高齢者が転倒したら必ずCTを撮るべきなのか? [仕事のこと]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
2019年の6月に、
日本医療安全調査機構が、
上記のような提言を発表しました。
日本医療安全調査機構というのは、
2015年より開始された医療事故調査制度に基づいて、
医療事故調査のサポートをする組織で、
これまでに多くの事故事例を元にした提言を公表しています。
今回の提言は、
2015年から2018年に医療事故調査・支援センターに寄せられた、
入院中の転倒・転落による死亡事例11例の背景を解析し、
そこから医療現場への教訓を引き出そうとしているものです。
その11例は詳細が開示されていますが、
主に入院中の患者さんがベッドから転倒して頭部などを打撲し、
脳内出血や硬膜外血腫などが生じて死亡されたという事例です。
事例は11例中8例が70歳以上と高齢者に多く、
これまでにも転倒などの既往がある場合が6例と、
これも半数を超えていました。
繰り返し同様の転倒を繰り返して、
結果として死亡に至ったケースが多いということです。
また、抗凝固剤や抗血小板剤の使用されているケースは、
7例と多く、
睡眠薬や抗精神病薬の使用されているケースも、
8例と多く、
認知機能低下やせん妄のあるケースも7例となっていました。
これは比較するべき対象はないので、
敢くまで印象にしか過ぎないものなのですが、
全体像として認知機能のある高齢者で、
睡眠剤や抗精神病薬が使用されていて、
抗血小板剤や抗凝固剤が使用されていると、
転倒による死亡に結び付き易いという、
1つの患者イメージのようなものは見えて来ます。
それでは、どのようにしてこうした事態を回避すれば良いのでしょうか?
幾つかの提言がまとめられていますが、
一読かなり問題があると感じたのがこちらです。
転倒直後に特に意識レベルの低下や、
嘔吐や痙攣などの所見はなく、
要するに特に普段と変わらない状態であっても、
ただちに頭部CT撮影が行われることが推奨される、
という提言です。
これは外傷の直後に特に症状がなくても、
脳内に出血などが起こっている可能性はあり、
それが急速に増大して死に至るという危険があるので、
疑いが少しでもあれば全例で撮った方が良い、
という意味合いです。
転倒というのは通常昼より夜に、
深夜や早朝に起こりやすい事態です。
その時に技師さんや当直医を叩き起こしてでも、
直ちにCTを全例で撮るということが可能でしょうか?
現実にはなかなか困難であると言わざるを得ませんし、
結果として問題のないことの方が、圧倒的に多いでしょうから、
その意義や有効性を検証することも、
極めて困難であろうことは推測されます。
これは病院内の事例に限っての提言ですが、
実際には同様のことは高齢者施設などでも問題となります。
病院の患者さんが置かれている状況と、
たとえば老健や特別養護老人ホームの入所者が置かれている状況は、
基本的には変わりはないからです。
それであるならば、同じように転倒して、
同じようにリスクが高いのに、
一方は直ちにCT検査が必要で、
他方は翌朝まで待っても良い、
というようなことはあり得ません。
しかし、それでは特養で転倒後に常に救急車を呼んで、
夜中でも頭部CT検査を症状がなくても依頼する、
というような対応が可能でしょうか?
これは不可能であるとした言いようがありません。
今回この日本医療安全調査機構の提言をまとめて読みましたが、
トータルにはなかなか良い内容が多いと思うのです。
たとえば見逃し易い画像の異常所見の解説や、
中心静脈穿刺の手技の解説などは、
非常に啓蒙的で勉強になる内容です。
ただ、今回の提言はちょっと踏み込み過ぎというか、
その今後に与える影響の大きさというものを、
軽視した軽率な判断であるように思えてなりません。
そもそも少数例の事故事例を元にして、
普遍的な結論を導くことは出来ないのです。
対照群も設定はされていませんし、
報告事例のみですから全体像を推測することは出来ません。
従って、こうした提言においては事例は1つの参考であって、
別個の科学的エビデンスによる指針や提言を、
紹介する入り口のようなものに過ぎないと思うのです。
この少数の事例から、
普遍的な何かが導かれる訳がないからです。
それが今回の提言では、
11例中8例や7例に認められたことを、
その結論であるかのように類推して、
そこから提言を導いているように思えます。
本来今回のようなケースの提言として必要なことは、
よりリスクの高い外傷の患者さんを絞り込めるような、
臨床所見や簡単な診察所見のようなものを、
示すことではないかと思うのです。
それであれば大いに意義のあることですが、
それがないからと言って、
全例で設備の必要な検査を推奨するというのは、
本末転倒であるように思えてなりません。
皆さんはどうお考えになりますか?
