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麻疹のワクチンはいつ接種するのが良いのか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
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2018年のBMC Public Health誌に掲載された、
アフリカにおけるお子さんへの麻疹ワクチンの接種時期と、
その生命予後に対する影響を比較検証した論文です。

今日本では麻疹のワクチンは、
風疹との混合であるMRワクチンとして、
生後1歳から早期に摂取する、
と決められています。

現行WHOでは、
麻疹の発症がないような先進国では、
生後1歳の時点での接種を、
麻疹の流行している発展途上国では、
生後9か月での接種を推奨しています。

この接種時期はお母さんから以降する免疫が、
ほぼ消失してから接種した方が、
その有効性が高く、
効果の持続も長い、
という考え方に則っています。

ただ、勿論生後1歳未満で麻疹が流行すれば、
当然感染するリスクは高いので、
流行地域においてはより低い月齢で、
接種を行う必要があるのです。

日本においても、
必要性が高ければ、
生後半年以降での接種は認められていて、
先日の沖縄での麻疹流行の際には、
そうしたワクチン前倒しの措置が取られていました。

そもそもお母さんの免疫がなくなってから、
接種をした方が有効性が高い、
という考え方は正しいのでしょうか?

その点を疑問視するような見解も、
最近は見られるようになっています。

ワクチンの効果には、
その特定のウイルスや細菌による感染症を、
予防するという以外に、
免疫を全体的に賦活して、
他の感染症に対する抵抗性を強化する、
という側面もあります。
これをワクチンの非特異的効果(non-specific effects)と呼んでいて、
WHOの最近の見解では、
BCGワクチンと3種混合(DTP)ワクチン、
そして麻疹のワクチンには、
そのような効果があるとしています。

これが事実であるとすると、
まだお母さんの免疫が残っているうちに、
早期に麻疹ワクチンを接種することにより、
免疫がトータルに賦活されて、
お子さんのトータルな予後が改善する、
という可能性が見えて来ます。

上記文献と同じアフリカでの臨床研究によると、
通常の生後9ヶ月での麻疹ワクチン接種と比較して、
生後4.5ヶ月というより早期の接種をそれ以前に施行すると、
3歳までの総死亡のリスクが、
30%有意に低下した、
という結果が報告されています。
そのサブ解析では、
4.5ヶ月での最初の接種の時点で、
母体からの抗体が残存している方が、
していない場合より死亡リスクはより強く抑制されていました。
麻疹に対する免疫自体は、
母体からの抗体がない方が、
より有効である筈ですから、
この結果は麻疹ワクチンを早期に打つことにより、
ワクチンの非特異的な効果が高まる、
という可能性を示唆しています。

今回の研究は、
アフリカのギニアービサウ共和国(ギニア共和国の隣の小国)
での長期の臨床研究のデータを解析したもので、
麻疹ワクチンを生後9ヶ月未満という早期に接種した場合と、
生後9から11ヶ月に接種した場合、
そして1歳以降で接種した場合の3群に分けて、
お子さんの生命予後を比較しています。

トータルで14813名を解析した結果として、
ワクチン未接種と比較した場合の、
麻疹ワクチン接種群の接種時期によらないお子さんの死亡リスクは、
24%(95%CI: 0.63から0.91)有意に低下していました。

これを接種の時期により比較すると、
生後9ヶ月未満での早期の接種では、
死亡リスクの低下は32%(95%CI: 0.53から0.87)と最も大きく、
9から11ヶ月の接種では23%(95%CI: 0.62から0.96)の低下となり、
1歳以降の接種では接種よる死亡リスクは有意な低下を示しませんでした。

このデータは世界でも衛生状態の悪いと思われる、
アフリカの小国でのもので、
日本のような社会においては、
ワクチンの非特異的効果による死亡リスクの低下は、
それほど大きな影響を与えることはないと思われますが、
麻疹ワクチンの接種時期により、
その非特異的な効果に少なからぬ差がある、
という今回の報告は非常に興味深く、
日本におけるMRワクチンの接種時期についても、
もう少し早めるような議論が、
なされるべきであるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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