2の誘導も高いと想定されるので、
仮にそうした薬剤の使用と、
新型コロナウイルスの重症化との間に、
関連があるとすればこれは大きな問題ですが、
今のところ本当に推論に過ぎないので、
当該の薬をお飲みの方は、
あまり無用の心配はされない方が良いように思います。
これは今の時点で、
実臨床的な根拠はない推論ですし、
個人的には差はあっても、
大勢には影響しないレベルであるように思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2020-03-19 06:05
nice!(8)
コメント(1)
この質問(イブプロフェンとコロナの関係)を取り上げてくださってありがとうございました。なぜなのかがとてもよくわかりました。
sarsと新型コロナウイルスは、ACE2受容体に結合して 人間に感染するのだけれど、イブプロフェンはACE2受容体を増やす働きがあるのですね。
でも、それを言うなら、高血圧薬のACE阻害剤やアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬、糖尿病薬のチアゾリジンジオンもACE2受容体を増やす働きがあるんですね。
解熱剤として一回だけ飲むイブプロフェンの使用を云々するんなら、日常的にずっと飲んでいる高血圧薬や糖尿病薬の方が……だけれど、これは一人のお医者さんがおっしゃっている推論に過ぎない、というわけなんですね。(これでだいたいあっているでしょうか。)
薬はリスクなのは周知の事実で、要するに優先順位の問題なのでしょうか。
先生、いつもありがとうございます。
by 熱心な読者 (2020-03-22 20:37)