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多価不飽和脂肪酸と腸内細菌叢との関連 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
多価不飽和脂肪酸と腸内細菌の関連.jpg
2019年のNature Communications誌に掲載された、
多価不飽和脂肪酸と腸内細菌叢との関連についての論文です。
東京農工大学の研究者らによる日本の研究です。

多価不飽和脂肪酸も腸内細菌叢も、
最近の医療や栄養学のトレンドで、
それを組み合わせたという知見です。

以前は脂肪全体の摂取量を減らす、
ということが食事指導の常識でしたが、
最近ではむしろ悪者は糖質に変わっていて、
脂質はむしろ増やすことが健康長寿のためには良い、
という考え方が主流となっています。

そこで問題になるのは脂質の中身です。
身体の脂質の大部分は脂肪酸とその化合物です。
脂肪酸は大きくは飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸とに分かれ、
不飽和脂肪酸は更に単価不飽和脂肪酸と多価不飽和脂肪酸に分かれます。
そして、その多価不飽和脂肪酸は、
ω3系とω6系の2系統に分類されます。

動脈硬化の進行予防のためには、
このうち飽和脂肪酸を減らして不飽和脂肪酸を増やし、
多価不飽和脂肪酸の中では、
ω3系脂肪酸の比率を増やし、
ω6系脂肪酸の比率を減らすことに、
健康上のメリットが大きい、
ということもほぼ分かっています。

ただ、実際には飽和脂肪酸や総脂肪量は最近減少しているものの、
多価不飽和脂肪酸の比率としては、
ω3系が減少してω6系が増加しており、
それが内臓脂肪の増加や肥満に繋がっている、
という状況が問題となっています。

同じような量のω6系多価不飽和脂肪酸を摂取していても、
太る人もいれば太らない人もいます。

その違いはどこになるのでしょうか?

1つその原因として指摘されているのが、
腸内細菌の違いです。

多価不飽和脂肪酸は腸内で細菌による代謝を受け、
身体に吸収される前に、
その一部は中間代謝物に変化します。
その中間代謝物に抗炎症作用や抗肥満作用などがあるとする、
基礎実験の報告がこれまでに複数認められています。

そこで今回の研究では、
通常の食事で飼育したネズミと高脂肪食で飼育したネズミを用意し、
その腸内細菌叢を分析するとともに、
腸内細菌による脂肪酸の中間代謝物を測定しています。

その結果、
高脂肪食で飼育すると肥満は進行し、
腸内細菌叢では乳酸菌が低下しますが、
ω6系多価不飽和脂肪酸の1つであるリノール酸の、
中間代謝産物であるHYA(10-hydroxy-cis-octadecenoic acid)も低下しており、
このHYAを補充すると、
高脂肪食を摂っていても、
身体の炎症や肥満は抑制されていました。

つまり、腸内細菌叢にリノール酸を分解する働きが強いと、
増加したHYAによりω6系多価不飽和脂肪酸の悪影響は、
かなり相殺されて肥満が予防される、
という結果です。

それを図示したものがこちらになります。
多価不飽和脂肪酸と腸内細菌の関連の画像.png
今回の結果はリノール酸の代謝物に焦点が当てられていますが、
リノール酸関連のこれまでの知見から考えて、
それのみが重要というのは考えにくく、
今後こうした研究の結果が積み重ねられることにより、
将来的には脂肪の摂取と腸内細菌叢との関連が、
より明確になることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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