コハク酸の内蔵脂肪燃焼効果 [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日からクリニックは通常の診療に戻ります。
本日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
2018年のNature誌のレターですが、
食品にも含まれている物質に、
内臓脂肪の燃焼効果があるのではないか、
というネズミの動物実験の論文です。
これまでにない代謝のメカニズムを示唆するもので、
大変興味深い報告であることは間違いがありません。
内臓脂肪の蓄積が、
動脈硬化を進行させ生活習慣病の原因となることは、
多くの信頼のおける研究によって、
実証されている事実です。
内蔵脂肪を減らすには、
食事制限や運動を、
地道に継続するしかない、
というのが現時点での一般的な考え方です。
しかし、それを実践し持続することは、
そうたやすいことではありません。
脂肪細胞に蓄えられた脂肪を燃焼させるのには、
膨大なエネルギーが必要となる、
というのは以前良く聞かれていた説明です。
ただ、これは脂肪細胞のうち、
白色脂肪細胞と呼ばれる細胞に、
ため込まれた脂肪についての話です。
脂肪細胞には白色脂肪細胞以外にもう1つ、
褐色脂肪細胞という種類があります。
この褐色脂肪細胞にはエネルギーを熱に変えるという性質があり、
その仕組みが刺激されると、
ため込まれた脂肪は比較的容易に燃焼して、
熱に変わるのです。
たとえば、非常に寒く気温の低い環境に入ると、
そのストレスによって交感神経が刺激され、
褐色脂肪細胞が脂肪を燃焼させて熱を出し、
体温を維持しようという仕組みが働くことが分かっています。
ただ、問題はこのような脂肪燃焼細胞は、
身体全体の脂肪細胞のうち、
ごくわずかした存在していない、
という点にあります。
ところが、比較的最近の知見によると、
運動により筋肉で産生されるホルモンの刺激などにより、
白色脂肪細胞が褐色脂肪細胞に似た、
熱産生型の細胞に、
変化するという仕組みが存在しているということも、
また明らかになっています。
この褐色脂肪細胞に似た細胞を、
ベージュ細胞のように表現することがあります。
ここにおいて、
効率良く内臓脂肪を燃焼させるには、
ベージュ細胞や褐色脂肪細胞を増やすことと、
そうした脂肪燃焼細胞に、
脂肪燃焼のシグナルを与えることの、
両方が内臓脂肪の減少のためには重要である、
ということが分かります。
このうちベージュ細胞の増加については、
運動により筋肉から分泌されるアイリシンという一種のホルモンが、
ベージュ細胞を増やすという知見や、
交感神経のβ3という受容体が刺激されると、
ベージュ細胞が増えるという知見などがあります。
それでは、
褐色脂肪細胞やベージュ細胞において、
熱産生を促すような刺激は何かないのでしょうか?
シンプルに寒冷への曝露は、
脂肪を燃やし熱産生を促す強い刺激なります。
しかし、それだからと言って、
常に身体を冷やしていれば別の病気になってしまいます。
それ以外に、
安全で効率的に脂肪を燃焼させるような刺激は、
何かないのでしょうか?
今回の研究においては、
身体の中において存在する物質に、
褐色脂肪細胞やベージュ細胞における熱産生を、
刺激するようなものがあるのではないか、
という過程のもとに、
寒冷刺激により褐色脂肪細胞において、
増加する物質を総ざらいで調べ、
その中でコハク酸という食品にも含まれる物質が、
その条件を満たすことを確認。
今度はネズミの実験で血液中のコハク酸濃度を高めると、
それだけで褐色細胞での熱産生が高まり、
脂肪が燃焼することが確認されています。
褐色脂肪細胞には、
UCP1(ミトコンドリア脱共役蛋白質1)という、
一種のエネルギー変換器のような蛋白質があり、
コハク酸による脂肪燃焼効果は、
このUCP1を介したものであることが、
UCP1の遺伝子のないネズミを使った実験で、
これも確認されています。
最後に高脂肪食を与えているネズミにおいて、
飲み薬のようにコハク酸を使用すると、
使用したネズミは太りにくくなることも確認されました。
つまり、
コハク酸を飲み、
血液のコハク酸濃度が上昇するだけで、
運動と同じような脂肪燃焼効果があり、
内臓脂肪が高率的に減少することが、
ネズミにおいては確認されたのです。
この実験はまだネズミのもので、
人間でも同じ効果が得られるかどうかは、
まだ証明されていない、という点には注意が必要がですが、
コハク酸は貝のうまみ成分で、
貝類の多く含まれると共に、
お酒の味の成分の1つでもあり、
食品添加物としても使用されていて、
安全性には大きな問題はないと考えられています。
勿論大量に使用された場合の安全性については、
まだ未知数と考えた方が良いと思いますが、
比較的使用のハードルの低い、
サプリメントや添加物としても販売されている物質に、
こうした画期的な作用が認められた意義は大きく、
今後の知見の積み重ねに期待したいと思います。
非常に有用な知見だと思いますが、
同じNature誌のレターで、
以前報告された筋肉由来のホルモンであるアイリシンの効果は、
今ではやや疑問視されているという事例もありますから、
この知見についても、
まだ飛びつくのは早すぎる、
という気はしています。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日からクリニックは通常の診療に戻ります。
本日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
2018年のNature誌のレターですが、
食品にも含まれている物質に、
内臓脂肪の燃焼効果があるのではないか、
というネズミの動物実験の論文です。
これまでにない代謝のメカニズムを示唆するもので、
大変興味深い報告であることは間違いがありません。
内臓脂肪の蓄積が、
