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成人のRSウイルス感染症 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
RSウイルス.jpg
2019年のBritish Medical Journal誌に解説記事ですが、
成人のRSウイルス感染症についてまとめたものです。

RSウイルスは、
急性気管支炎や肺炎を起こす代表的なウイルスの1つで、
いわゆる「風邪症候群」の代表的な原因ウイルスでもあります。

その発見は1957年のことですが、
2016年以降新しい分類が適応され、
それ以前のパラミクソウイルス科から、
ニューモウイルス科、オルトニューモウイルス属に変更されています。

ただ、ネットなどの医療情報は、
日本語のウィキペディアを含めて、
大多数が古い分類のままの記載になっているようです。

1本鎖のRNAウイルスで11の遺伝子から構成され、
インフルエンザウイルスにも似通った構造で、
AとBという2つの血清型が存在しています。

特に1歳未満の年齢において重症化するため、
お子さんのみの感染症のように思われがちですが、
実際には全ての年齢層において、
風邪症状の原因ウイルスとなり、
インフルエンザと同じように、
高齢者や免疫不全のある患者、喘息や慢性気管支炎など、
肺の慢性の病気のある患者では重症化することが知られています。

その感染は、
北半球では主に冬の寒い時期に流行があり、
一方で熱帯地域では、
夏の雨季に流行があります。

日本でも以前はもっぱら冬のみの流行でしたが、
ここ数年は夏場の流行も見られていて、
気候変動の影響を伺わせています。

RSウイルス感染症には、
インフルエンザ感染症と同じように、
鼻の奥の粘膜から綿棒で検体を取って、
5分程度で診断が可能な迅速診断のキットがあり、
日本の臨床でも広く使用されています。

ただ、健康保険の適応となるのは、
主に入院患者と1歳未満の乳児のみですから、
外来で大人の患者さんにこの検査をすることは、
実際にはあまりありません。

迅速診断は症状が出現してから2時間以内に陽性化するので、
インフルエンザの迅速診断と比較すると、
より早期の診断が可能です。
ただ、上記の記事にはその感度は23から74%と記載されていて、
その信頼性はそれほど高いものではありません。
キットも改良は加えられていると思いますから、
この数値より感度も上がっているとは思われますが、
インフルエンザのキットと比較しても、
その感度は低いということは、
押さえておく必要はありそうです。

いずれにしても、
インフルエンザと比較して診断自体がされないというのは、
これは海外でもそうした傾向はあり、
成人のRSウイルス感染症は軽症という先入観があるので、
あまり検査はされずに「風邪」として処理されることが多いのです。

しかし、
治療を要する急性の呼吸器感染症のうち、
RSウイルスを原因とするものは12%に上るという報告もあります。

ある疫学データにおいては、
同時期にインフルエンザやヒトメタニューモウイルスより、
RSウイルスによる入院の事例の方が多かった、
という結果が報告されています。

ただ、小児と比較して重症の事例が少ないことは事実で、
感染者のうち入院が必要となるのは1%未満とされています。
その一方で成人の感染事例で症状がないのは5%未満とされていて、
RSウイルスに感染すると、
風邪症状はほぼ間違いなく出現するけれど、
それが重症化されることは少ない、
というのが実際であるようです。

ウイルスの性質として、
RSウイルスは下気道を含む気道の表面のみで増殖し、
軽度のダメージを与えるだけなので、
感染される人間の側に大きな問題がなければ、
その感染は軽い咳や痰などの症状のみで軽快します。

高率に肺炎や気管支炎を起こすのは、
高齢者などで免疫機能が低下していたり、
心不全や喘息、慢性気管支炎など、
心臓や肺の病気を持っているような状態に限られているのです。

RSウイルスは基本的にAとBの2種類の血清型しかなく、
その両者の免疫が維持されれば、
感染することはありません。
しかし、実際に感染しても抗体は高いレベルでは維持されず、
成人では1年以内には再感染すると考えられています。
子供でも大人でも繰り返し感染するのがRSウイルスで、
大人が軽い感染で済むことが多いのは、
免疫があるからではなく肺の機能などの違いによっているようです。

現時点で確実にRSウイルス感染症を予防するような方法はありません。

有効なワクチンの開発は成功していません。

RSウイルスに対するモノクローナル抗体として、
パリビズマブ(シナジス)が感染の重症化予防のために使用されています。
日本においては2002年から、
早産児と気管支肺異形成症を対象として使用が認可され、
現在では先天性心疾患や免疫不全症、
ダウン症候群と適応が拡大しています。

また、抗ウイルス剤であるリバベリンの吸入が、
海外では使用されていますが、
現状日本では保険適応はありません。

こうした治療は現時点では小児に限定したものですが、
成人にも有効な可能性はあります。

ただ、その明確な有効性は確認されておらず、
その使用は世界的にも推奨はされていません。

このように、
感染症としては成人でも重要でかつ重症化も多いRSウイルス感染症ですが、
その治療や予防の適応など、
整備されるべき問題点は多く、
今後成人においても、
有用なガイドラインの作成が必要だと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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