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気管支拡張症に対する吸入ステロイドと抗菌剤持続治療の比較 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
気管支拡張症の治療比較.png
2019年のEuropean Respiratory Journal誌に掲載された、
気管支拡張症の治療の有効性を比較した論文です。

気管支拡張症というのは、
伸展性のある肺の気管支が、
その機能を失い、
部分的もしくは全体的に拡張する病気です。

その原因は大きく分けると、
先天性のものと後天性のものがあり、
先天性のものは、
気管支の感染防御機能が、
何らかの原因で障害されていることにより、
若い年齢から気道の感染を繰り返しながら、
気管支拡張症が進行します。

嚢胞線維症はその代表的な病気ですが、
明確な人種差があって、
白人に多くアジアには少ないとされています。

後天性の気管支拡張症は、
肺炎などの肺の感染症により、
持続的な気道の炎症が起こり、
発症することが多く、
小児期のアデノウイルス感染症やマイコプラズマ肺炎、
結核や細菌性肺炎が、
その原因として知られています。

肺炎は勿論後遺症を残さず、
完全に治癒することもありますが、
炎症が持続する結果として、
気道を障害し、
通常部分的な、
気管支の拡張症を来たすことも多いのです。

それ以外に、
自己免疫疾患などでは、
気道の非感染性の炎症が起こり、
それにより気管支拡張症を来たすこともあります。

後天性の気管支拡張症は、
疫学的には中年の女性に多く、
これは自己免疫機序との関わりを、
示すものだと思われます。

気管支拡張症の本態は、
気道の慢性の炎症にあります。

拡張した気管支は、
その正常な機能を失っているので、
その部位で細菌が増殖し易く、
一旦増殖すると完全には除菌されません。

そこで風邪など身体の抵抗力が低下した時に、
拡張した気道で細菌の増殖が起こり、
気管支炎や肺炎などの、
強い炎症を起こすのです。

これを、
気管支拡張症の急性増悪と呼んでいます。

急性増悪を繰り返せば、
障害される気道が増え、
肺の機能は低下します。
これを繰り返すことにより、
気管支拡張症は進行してゆくのです。

気管支拡張症は決して稀な病気ではないと考えられていますが、
日本のみならず海外においても、
あまり明確なその発症頻度は、
報告されていません。

気管支拡張症の診断は、
進行したものであれば、
レントゲンで可能ですが、
正確にはCTが必要です。

従って、
CT検査が増えればその頻度は増加するので、
正確な頻度のデータが取り難い、
という問題があります。
これは甲状腺癌の頻度などと、
同じ問題点です。

また、古い結核の病巣などには、
高率に気管支拡張症を合併しますが、
そうしたものを気管支拡張症にカウントするかどうか、
というような点も明確ではありません。

ただ、たとえば慢性気管支炎などと、
言われるような病態の多くは、
気管支拡張症を伴っている可能性が高いのです。

さて、
このように進行性の病気である気管支拡張症ですが、
現時点で確実に有効な治療は存在していません。

ただ、
そのメカニズムからして、
気道の細菌性の炎症をコントロールすることが、
重要なことは明らかです。

特に緑膿菌という細菌が慢性の炎症を来しているような事例では、
病状は悪化し易く、
治療も困難であることが知られています。

この炎症のコントロールに、
抗生物質を使用する臨床試験が多く行われていますが、
一定の効果が見られたという報告はあるものの、
その効果は限定的で、
かつ耐性菌の誘導など有害な影響も無視出来ません。

また、気道の炎症を抑え呼吸機能を維持する目的で、
吸入ステロイドの使用も行われていますが、
その一定の有効性が報告されている反面、
細菌感染の悪化のリスクを、
高めるという可能性も否定出来ません。

そこで今回の研究では、
先天性の囊胞性線維症を除外した気管支拡張症の患者さんに対して、
吸入ステロイドを使用した場合と、
マクロライドと呼ばれる抗菌剤を持続的に使用した場合とで、
どちらが予後に良い影響を与えるのかを比較検証しています。

アメリカの健康保険のデータより、
年齢が65歳以上の囊胞性線維症を除外した気管支拡張症の患者さんで、
新たに28日以上の吸入ステロイドの治療が開始された83589名と、
新たに28日以上のマクロライド系抗菌薬の治療が開始された6500名を、
年齢などをマッチングさせて抽出し、
その予後の比較を行っています。
例数は多いのですが、
後からデータを解析したもので、
事例を登録して経過を追ったような試験ではありません。

その結果、
吸入ステロイド使用群では、
年間100人当り12.6件の気道感染症による入院があったのに対して、
マクロライド使用群では、
年間100人当り10.3件の入院があり、
マクロライド使用群と比較して吸入ステロイド使用群では、
気道感染による入院のリスクを、
1.39倍(95%CI:1.23から1.57)有意に増加していました。
また気管支拡張症の急性増悪のリスクも、
吸入ステロイド使用群で1.56倍(95%CI:1.49から1.64)
有意に増加していました。
死亡リスクについては有意な差は認められませんでした。

このように、
COPDにおいては一定の有効性が確認されている、
吸入ステロイドの治療ですが、
気管支拡張症の急性増悪の予防という観点からは、
抗菌剤治療と比較して予後の悪化に結び付く可能性が高く、
気管支拡張症に対する吸入ステロイドの使用は、
今後より慎重に考える必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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