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橋本病に対する甲状腺全摘術の効果(ノルウェーの介入試験) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
橋本病に対する甲状腺切除の効果.jpg
2019年のAnnals of Internal Medicine誌に掲載された、
橋本病の手術治療についての論文です。

橋本病は甲状腺に慢性の炎症が持続して甲状腺が腫れる病気で、
Tリンパ球に関連する免疫系の異常があり、
甲状腺のペルオキシダーゼやサイログロブリンに対する、
自己抗体が炎症の原因となる、
自己免疫疾患であると考えられています。

無痛性甲状腺炎と呼ばれる炎症を繰り返し、
徐々に甲状腺の予備力が低下して、
甲状腺機能低下症に移行するのが一般的な経過で、
現状は機能低下になった時点で、
甲状腺ホルモン製剤(通常はT4製剤)で治療を行うことが一般的です。

しかし…

橋本病には全身倦怠感や口渇、ドライアイ、
睡眠障害、関節や筋肉の痛みなど、
日常生活に影響を与える多くの症状があることが知られていますが、
甲状腺ホルモン剤によって、
見かけ上機能低下が改善されても、
そうした症状の改善には、
繋がらないことがしばしばあります。

この現象の解釈は単一ではありませんが、
そのうちの1つは、
自己抗体の上昇自体が症状の原因であるというものです。

甲状腺機能が正常化しても、
橋本病の自己抗体が正常化するという訳ではないので、
仮にそうであれば症状は改善しなくてもおかしくはありません。

それでは、
自己抗体による症状を改善する方法はないのでしょうか?

上記文献の著者らが検討しているのは、
甲状腺の全摘出を行うことにより、
自己抗体を甲状腺ごと排除してしまおう、
というやや乱暴とも思える方法です。

確かに無痛性(時には有痛性)の甲状腺炎を繰り返して、
そのコントロールが困難であるようなケースでは、
やむを得ず甲状腺の摘出が検討されることはありますが、
症状のみがあるからと言って、
それで甲状腺を切除してしまうのは、
あまりにリスクが大きすぎるようにも思います。

実際にはどうなのでしょうか?

今回の研究ではノルウェーの単独施設において、
18歳から79歳の橋本病で、
甲状腺ホルモンの使用により甲状腺機能が正常化していても、
倦怠感や睡眠障害などの症状が持続していて、
抗ペルオキシダーゼ抗体が1000IU/mLという高値を示している、
150名の患者さんをくじ引きで2つに分けると、
一方は甲状腺の全摘を行い、
もう一方は甲状腺ホルモンによる治療のみを行って、
18ヶ月の経過観察を施行しています。

その結果、
患者さんのADLと全身倦怠感は、
甲状腺ホルモンのみの治療と比較して、
全摘術で有意に改善が認められました。

この結果は注目すべきものではありますが、
倦怠感などの不定愁訴的な症状の、
何処までが橋本病によるものかの特定が困難な現状で、
甲状腺の全摘を施行するというのは、
かなりラディカルな解決法で、
患者さんにはより長期の検証が不可欠だと思いますし、
今後のより詳細な検証の結果を待ちたいと思います。

ただ、橋本病の患者さんが多くの症状を訴えても、
甲状腺機能が正常であれば、
それのみで治療の選択肢はないという現状は、
患者さんにとって望ましいものではないことは明らかで、
今後対処療法を含めて、
多くの治療が検討されるべきであると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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