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モダンスイマーズ「ビューティフルワールド」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
モダンスイマーズ.jpg
劇団モダンスイマーズの20周年記念公演として、
蓬莱竜太さんの作・演出による、
新作の「ビューティフルワールド」が今、
池袋のシアターイーストで上演されています。

蓬莱竜太さんの作品は、
最近何本か観る機会があったのですが、
それほどコアなファンではありません。

今回の作品もちょっと迷いながら足を運んだのですが、
とてもとても面白くて、
その円熟した語り口の妙に魅せられましたし、
2幕構成なのですが、
1幕が終わる頃には、
「これは傑作だ」という確信を持っていました。
後半はちょっとムードが変わって、
ややドタバタ的に展開されたので、
「ああ、そういう風にはしない方がいいのに」
という気持ちに少しなったのですが、
最後の主人公2人の別れの部分は、
滑稽なムードを最初は引き摺りながら、
非常に自然かつ巧みに叙情的水分が浮上して、
ラストもささやかにかつ繊細に締め括られて、
とても爽やかな余韻と共に観劇を終えることが出来ました。

今年観た演劇の中では、
間違いなく最も感銘を受けた1本で、
まごうことなく現在であり現実を描いた作品でありながら、
普遍的な魂のドラマにもなっていました。

小劇場というのは、
こういう体験が出来るので止められません。

傑作です。

以下作品の内容に少し踏み込みます。

鑑賞予定の方は、
観劇後にお読み下さい。

よろしいでしょうか?

津村知与支さん演じる40代の引きこもり男が語り手で、
引きこもっていた実家が火事になったために、
銚子にある親戚の家に引き取られる、
というところから物語は始まります。
そこでは菅原大吉さんと吉岡あきこさん演じる初老の夫婦が、
代々続く和菓子屋を不祥事で潰してしまい、
同じ場所でカフェをやっていて、
その夫婦と20代の1人娘、和菓子屋時代からの従業員という、
小さな共同体の中で、
母親であり妻である吉岡さんが、
疎外され馬鹿にされ孤立した存在となっています。

引きこもりの主人公と吉岡さん演じる初老の女性は、
社会から疎外された同じような境遇の中で、
次第に惹かれ合い、
やや近親相姦的な深い関係に次第に落ちて行くのです。

誰がどう考えてもまともに続く筈がない、
この倒錯的で微妙な関係は、
しかし奇妙に崇高で美しく、
結局は絶望的に別れるしかない2人なのですが、
主人公の心の中にある世界を、
少しだけ愛すべきものに変えて終わります。

作者の蓬莱さんは、
人間の心理の綾と人間関係の力学を描くことが、
本当に上手くて、
この作品でも個々の人物の背景と、
そこから惹起される感情とを、
幾何学方程式のような鋭利さで、
完璧に描出して間然とするところがありません。

語り手的な人物をおいて物語を展開させるのも得意技ですが、
今回の作品では引きこもり男を語り手にしているので、
もともと当事者感覚の乏しい、
何もかも他人事という性格が語り手という役割と合致して、
語り手でありながら主人公で当事者でもある、
という役柄が説得力を持ったという点が、
この作品を成功させた大きな部分であるように思います。

演出はマームとジプシーを思わせるような、
木と金属の枠などを組み合わせた無機的なセットに、
役者や自転車の移動という動きを組み合わせたシンプルなもので、
役者の演技を邪魔しない、
節度のある音効や照明、映像の効果と相俟って、
観客の想像力を適度に刺激して、
叙情的な場面では観客の没入も邪魔しない、
センスを感じるものでした。

最初にも書きましたが、
後半に主人公以外のほぼ全員の、
ドロドロの人間関係の秘密が露になり、
その罵り合いが大いに盛り上がります。
ただ、これはこれでとても面白いのですが、
それまでの繊細な雰囲気がやや壊れた感じがあり、
トータルなバランスという点で考えると、
もう少し抑制的な描写に留めた方が、
良かったように感じました。

キャストは抜群で、
主人公2人のリアルな造形も素晴らしいですし、
脇キャラも細部まで練り上げられていました。

そんな訳で作品・演出・キャストと三拍子揃った傑作で、
演劇は生ものですし、
仮に再演がされるとしても、
今回と同じクオリティとは限りませんから、
ご興味のある方は、
是非に劇場に足を運んで頂きたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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