うつ病を併発した急性冠症候群に予後に対する抗うつ剤の効果(2018年韓国の検証) [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に都内を廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
2018年のJAMA誌に掲載された、
抗うつ剤の使用と心臓病の予後との関連を検証した論文です。
うつ病はそれ自体健康上の大きな問題であるとともに、
他の身体の病気の経過にも、
大きな影響を与えることは、
これまでの多くの疫学データから、
ほぼ実証されている事項です。
たとえば、心筋梗塞などの急性冠症候群という状態においては、
その発症後に高率にうつ症状を発症し、
それが心疾患自体の予後にも少なからず影響を与えることが、
これも多くの疫学データからほぼ実証されている事項です。
それでは、
急性冠症候群を発症した患者さんに、
うつ状態に対する治療を行うと、
心疾患の予後にも良い影響を与えるのではないでしょうか?
本来こうした場合のうつ病に対する治療というのは、
薬物治療だけではない筈ですが、
実際に急性冠症候群を発症した直後において、
精神療法やカウンセリングというのも、
現実的には困難で、
医療現場としてはそこまでの余裕はないことが殆どです。
従って、
少なくとも臨床試験としては、
抗うつ剤を使用してその効果を偽薬と比較する、
というようなデザインになることが多いのです。
これまでにも幾つか、
こうしたデザインの臨床試験が行われていますが、
抗うつ剤の効果が明確に確認された、
というような結果は得られていません。
今回の研究は韓国で行われたもので、
急性冠症候群に罹患し、うつ状態を合併している患者さん、
トータル300名を登録し、
患者さんにも主治医にも分からないように、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方は抗うつ剤のエスシタロプラム(商品名レクサプロ)を、
1日5から20ミリグラム(日本での用量と同じ)で使用し、
もう一方は偽薬を使用して、
24週間の治療効果を比較しています。
その結果、
治療期間中の総死亡と、
心筋梗塞の発症、およびカテーテル治療の施行を併せたリスクは、
抗うつ剤使用群で31%(95%CI: 0.49から0.96)
有意に低下していました。
個別のリスクについては、
総死亡や心疾患による死亡、
カテーテル治療実施のリスクについては、
偽薬との間で有意な差はなく、
心筋梗塞の発症リスクのみが、
46%(95%CI: 0.27から0.96)と有意に低下していました。
今回の結果もやや微妙なもので、
心筋梗塞の急性期の再発リスクのみが、
有意差を牽引していることが、
今回のみのやや特殊な結果であるようにも思われます。
また、そもそも病気の発症とその治療のストレスが、
うつ発症の要因であると考えると、
その原因に切り込まずに薬物治療を行う、
という考え方自体にも、
やや問題があるようにも思います。
いずれにしても、
身体的な病気であっても、
その治療の経過における精神状態が、
その予後に大きく影響与えるという事実が、
急性期の医療においても、
大きな問題であることは間違いがなく、
今後また切り口を変えた方法で、
この問題への適切な対応が、
幅広く議論されることを期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に都内を廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
2018年のJAMA誌に掲載された、
抗うつ剤の使用と心臓病の予後との関連を検証した論文です。
うつ病はそれ自体健康上の大きな問題であるとともに、
他の身体の病気の経過にも、
大きな影響を与えることは、
これまでの多くの疫学データから、
ほぼ実証されている事項です。
たとえば、心筋梗塞などの急性冠症候群という状態においては、
その発症後に高率にうつ症状を発症し、
それが心疾患自体の予後にも少なからず影響を与えることが、
これも多くの疫学データからほぼ実証されている事項です。
それでは、
急性冠症候群を発症した患者さんに、
うつ状態に対する治療を行うと、
心疾患の予後にも良い影響を与えるのではないでしょうか?
本来こうした場合のうつ病に対する治療というのは、
薬物治療だけではない筈ですが、
実際に急性冠症候群を発症した直後において、
精神療法やカウンセリングというのも、
現実的には困難で、
医療現場としてはそこまでの余裕はないことが殆どです。
従って、
少なくとも臨床試験としては、
抗うつ剤を使用してその効果を偽薬と比較する、
というようなデザインになることが多いのです。
これまでにも幾つか、
こうしたデザインの臨床試験が行われていますが、
抗うつ剤の効果が明確に確認された、
というような結果は得られていません。
今回の研究は韓国で行われたもので、
急性冠症候群に罹患し、うつ状態を合併している患者さん、
トータル300名を登録し、
患者さんにも主治医にも分からないように、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方は抗うつ剤のエスシタロプラム(商品名レクサプロ)を、
1日5から20ミリグラム(日本での用量と同じ)で使用し、
もう一方は偽薬を使用して、
24週間の治療効果を比較しています。
その結果、
治療期間中の総死亡と、
心筋梗塞の発症、およびカテーテル治療の施行を併せたリスクは、
抗うつ剤使用群で31%(95%CI: 0.49から0.96)
有意に低下していました。
個別のリスクについては、
総死亡や心疾患による死亡、
カテーテル治療実施のリスクについては、
偽薬との間で有意な差はなく、
心筋梗塞の発症リスクのみが、
46%(95%CI: 0.27から0.96)と有意に低下していました。
今回の結果もやや微妙なもので、
心筋梗塞の急性期の再発リスクのみが、
有意差を牽引していることが、
今回のみのやや特殊な結果であるようにも思われます。
また、そもそも病気の発症とその治療のストレスが、
うつ発症の要因であると考えると、
その原因に切り込まずに薬物治療を行う、
という考え方自体にも、
やや問題があるようにも思います。
いずれにしても、
身体的な病気であっても、
その治療の経過における精神状態が、
その予後に大きく影響与えるという事実が、
急性期の医療においても、
大きな問題であることは間違いがなく、
今後また切り口を変えた方法で、
この問題への適切な対応が、
幅広く議論されることを期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2018-08-15 07:38
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