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松尾スズキ「キレイ」(2019年再演版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
キレイ.jpg
今回3回目の再演となる、
松尾スズキさんの「キレイ」を観て来ました。

これはねえ、
とてもとても大好きな作品で、
僕は「愛の罰」の初演以降は、
松尾さんの作品はほぼ全て観ていますが、
一番好きなのは「キレイ」で、
そこは動きません。

この作品には松尾さんの全てが凝集されています。
ヴォネガットを思わせるようなSFロマネスクと、
愛すべき畸形やメンヘラのキャラ達の造形、
地下室に封印された過去の少女の自分を探しに行くという、
陶然とするような誌的な表現、
そして全ての幻想を打ち砕くような、
冷徹なリアリズムと残酷さ。

その上に伊藤ヨタロウさんの楽曲が奇跡的に素晴らしく、
ラストが崩壊してしまう松尾さんの戯曲の中では、
着地も美しく決まっていました。
少女は地下室を出て、
空を仰ぐと宇宙の果てに馬鹿が花を咲かせています。

素晴らしい!

この作品にはまた因縁があって、
初演は実は1幕しか実際には観ていません。
幕間で電話が入り、
訪問していた患者さんが急変して、
そこに急行したのです。
最初の再演の時には、
2幕の途中で呼び出しが掛かり、
ジュッテンの目が開く場面で、
老人ホームに出動となりました。
後半はWowowの中継とDVDで補完しました。
ようやく2014年の再再演は最後まで観ることが出来ました。
そして今回、ということになります。

主人公のケガレ役は、
初演は奥菜恵さんで、
再演は酒井若菜さんの筈がドタキャンして鈴木蘭々さんになる、
という今考えてもガッカリの状況でした。
個人的な事情があったようで、
馬鹿にすんなよ、という感じです。
再再演は多部未華子さん、
実力派で期待したのですが、
歌はダメでちょっと期待外れでした。
そして今回は歌には定評のある生田絵梨花さんでした。

正直演技は今一つでしたね。
オープニングのテーマ曲は、
さすがにしっかり歌えていました。

歌で一番好きなのはテーマ曲と並んで、
1幕にあるマキシとカスミのデュエットですね。
これは名曲で素晴らしいですよね。
ただね、難曲なので歌が上手い人に歌って欲しいんですよね。
今回の近藤公園さんと鈴木杏さんのコンビは、
申し訳ないのですが一番ダメでした。

今回は松尾さんが役者として登場しません。

うーん。
やっぱり出て欲しいですよね。
滅多に帰ってこないお父さんは、
松尾さんがやらないと面白くありません。
また目を瞑ったままのお兄ちゃんは、
クドカンの初演以外は詰まらないですね。
誰かもっと違う人にやって欲しいな。
目が開くところ、
素晴らしい素敵な場面なのに、
あまり盛り上がらないのが残念です。

今回はね、
オーケストラピットに音楽家を入れて、
普通に正統的ミュージカルの仕立てでした。

それでも成立する作品であることは確かですが、
もっと音楽にも猥雑な感じ、
適当でおおざっぱで暴力的な感じが欲しいですよね。
初演はもっとミニマルなバンド演奏の感じで、
それが作品に合っていたんです。
その一方で今回の、
幕の終わりで仰々しく音楽が高鳴るような感じは、
この作品の世界観には少し合わないような、
何かよそ行きの印象は持ちました。

これはこれでいいんですけど、
本当に舞台面が「キレイ」になって、
音楽も「キレイ」になって、
役者さんもすっきりした感じの人ばかりになって、
キレイとケガレの両面という作品の世界観が、
初演と比べてかなり薄れた感じになったことは、
少し残念には感じました。

それでも、
過去に観た全てのお芝居の中でも、
間違いなく10本のうちには入れるな、
というくらい好きな作品なので、
また再演があれば観に行くと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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