血圧を下げることで認知症は予防出来るのか?(SPRINT試験のサブ解析) [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
2019年のJAMA誌に掲載された、
厳格な降圧治療による認知症発症予防効果を検証した論文です。
これは厳格な血圧コントロールの有効性を検証した、
有名なSPRINT試験のデータを活用したものです。
認知症は高齢化社会における最も深刻な健康上の問題ですが、
世界中で研究は進められていながら、
認知症そのものを治療するような治療法の開発は、
あまり進捗が見られていません。
アメリカのFDAが認可した認知症の治療薬は、
2003年以降存在していません。
15年以上足踏み状態が続いているのです。
そこでもう1つの認知症対策の柱となるのが、
認知症の予防です。
認知症はある日突然起こるような病気ではなく、
10年以上の期間を掛けて進行する病気です。
最初は全く症状がないうちに、
異常タンパクの蓄積などの脳の変化が起こり、
それから軽度認知障害(MCI)という、
認知機能の一部のみが低下した状態が出現します。
そこからまた数年以上を掛けて、
認知症への進行するのが一般的な経過なのです。
それでは、
まだ、異常タンパクの沈着が始まったくらいの段階や、
軽度認知障害の段階で、
その後の進行を予防することは出来ないのでしょうか?
動脈硬化と関連のある心血管疾患のリスクと、
認知症のリスクとの間には関連のあることが分かっています。
それが事実とすれば、
心血管疾患の代表的なリスク因子である高血圧を、
厳格にコントロールすることにより、
認知症の進行も予防出来るのではないでしょうか?
有名なSPRINTと呼ばれるアメリカの臨床試験があります。
これはアメリカの102の専門施設において、
収縮期血圧が130mmHg以上で、
年齢は50歳以上。
慢性腎障害や心血管疾患の既往、
年齢が75歳以上など、
今後の心血管疾患のリスクが高いと想定される、
トータル9361名の患者さんを登録し、
くじ引きで2群に分けると、
一方は収縮期血圧を140未満にすることを目標とし、
もう一方は120未満にすることを目標として、
数年間の経過観察を行ない、
その間の心筋梗塞などの急性冠症候群、
脳卒中、心不全、心血管疾患のよる死亡のリスクを、
両群で比較するというものです。
平均観察期間は5年間とされていました。
しかし、平均観察期間3.26年の時点で終了となりました。
これは開始後1年の時点で、
既に統計的に明確な差が現れ、
かつ血圧を強く低下させることにより、
腎機能の低下にも明確な差が現れたことで、
それ以上の継続の意義がない、
と考えられたからです。
その結果は当初の予想を上回るものでした。
収縮期血圧120未満を目標とした、
強化コントロール群は、
140未満を目標とする通常コントロール群と比較して、
トータルな心血管疾患とそれによる死亡のリスクが、
25%有意に低下していたのです。
(Hazard Ratio 0.75 : 95%CI 0.64-0.89)
このSPRINT試験の延長として、
より厳密な降圧治療の認知症予防効果を検証しているのが、
今回の研究です。
SPRINT試験の観察期間のみでは、
認知症の進行を見るには短すぎるので、
試験終了後も3年近いコホート研究としての観察期間を設定し、
トータルで6年近い経過観察を施行しています。
その結果、
観察期間中に認知症と診断されるリスクは、
通常降圧群と比較して厳格降圧群では、
17%低下する傾向を示したものの有意ではありませんでした。
(95%CI: 0.67から1.04)
ただ、軽度認知障害の発症リスクは、
厳格治療群で19%(95%CI: 0.69から0.95)、
軽度認知障害と認知症を併せたリスクも、
厳格治療群で15%(95%CI: 0.74から0.97)、
それぞれ有意に低下していました。
このように、
より厳格な血圧コントロールを行なうことにより、
一定レベル認知症の発症を予防出来る可能性がありますが、
それは軽度認知障害以前の状態において、
より有効であるようです。
ただ、今回のデータでは、
観察期間中のコントロール状態は後半は一定ではなく、
有害事象のチェックも不充分ですから、
これをもって即座に厳格な血圧コントロールが、
認知症予防に有効とは言えません。
今後の知見の蓄積に期待をしたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
2019年のJAMA誌に掲載された、
厳格な降圧治療による認知症発症予防効果を検証した論文です。
これは厳格な血圧コントロールの有効性を検証した、
有名なSPRINT試験のデータを活用したものです。
認知症は高齢化社会における最も深刻な健康上の問題ですが、
世界中で研究は進められていながら、
認知症そのものを治療するような治療法の開発は、
あまり進捗が見られていません。
アメリカのFDAが認可した認知症の治療薬は、
2003年以降存在していません。
15年以上足踏み状態が続いているのです。
そこでもう1つの認知症対策の柱となるのが、
認知症の予防です。
認知症はある日突然起こるような病気ではなく、
10年以上の期間を掛けて進行する病気です。
最初は全く症状がないうちに、
異常タンパクの蓄積などの脳の変化が起こり、
それから軽度認知障害(MCI)という、
認知機能の一部のみが低下した状態が出現します。
そこからまた数年以上を掛けて、
認知症への進行するのが一般的な経過なのです。
それでは、
まだ、異常タンパクの沈着が始まったくらいの段階や、
軽度認知障害の段階で、
その後の進行を予防することは出来ないのでしょうか?