動脈硬化を進行させ生活習慣病の原因となることは、
多くの信頼のおける研究によって、
実証されている事実です。
内蔵脂肪を減らすには、
食事制限や運動を、
地道に継続するしかない、
というのが現時点での一般的な考え方です。
しかし、それを実践し持続することは、
そうたやすいことではありません。
脂肪細胞に蓄えられた脂肪を燃焼させるのには、
膨大なエネルギーが必要となる、
というのは以前良く聞かれていた説明です。
ただ、これは脂肪細胞のうち、
白色脂肪細胞と呼ばれる細胞に、
ため込まれた脂肪についての話です。
脂肪細胞には白色脂肪細胞以外にもう1つ、
褐色脂肪細胞という種類があります。
この褐色脂肪細胞にはエネルギーを熱に変えるという性質があり、
その仕組みが刺激されると、
ため込まれた脂肪は比較的容易に燃焼して、
熱に変わるのです。
たとえば、非常に寒く気温の低い環境に入ると、
そのストレスによって交感神経が刺激され、
褐色脂肪細胞が脂肪を燃焼させて熱を出し、
体温を維持しようという仕組みが働くことが分かっています。
ただ、問題はこのような脂肪燃焼細胞は、
身体全体の脂肪細胞のうち、
ごくわずかした存在していない、
という点にあります。
ところが、比較的最近の知見によると、
運動により筋肉で産生されるホルモンの刺激などにより、
白色脂肪細胞が褐色脂肪細胞に似た、
熱産生型の細胞に、
変化するという仕組みが存在しているということも、
また明らかになっています。
この褐色脂肪細胞に似た細胞を、
ベージュ細胞のように表現することがあります。
ここにおいて、
効率良く内臓脂肪を燃焼させるには、
ベージュ細胞や褐色脂肪細胞を増やすことと、
そうした脂肪燃焼細胞に、
脂肪燃焼のシグナルを与えることの、
両方が内臓脂肪の減少のためには重要である、
ということが分かります。
このうちベージュ細胞の増加については、
運動により筋肉から分泌されるアイリシンという一種のホルモンが、
ベージュ細胞を増やすという知見や、
交感神経のβ3という受容体が刺激されると、
ベージュ細胞が増えるという知見などがあります。
それでは、
褐色脂肪細胞やベージュ細胞において、
熱産生を促すような刺激は何かないのでしょうか?
シンプルに寒冷への曝露は、
脂肪を燃やし熱産生を促す強い刺激なります。
しかし、それだからと言って、
常に身体を冷やしていれば別の病気になってしまいます。
それ以外に、
安全で効率的に脂肪を燃焼させるような刺激は、
何かないのでしょうか?
今回の研究においては、
身体の中において存在する物質に、
褐色脂肪細胞やベージュ細胞における熱産生を、
刺激するようなものがあるのではないか、
という過程のもとに、
寒冷刺激により褐色脂肪細胞において、
増加する物質を総ざらいで調べ、
その中でコハク酸という食品にも含まれる物質が、
その条件を満たすことを確認。
今度はネズミの実験で血液中のコハク酸濃度を高めると、
それだけで褐色細胞での熱産生が高まり、
脂肪が燃焼することが確認されています。
褐色脂肪細胞には、
UCP1(ミトコンドリア脱共役蛋白質1)という、
一種のエネルギー変換器のような蛋白質があり、
コハク酸による脂肪燃焼効果は、
このUCP1を介したものであることが、
UCP1の遺伝子のないネズミを使った実験で、
これも確認されています。
最後に高脂肪食を与えているネズミにおいて、
飲み薬のようにコハク酸を使用すると、
使用したネズミは太りにくくなることも確認されました。
つまり、
コハク酸を飲み、
血液のコハク酸濃度が上昇するだけで、
運動と同じような脂肪燃焼効果があり、
内臓脂肪が高率的に減少することが、
ネズミにおいては確認されたのです。
この実験はまだネズミのもので、
人間でも同じ効果が得られるかどうかは、
まだ証明されていない、という点には注意が必要がですが、
コハク酸は貝のうまみ成分で、
貝類の多く含まれると共に、
お酒の味の成分の1つでもあり、
食品添加物としても使用されていて、
安全性には大きな問題はないと考えられています。
勿論大量に使用された場合の安全性については、
まだ未知数と考えた方が良いと思いますが、
比較的使用のハードルの低い、
サプリメントや添加物としても販売されている物質に、
こうした画期的な作用が認められた意義は大きく、
今後の知見の積み重ねに期待したいと思います。
非常に有用な知見だと思いますが、
同じNature誌のレターで、
以前報告された筋肉由来のホルモンであるアイリシンの効果は、
今ではやや疑問視されているという事例もありますから、
この知見についても、
まだ飛びつくのは早すぎる、
という気はしています。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2018-08-14 08:30
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コメント(2)
いつも楽しく役に立つお話、ありがとうございます。
枝葉末節の問題で申し訳ありませんが、アイリシンに関する研究は、測定方法に問題があり、それ以前の研究は信用できないということになったと思いましたが、その後、進展があったのでしょうか。
(否定的)
http://new2.immunoreg.jp/modules/bulletin/index.php?page=article&storyid=159
(否定的)
http://mottokorea.com/mottoKoreaW/People_list.do?bbsBasketType=R&seq=19719
(一部肯定的)
https://square.umin.ac.jp/massie-tmd/irisin.html
by 山口 (2018-08-15 11:23)
山口さんへ
全て確認をしている訳ではありませんが、
多分それほどの進展はないと思います。
by fujiki (2018-08-15 11:52)