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認知症への抗コリン剤使用の脳卒中リスク(2018年スウェーデンの疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
抗コリン剤悪影響の論文.jpg
2018年のJournal of Alzheimer's Disease誌に掲載された、
認知症の患者さんに対する抗コリン作用のある薬剤の使用が、
生命予後と脳卒中の発症リスクに与える影響についての論文です。

抗コリン作用と言うのは、
副交感神経に代表される、
アセチルコリン作動性神経の働きを抑えるというもので、
非常に多くの薬剤がこの作用を持っています。

その中には抗コリン作用そのものが、
薬の効果であるものもありますし、
副作用として抗コリン作用を持つものもあります。

アセチルコリン作動性神経により、
胃や気管支、膀胱などの平滑筋は収縮しますから、
胃痙攣を抑える目的で使用されたり、
気管支拡張剤として、
また過活動性膀胱の治療薬として使用されます。
パーキンソン症候群の補助的な治療薬として、
使用されることもあります。

その一方で、
鼻水や痒みを止める抗ヒスタミン剤や、
抗うつ剤や抗精神薬は、
副作用としての抗コリン作用を持っています。

この抗コリン作用は基本的に末梢神経のものですが、
脳への作用も皆無ではありません。

一方で認知症では脳のアセチルコリン作動性神経の障害が、
早期に起こると考えられています。

そのために、
現在認知症の進行抑制目的で使用されている、
ドネペジル(商品名アリセプトなど)は、
脳内のアセチルコリンを増やす作用の薬です。

抗コリン剤はアセチルコリン作動性神経を抑制する薬ですから、
これがそのまま脳に働けば、
脳のアセチルコリン作動性神経の働きを弱め、
認知症のような症状を出すであろうことは、
当然想定されるところです。

実際に高齢者に抗コリン剤を使用することにより、
せん妄状態や、記憶障害や注意力の障害など、
認知症様の症状が急性に見られることは、
良く知られた事実です。

また最近の幾つかの大規模な疫学データにより、
抗コリン作用を持つ薬剤の長期の使用が、
その後の認知機能の低下と関連があることも、
ほぼ事実であると考えられるようになりました。

その代表的な知見は、
2015年のJAMA Internal Medicine誌に掲載された、
アメリカの大規模疫学データと、
2018年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
イギリスの大規模疫学データです。

いずれのデータにおいても、
抗コリン作用を持つ薬剤の使用は、
その後の認知機能の低下と一定の関連が認められましたが、
2018年の文献においては、
抗コリン作用をもつ薬の脳への影響の強さを、
ACBスケールという指標によって分類していて、
そのスケールが高い場合のみに、
有意な認知症リスクの増加が認められています。

このACBスケールというのは、
抗コリン作用自体はあることが確認されているものの、
それが認知機能に悪影響を与えたという報告のない薬が、
ACBスコアで1点、
脳への抗コリン作用が臨床的に確認されている薬が、2点、
そして更にせん妄などの発生が報告されている薬が、3点、
それ以外の薬は0点というように分類したものです。

具体的には三環系の抗うつ剤やパロキセチンなどのSSRIの大部分、
胃痛などを抑える、アトロピンやスコポラミン、
過活動性膀胱の治療薬である、
トルテロジン(デトルシトール)やオキシブチニン(ポラキス)、
ソリフェナシン(ベシケア)、
オランザピンなどの抗精神病薬、
ヒドロキシジン(アタラックスP)やプロメタジンなどの、
第一世代抗ヒスタミン剤などが、
このACBスコア3点となっています。

それを一覧表にしたものがこちらです。
抗コリン剤悪影響の図.jpg

さて、今回ご紹介する研究はスウェーデンにおいて、
既に認知症のある患者さんへの抗コリン作用のある薬剤の使用が、
その患者さんの予後に与える影響を、
特に脳卒中の発症リスクと生命予後に絞って検証したものです。

脳卒中の既往のない認知症患者、
トータル39107名を対象として、
抗コリン作用のある薬剤の使用と、
脳卒中の発症および総死亡のリスクとの関連を検証しています。

平均で2.31年の観察期間において、
ACBスコアが2以上の抗コリン作用のある薬剤を服用していると、
していない場合と比較して、
総死亡と脳卒中の発症を併せたリスクが、
1.20倍(95%CI: 1.14から1.26)有意に増加していて、
個々のリスクについても、
総死亡のリスクが1.18倍(95%CI: 1.12から1.24)、
脳卒中の発症リスクが1.13倍(95%CI: 1.00から1.27)、
虚血性梗塞の発症リスクが1.15倍(95%CI: 1.00から1.31)、
総死亡のリスク以外は、
やや相関は弱いという気がしますが、
それぞれ有意に増加していました。

このリスクの増加は、
認知症をアルツハイマー型認知症、脳血管性認知症と分けても、
個別にも存在していました。

この結果からは、
ACBスコアが2以上の抗コリン剤を使用していると、
認知症の患者さんの生命予後や、
脳卒中の発症に、
悪影響が生じる可能性が示唆されます。

ただ、そもそも総死亡のリスクと脳卒中を、
組み合わせて解析するという根拠が、
あまり明確ではありませんし、
ACBスコアを2以上でひとまとめにしていて、
過去の疫学データにある、
3のみでの解析が、
行われていないことも釈然としません。
実際には総死亡のリスクは明確に上昇していますが、
脳卒中の発症リスクの増加は、
それほど明確ではないことも気に掛かります。

このように、今回のデータは、
ややその処理に疑問が残るのですが、
現実に少なからずの認知症の患者さんに、
抗コリン作用のある薬剤が使用されていることは事実なので、
今後もこうした投薬と認知症の予後との関連については、
精度の高いデータの蓄積を期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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