SSブログ

急性の疼痛管理におけるトラマドールの安全性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
トラマドールの慢性使用リスク.jpg
2019年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
最近広く使用されている弱いオピオイド系鎮痛剤、
トラマドールの短期使用の安全性を検証した論文です。

腰痛や膝などの関節炎の痛み止めとして、
最近使用されることが多いのが、
オピオイド系鎮痛薬のトラマドールです。

単独の製剤がトラマールとして、
消炎鎮痛剤のアセトアミノフェンとの合剤が、
トラムセットという商品名で日本では使用されています。

トラマドールは麻薬のモルヒネと同じ、
オピオイド受容体に弱く結合する薬で、
モルヒネより副作用が少ないために、
癌性疼痛以外にも難治性の痛みに対して、
幅広く使用されています。

現行の国内外のガイドラインにおいても、
慢性疼痛の治療の第一選択は非ステロイド系消炎鎮痛剤ですが、
それで痛みのコントロールが困難な場合には、
次に推奨されているのはトラマドールなどのオピオイド系鎮痛剤です。

実際に腰痛や肩、膝などの痛みで、
皆さんが医療機関を受診すると、
それが手術などの治療が必要な痛みではなければ、
最初は湿布やロキソプロフェンなどの痛み止めが使用されますが、
あまり効果が認められない時には、
比較的簡単にトラマドールなどの弱オピオイドが処方されます。

しかし、
他のモルヒネやオキシコドンなどの、
同じような短期作用型のオピオイドと比較して、
トラマドールの使用が身体に与える影響に、
どのような違いがあるのかについては、
「弱い作用のオピオイドであるので、理屈の上では副作用も軽い筈だ」
という大雑把な考え方があるだけで、
あまり実証的な研究はされていませんでした。

それが最近になって、
トラマドールのような弱オピオイドにも、
少なからずオピオイドにあるような副作用があり、
身体依存や乱用に結び付くこともある、
という報告が寄せられるようになっています。

トラマドールの安全性に、
疑問符が付くようになったのです。

今回の研究はアメリカの医療保険のデータを活用して、
手術後の疼痛に対して短期的に使用されたトラマドールが、
身体依存や乱用としてのその後の慢性使用に結び付くリスクを、
それまで同様の目的に主に使用されて来た、
短期作用型のオピオイドである、
モルヒネやオキシコドンと比較して検証しているものです。

手術後の疼痛に対してオピオイドを短期使用した患者さんが、
術後90日から180日の間に超える同種薬剤の処方を、
1回以上受けている場合を追加使用(additional opioid use)とし、
術後180以内の同種薬剤の使用が90日以上に及ぶ場合を、
持続的使用(persistent opioid use)と定義します。
更に以前の臨床研究において、
オピオイド慢性使用の基準として定義されている、
CONRORT基準も活用しています。
これは術後180以内の90日以上のオピオイド使用で、
回数が10回以上もしくは処方量が120日分以上のもの、
としています。

今回特定の手術を受けた、
それまでにオピオイド使用歴のない、
トータル444764名の患者さんのうち、
357884名は退院時にオピオイド系鎮痛剤の処方を受けていました。

処方薬剤の内訳は、
ヒドロコドンが53.0%、オキシコドンが37.5%、
トラマドールは4.0%でした。
術後のオピオイドの慢性使用は、
上記の定義による追加使用が7.1%(31431例)、
持続的使用が1.0%(4457例)、
CONSORT基準が0.5%(2017例)でした。

これをオピオイドの種類毎にみると、
ヒドロコドンやオキシコドンの使用と比較して、
トラマドールを使用した場合の慢性使用のリスクは、
追加使用基準で6%(95%CI: 1.00から1.13)、
持続的使用基準で47%(95%CI: 1.25から1.69)、
CONSORT基準で41%(95%CI: 1.08から1.75)、
それぞれ有意に増加していました。

要するにモルヒネなどの従来のオピオイドより、
弱オピオイドで安全性が高いと想定されていたトラマドールの方が、
急性使用後に身体依存や乱用に結び付きやすかった、
という予想外の結果です。

ただ、今回のデータではトラマドールの使用比率はかなり低いので、
その点が結果に影響にしているという可能性はあります。
しかし、少なくともモルヒネと同程度の身体依存が、
トラマドールにおいても生じる可能性がある、
という今回の指摘は重く受け止める必要があり、
今後の検証が必要であるとともに、
トラマドールのような弱オピオイドを、
慢性疼痛において積極的に使用するという現行の治療の考え方は、
再検討される必要があるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(6)  コメント(0) 

nice! 6

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。