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母親妊娠中のグルテン摂取と1型糖尿病との関連について(2018年デンマークの疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
グルテンと1型糖尿病.jpg
2018年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
小麦に多く含まれるグルテンという蛋白質と、
1型糖尿病の発症との関連についての論文です。

グルテンは小麦などに含まれる蛋白質で、
パンやパスタ、ピッツァなどのモチモチしているのは、
このグルテンの食感によるものです。

セリアックスプルー(Celiac Sprue)という病気があります。

これは白人に多く日本人には極めて稀な、
一種の自己免疫疾患で、
小麦蛋白に含有されるグルテンの成分が、
小腸の粘膜に刺激を与え、
そこに免疫反応が惹起されることで、
自分の身体の小腸上皮細胞を、
免疫系が攻撃するようになり、
小腸の炎症によりその機能が失われて、
重篤な吸収不良に至る、
という病気です。

HLA-DQ2/DQ8という遺伝子を持つ人に発症し易いとされ、
グルテンを食事から除去することにより、
通常症状が改善します。

このように、
体質によってグルテンが異常な免疫反応を惹起することは、
ほぼ間違いのない事実です。

もう1つグルテンと関連があると想定されている病気が、
1型糖尿病です。

1型糖尿病というのは5歳以下で主に発症する、
インスリンの分泌が高度に低下するタイプの糖尿病で、
その病因は膵臓の細胞に対する、
自己免疫機序による炎症であると考えられています。

この病気は欧米のライフスタイルに関連があると想定されていて、
その原因の1つと考えられているのがグルテンです。

高率に糖尿病になるネズミを利用した実験によると、
妊娠している母親のネズミを、
通常の食事ではなくグルテンを含まない食事で栄養すると、
通常の食事では子供のネズミの64%が糖尿病を発症するところ、
グルテン・フリーでは8%に抑制されたと報告されています。

ただ、これは敢くまで動物実験であるので、
人間でも同様の影響があるのかという点については、
まだ明確ではありません。

今回の研究は国民総背番号制を敷いているデンマークのもので、
91745名の女性の101042件の妊娠事例のうち、
妊娠中の食事調査が行われた70188件を対象として、
グルテンの摂取量と子供の1型糖尿病の発症リスクとの関連を検証しています。
最終的に対象となっているのは67565件の妊娠事例です。

食事調査によるグルテンの摂取量は、
平均で1日13.0グラム、
7グラム未満から20グラム以上まで分布していました。

平均で15.6年の経過観察中に、
0.37%に当たる247件で1型糖尿病が発症していました。
妊娠中の食事のグルテンの摂取量が、
毎日10グラム増加する毎に、
子供の1型糖尿病の発症リスクは、
31%(95%CI: 1.001から1.72)有意に増加していました。
グルテンの摂取量が7グラム未満と最も少ない群と比較して、
20グラム以上と最も高い群では、
子供の1型糖尿病の発症リスクは、
2.00倍(95%CI: 1.02から4.00)と、
これも有意に増加していました。

このように今回の大規模な疫学データにおいて、
グルテンの妊娠中の摂取量と、
お子さんの1型糖尿病の発症リスクとの間には、
動物実験と同様の関連が認められました。
ただ、これは食事調査のみのデータで介入試験のような厳密なものではなく、
データ自体信頼区間からは有意と言って良いか微妙なレベルです。
この問題は今後への影響も大きいので、
より厳密な方法での検証が、
急務であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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