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
2019年の6月に、
日本医療安全調査機構が、
上記のような提言を発表しました。
日本医療安全調査機構というのは、
2015年より開始された医療事故調査制度に基づいて、
医療事故調査のサポートをする組織で、
これまでに多くの事故事例を元にした提言を公表しています。
今回の提言は、
2015年から2018年に医療事故調査・支援センターに寄せられた、
入院中の転倒・転落による死亡事例11例の背景を解析し、
そこから医療現場への教訓を引き出そうとしているものです。
その11例は詳細が開示されていますが、
主に入院中の患者さんがベッドから転倒して頭部などを打撲し、
脳内出血や硬膜外血腫などが生じて死亡されたという事例です。
事例は11例中8例が70歳以上と高齢者に多く、
これまでにも転倒などの既往がある場合が6例と、
これも半数を超えていました。
繰り返し同様の転倒を繰り返して、
結果として死亡に至ったケースが多いということです。
また、抗凝固剤や抗血小板剤の使用されているケースは、
7例と多く、
睡眠薬や抗精神病薬の使用されているケースも、
8例と多く、
認知機能低下やせん妄のあるケースも7例となっていました。
これは比較するべき対象はないので、
敢くまで印象にしか過ぎないものなのですが、
全体像として認知機能のある高齢者で、
睡眠剤や抗精神病薬が使用されていて、
抗血小板剤や抗凝固剤が使用されていると、
転倒による死亡に結び付き易いという、
1つの患者イメージのようなものは見えて来ます。
それでは、どのようにしてこうした事態を回避すれば良いのでしょうか?
幾つかの提言がまとめられていますが、
一読かなり問題があると感じたのがこちらです。
転倒直後に特に意識レベルの低下や、
嘔吐や痙攣などの所見はなく、
要するに特に普段と変わらない状態であっても、
ただちに頭部CT撮影が行われることが推奨される、
という提言です。
これは外傷の直後に特に症状がなくても、
脳内に出血などが起こっている可能性はあり、
それが急速に増大して死に至るという危険があるので、
疑いが少しでもあれば全例で撮った方が良い、
という意味合いです。
転倒というのは通常昼より夜に、
深夜や早朝に起こりやすい事態です。
その時に技師さんや当直医を叩き起こしてでも、
直ちにCTを全例で撮るということが可能でしょうか?
現実にはなかなか困難であると言わざるを得ませんし、
結果として問題のないことの方が、圧倒的に多いでしょうから、
その意義や有効性を検証することも、
極めて困難であろうことは推測されます。
これは病院内の事例に限っての提言ですが、
実際には同様のことは高齢者施設などでも問題となります。
病院の患者さんが置かれている状況と、
たとえば老健や特別養護老人ホームの入所者が置かれている状況は、
基本的には変わりはないからです。
それであるならば、同じように転倒して、
同じようにリスクが高いのに、
一方は直ちにCT検査が必要で、
他方は翌朝まで待っても良い、
というようなことはあり得ません。
しかし、それでは特養で転倒後に常に救急車を呼んで、
夜中でも頭部CT検査を症状がなくても依頼する、
というような対応が可能でしょうか?
これは不可能であるとした言いようがありません。
今回この日本医療安全調査機構の提言をまとめて読みましたが、
トータルにはなかなか良い内容が多いと思うのです。
たとえば見逃し易い画像の異常所見の解説や、
中心静脈穿刺の手技の解説などは、
非常に啓蒙的で勉強になる内容です。
ただ、今回の提言はちょっと踏み込み過ぎというか、
その今後に与える影響の大きさというものを、
軽視した軽率な判断であるように思えてなりません。
そもそも少数例の事故事例を元にして、
普遍的な結論を導くことは出来ないのです。
対照群も設定はされていませんし、
報告事例のみですから全体像を推測することは出来ません。
従って、こうした提言においては事例は1つの参考であって、
別個の科学的エビデンスによる指針や提言を、
紹介する入り口のようなものに過ぎないと思うのです。
この少数の事例から、
普遍的な何かが導かれる訳がないからです。
それが今回の提言では、
11例中8例や7例に認められたことを、
その結論であるかのように類推して、
そこから提言を導いているように思えます。
本来今回のようなケースの提言として必要なことは、
よりリスクの高い外傷の患者さんを絞り込めるような、
臨床所見や簡単な診察所見のようなものを、
示すことではないかと思うのです。
それであれば大いに意義のあることですが、
それがないからと言って、
全例で設備の必要な検査を推奨するというのは、
本末転倒であるように思えてなりません。
皆さんはどうお考えになりますか?
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2019-06-20 05:58
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