大脳辺縁系優位型老年期TDP-43脳症(LATE)の臨床 [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの面談などには廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
2019年のBrain誌に掲載された、
最近その重要性がクローズアップされている、
新しい認知症のタイプについての総説です。
老年期認知症の代表と言えばアルツハイマー型認知症です。
この病気は物忘れで始まり、
脳の海馬という部分が萎縮することが特徴です。
進行すれば、全ての認知機能が低下します。
アルツハイマー病の脳では、
老人斑という変化と神経原繊維変化という変化が認められます。
老人斑の主成分はアミロイドβ蛋白で、
神経原繊維変化の主成分はタウ蛋白です。
アルツハイマー病で起こる最も初期の変化は、
アミロイドβ蛋白の蓄積です。
このアミロイドβ蛋白は、
正常の神経細胞からも分泌される物質で、
神経の保護やその成長の促進などに、
一定の役割を持っていると考えられています。
つまり、それがあること自体は害ではないのです。
ところが、
この蛋白が重合し凝集することで、
組織に蓄積し、老人斑を形成します。
最近の研究により、
通常のアミロイドβより2個アミノ酸の多い、
アミロイドβ42という変性アミロイドβ蛋白質が、
互いにくっつきやすい性質を持ち、
それが固まることで排泄されずに、
組織に沈着することが分かりました。
アミロイドβ42が凝集し蓄積すると、
髄液のアミロイドβは減少します。
このため現時点で最も早くアルツハイマー病の始まりを診断する検査は、
髄液検査で髄液中のアミロイドβ42の減少を確認することです。
アミロイドβ42の蓄積から10年から15年が経過してから、
今度はリン酸化したタウ蛋白の蓄積が起こります。
(20年とする記載もあります)
異常にリン酸化したタウ蛋白が、
神経細胞内に蓄積し、
それに伴って神経細胞が死滅してゆきます。
アミロイドβ42の蓄積が始まってから、
最短で10年でタウ蛋白の蓄積が始まり、
それから更に15年くらいでようやく物忘れなどの症状が出現します。
つまり、
70歳で発症したアルツハイマー病の最初の変化は、
45歳くらいから既に始まっている、
ということが言えます。
このように、
認知症の症状があって、
アミロイドβの沈着を伴うような脳の変化があれば、
ほぼアルツハイマー型認知症として考えるのが現状の認識です。
タウ蛋白の蓄積自体は、
アルツハイマー型認知症以外でも、
高齢になれば生じることは知られていて、
高齢でゆっくり進行する物忘れなどの症状は、
アルツハイマー型認知症とは別個に、
高齢者タウオパチーと呼ばれていて、
神経原繊維変化型老年期認知症や、
嗜銀顆粒性認知症と病名が付けられています。
ところが…
アルツハイマー型認知症と臨床的に診断されている患者さんのうち、
実は少なからずが別の病気ではないか、
というのが今回の論文の内容です。
その比率は3分の1に達するのではないかという推測もあり、
もし本当であればこれまでの考え方が、
ひっくり返るような事態です。
その本態は、
TDP43という、
アミロイドβともタウ蛋白とも違う、
別個の異常タンパクが脳に沈着するという、
全く別の病気なのです。
これが大脳辺縁系優位型老年期TDP-43脳症、
略してLATEです。
TDP-43というのは、
認知症にもなることがある前頭側頭葉変性症や、
難病の筋委縮性側索硬化症において、
変性した神経細胞などに発現している異常タンパク質で、
その構造は2006年に同定されました。
神経変性疾患の一部は、
このTDP-43の沈着による病気であることが、
徐々に明らかになっているのです。
この中でアルツハイマー型認知症と臨床的には診断されていた事例や、
アミロイドβの沈着が生前に確認されていない老年期認知症の事例で、
死後の解剖所見により、
脳神経細胞にTDP-43が異常に沈着したケースが多く報告されました。
その所見には一定の傾向があり、
一部の事例は海馬の硬化症を伴っていて、
TDP-43の沈着は偏桃体から始まり、
海馬から前頭葉の中前頭回に広がるという特徴のあることが確認されました。
臨床的には比較的高齢発症で、
ゆっくりと進行する認知症の症状が生前に確認されており、
これを大脳辺縁系優位型TDP-43脳症と定義したのです。
TDP-43の同定以降に行われた解剖による病理所見の検討では、
80歳以上の年齢層で2割を超える事例に、
LATEを示唆する所見が認められています。
その多くは生前にはアルツハイマー型認知症と診断をされていました。
その生前のMRI所見は広範な脳萎縮を示し、
アルツハイマー型認知症と違いのない所見です。
ゆっくりと進行する高齢の認知症で、
アミロイドβの沈着が検査により確認されなければ、
従って高率にLATEの可能性が示唆されますが、
アミロイドβのマーカーが陽性であっても、
LATEでβアミロイドの蓄積も伴う事例もあるので、
その認知症の主体がどちらであるかは確実とは言えません。
アルツハイマー型認知症のリスクを高める遺伝子素因は、
同時にLATEのリスクであることも確認されていて、
このことからは、
両者が全く別の病気であるとも言い切れません。
現状明確に両者を鑑別するような検査や症状は見つかっておらず、
その生前診断のための方法の開発が、
今後緊急の課題であると思われます。
アルツハイマー型認知症の治療や研究は、
現時点でやや行き詰まりを見せていますが、
実はその裏にLATEの存在があるのでは、
というのが最も興味深い点で、
今後の研究の進捗を、
大きな興味を持って見守りたいと思います。
認知症についての考え方は、