動脈硬化と関連のある心血管疾患のリスクと、
認知症のリスクとの間には関連のあることが分かっています。
それが事実とすれば、
心血管疾患の代表的なリスク因子である高血圧を、
厳格にコントロールすることにより、
認知症の進行も予防出来るのではないでしょうか?
有名なSPRINTと呼ばれるアメリカの臨床試験があります。
これはアメリカの102の専門施設において、
収縮期血圧が130mmHg以上で、
年齢は50歳以上。
慢性腎障害や心血管疾患の既往、
年齢が75歳以上など、
今後の心血管疾患のリスクが高いと想定される、
トータル9361名の患者さんを登録し、
くじ引きで2群に分けると、
一方は収縮期血圧を140未満にすることを目標とし、
もう一方は120未満にすることを目標として、
数年間の経過観察を行ない、
その間の心筋梗塞などの急性冠症候群、
脳卒中、心不全、心血管疾患のよる死亡のリスクを、
両群で比較するというものです。
平均観察期間は5年間とされていました。
しかし、平均観察期間3.26年の時点で終了となりました。
これは開始後1年の時点で、
既に統計的に明確な差が現れ、
かつ血圧を強く低下させることにより、
腎機能の低下にも明確な差が現れたことで、
それ以上の継続の意義がない、
と考えられたからです。
その結果は当初の予想を上回るものでした。
収縮期血圧120未満を目標とした、
強化コントロール群は、
140未満を目標とする通常コントロール群と比較して、
トータルな心血管疾患とそれによる死亡のリスクが、
25%有意に低下していたのです。
(Hazard Ratio 0.75 : 95%CI 0.64-0.89)
このSPRINT試験の延長として、
より厳密な降圧治療の認知症予防効果を検証しているのが、
今回の研究です。
SPRINT試験の観察期間のみでは、
認知症の進行を見るには短すぎるので、
試験終了後も3年近いコホート研究としての観察期間を設定し、
トータルで6年近い経過観察を施行しています。
その結果、
観察期間中に認知症と診断されるリスクは、
通常降圧群と比較して厳格降圧群では、
17%低下する傾向を示したものの有意ではありませんでした。
(95%CI: 0.67から1.04)
ただ、軽度認知障害の発症リスクは、
厳格治療群で19%(95%CI: 0.69から0.95)、
軽度認知障害と認知症を併せたリスクも、
厳格治療群で15%(95%CI: 0.74から0.97)、
それぞれ有意に低下していました。
このように、
より厳格な血圧コントロールを行なうことにより、
一定レベル認知症の発症を予防出来る可能性がありますが、
それは軽度認知障害以前の状態において、
より有効であるようです。
ただ、今回のデータでは、
観察期間中のコントロール状態は後半は一定ではなく、
有害事象のチェックも不充分ですから、
これをもって即座に厳格な血圧コントロールが、
認知症予防に有効とは言えません。
今後の知見の蓄積に期待をしたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2019-02-08 05:56
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