おそらく今後大きく変わることになりそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの面談などには廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
2019年のBrain誌に掲載された、
最近その重要性がクローズアップされている、
新しい認知症のタイプについての総説です。
老年期認知症の代表と言えばアルツハイマー型認知症です。
この病気は物忘れで始まり、
脳の海馬という部分が萎縮することが特徴です。
進行すれば、全ての認知機能が低下します。
アルツハイマー病の脳では、
老人斑という変化と神経原繊維変化という変化が認められます。
老人斑の主成分はアミロイドβ蛋白で、
神経原繊維変化の主成分はタウ蛋白です。
アルツハイマー病で起こる最も初期の変化は、
アミロイドβ蛋白の蓄積です。
このアミロイドβ蛋白は、
正常の神経細胞からも分泌される物質で、
神経の保護やその成長の促進などに、
一定の役割を持っていると考えられています。
つまり、それがあること自体は害ではないのです。
ところが、
この蛋白が重合し凝集することで、
組織に蓄積し、老人斑を形成します。
最近の研究により、
通常のアミロイドβより2個アミノ酸の多い、
アミロイドβ42という変性アミロイドβ蛋白質が、
互いにくっつきやすい性質を持ち、
それが固まることで排泄されずに、
組織に沈着することが分かりました。
アミロイドβ42が凝集し蓄積すると、
髄液のアミロイドβは減少します。
このため現時点で最も早くアルツハイマー病の始まりを診断する検査は、
髄液検査で髄液中のアミロイドβ42の減少を確認することです。
アミロイドβ42の蓄積から10年から15年が経過してから、
今度はリン酸化したタウ蛋白の蓄積が起こります。
(20年とする記載もあります)
異常にリン酸化したタウ蛋白が、
神経細胞内に蓄積し、
それに伴って神経細胞が死滅してゆきます。
アミロイドβ42の蓄積が始まってから、
最短で10年でタウ蛋白の蓄積が始まり、
それから更に15年くらいでようやく物忘れなどの症状が出現します。
つまり、
70歳で発症したアルツハイマー病の最初の変化は、
45歳くらいから既に始まっている、
ということが言えます。
このように、
認知症の症状があって、
アミロイドβの沈着を伴うような脳の変化があれば、
ほぼアルツハイマー型認知症として考えるのが現状の認識です。
タウ蛋白の蓄積自体は、
アルツハイマー型認知症以外でも、
高齢になれば生じることは知られていて、
高齢でゆっくり進行する物忘れなどの症状は、
アルツハイマー型認知症とは別個に、
高齢者タウオパチーと呼ばれていて、
神経原繊維変化型老年期認知症や、
嗜銀顆粒性認知症と病名が付けられています。
ところが…
アルツハイマー型認知症と臨床的に診断されている患者さんのうち、
実は少なからずが別の病気ではないか、
というのが今回の論文の内容です。
その比率は3分の1に達するのではないかという推測もあり、
もし本当であればこれまでの考え方が、
ひっくり返るような事態です。
その本態は、
TDP43という、
アミロイドβともタウ蛋白とも違う、
別個の異常タンパクが脳に沈着するという、
全く別の病気なのです。
これが大脳辺縁系優位型老年期TDP-43脳症、
略してLATEです。
TDP-43というのは、
認知症にもなることがある前頭側頭葉変性症や、
難病の筋委縮性側索硬化症において、
変性した神経細胞などに発現している異常タンパク質で、
その構造は2006年に同定されました。
神経変性疾患の一部は、
このTDP-43の沈着による病気であることが、
徐々に明らかになっているのです。
この中でアルツハイマー型認知症と臨床的には診断されていた事例や、
アミロイドβの沈着が生前に確認されていない老年期認知症の事例で、
死後の解剖所見により、
脳神経細胞にTDP-43が異常に沈着したケースが多く報告されました。
その所見には一定の傾向があり、
一部の事例は海馬の硬化症を伴っていて、
TDP-43の沈着は偏桃体から始まり、
海馬から前頭葉の中前頭回に広がるという特徴のあることが確認されました。
臨床的には比較的高齢発症で、
ゆっくりと進行する認知症の症状が生前に確認されており、
これを大脳辺縁系優位型TDP-43脳症と定義したのです。
TDP-43の同定以降に行われた解剖による病理所見の検討では、
80歳以上の年齢層で2割を超える事例に、
LATEを示唆する所見が認められています。
その多くは生前にはアルツハイマー型認知症と診断をされていました。
その生前のMRI所見は広範な脳萎縮を示し、
アルツハイマー型認知症と違いのない所見です。
ゆっくりと進行する高齢の認知症で、
アミロイドβの沈着が検査により確認されなければ、
従って高率にLATEの可能性が示唆されますが、
アミロイドβのマーカーが陽性であっても、
LATEでβアミロイドの蓄積も伴う事例もあるので、
その認知症の主体がどちらであるかは確実とは言えません。
アルツハイマー型認知症のリスクを高める遺伝子素因は、
同時にLATEのリスクであることも確認されていて、
このことからは、
両者が全く別の病気であるとも言い切れません。
現状明確に両者を鑑別するような検査や症状は見つかっておらず、
その生前診断のための方法の開発が、
今後緊急の課題であると思われます。
アルツハイマー型認知症の治療や研究は、
現時点でやや行き詰まりを見せていますが、
実はその裏にLATEの存在があるのでは、
というのが最も興味深い点で、
今後の研究の進捗を、
大きな興味を持って見守りたいと思います。
認知症についての考え方は、
おそらく今後大きく変わることになりそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2019-09-20 05:59
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