膵臓癌発症に関わる生殖細胞突然変異とその意義について [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームや保育園の診療には廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
2018年のJAMA誌に掲載された、
膵臓癌の遺伝子変異の意義を検証した論文です。
癌というのは遺伝子の変異が複数蓄積することで、
発症に至ると考えられています。
このうちで遺伝性の癌や癌の素因として影響するのは、
生殖細胞に起こる突然変異で、
これは親から子供に形質として遺伝します。
たとえば癌抑制遺伝子に関する生殖細胞突然変異があれば、
癌細胞が身体で生まれた時に、
それを修復するような力が弱いので、
それだけ癌が発症し易いと考えられます。
家族性乳癌の原因遺伝子として有名な、
BRCA1やBRCA2の遺伝子の変異は、
こうした生殖細胞突然変異の1つで、
この変異があることにより、
高率に乳癌が発症することが知られています。
予後の悪い癌として有名な膵臓癌(浸潤性膵管癌)にも、
複数の原因遺伝子としての生殖細胞突然変異が知られていますが、
そのスクリーニングや経過観察における意義は、
まだ定まったものではありません。
今回の研究はメイヨー・クリニックにおいて、
膵臓癌に関連する可能性のある21種類の生殖細胞突然変異と、
膵臓癌のリスクとの関連を、
3030例の膵臓癌の事例と、
癌のない123136名のコントロールと比較して、
検証しています。
その結果、
21種類の遺伝子変異のうち、
6種類の変異がそれぞれ独立して、
膵臓癌のリスクと関連を持っていました。
最も膵臓癌のリスクと関連があったのは、
CDKN2Aという癌抑制遺伝子の変異で、
膵臓癌群の0.3%、コントロール群の0.02%で認められ、
この変異があることにより、
膵臓癌のリスクは12.33倍(95%CI: 5.43から25.61)有意に増加していました。
それ以外にBRCA1、BRCA2、TP53、ATM、MLH1という5つの遺伝子の変異が、
CDKN2A遺伝子ほどではありませんが、
それぞれ有意に膵臓癌のリスクを増加させていました。
この6つの遺伝子変異を併せてみると、
膵臓癌の患者さん全体のうち5.5%は、
何らかのこれらの遺伝子変異を持っていました。
遺伝性の癌に限るとその比率は7.9%に増加していました。
このように、
遺伝子変異の有無により膵臓癌のリスクは上昇しますが、
全体に占めるその比率はそれほど高いものではないので、
どのような対象者に検査をすることが、
有用性が高いのかの検証が必要ですし、
遺伝性でCDKN2A遺伝性の解析を行って、
膵臓癌のスクリーニングを、
変異の陽性者で継続したところ、
通常より予後が良かった、
という報告もあるので、
今後どのような遺伝子変異を組み合わせて、
スクリーニングを施行することが、
患者さんの予後の改善に結び付くのか、
その観点での検証にも期待をしたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームや保育園の診療には廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
2018年のJAMA誌に掲載された、
膵臓癌の遺伝子変異の意義を検証した論文です。
癌というのは遺伝子の変異が複数蓄積することで、
発症に至ると考えられています。
このうちで遺伝性の癌や癌の素因として影響するのは、
生殖細胞に起こる突然変異で、
これは親から子供に形質として遺伝します。
たとえば癌抑制遺伝子に関する生殖細胞突然変異があれば、
癌細胞が身体で生まれた時に、
それを修復するような力が弱いので、
それだけ癌が発症し易いと考えられます。
家族性乳癌の原因遺伝子として有名な、
BRCA1やBRCA2の遺伝子の変異は、
こうした生殖細胞突然変異の1つで、
この変異があることにより、
高率に乳癌が発症することが知られています。
予後の悪い癌として有名な膵臓癌(浸潤性膵管癌)にも、
複数の原因遺伝子としての生殖細胞突然変異が知られていますが、
そのスクリーニングや経過観察における意義は、
まだ定まったものではありません。
今回の研究はメイヨー・クリニックにおいて、
膵臓癌に関連する可能性のある21種類の生殖細胞突然変異と、
膵臓癌のリスクとの関連を、
3030例の膵臓癌の事例と、
癌のない123136名のコントロールと比較して、
検証しています。
その結果、
21種類の遺伝子変異のうち、
6種類の変異がそれぞれ独立して、
膵臓癌のリスクと関連を持っていました。
最も膵臓癌のリスクと関連があったのは、
CDKN2Aという癌抑制遺伝子の変異で、
膵臓癌群の0.3%、コントロール群の0.02%で認められ、
この変異があることにより、
膵臓癌のリスクは12.33倍(95%CI: 5.43から25.61)有意に増加していました。
それ以外にBRCA1、BRCA2、TP53、ATM、MLH1という5つの遺伝子の変異が、
CDKN2A遺伝子ほどではありませんが、
それぞれ有意に膵臓癌のリスクを増加させていました。
この6つの遺伝子変異を併せてみると、
膵臓癌の患者さん全体のうち5.5%は、
何らかのこれらの遺伝子変異を持っていました。
遺伝性の癌に限るとその比率は7.9%に増加していました。
このように、
遺伝子変異の有無により膵臓癌のリスクは上昇しますが、
全体に占めるその比率はそれほど高いものではないので、
どのような対象者に検査をすることが、
有用性が高いのかの検証が必要ですし、
遺伝性でCDKN2A遺伝性の解析を行って、
膵臓癌のスクリーニングを、
変異の陽性者で継続したところ、
通常より予後が良かった、
という報告もあるので、
今後どのような遺伝子変異を組み合わせて、
スクリーニングを施行することが、
患者さんの予後の改善に結び付くのか、
その観点での検証にも期待をしたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2018-06-22 06:10
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コメント(4)
膵臓癌は千代の富士、星野監督や任天堂社長ら、頻繁に健康チェックに気をつけていたであろう著名人でも命を落としておられるために一般人としても、怖いです。膵臓癌スクリーニング検査の発展とともに、より効果的で生存率の高まる治療方法や抗がん剤の開発を望んでいます。
しかし現状としてはそれに至らないようですが、「膵臓癌を超早期に見つけこれで命を落とさずに済む検査」について先生は何がベストだとお考えになりますか?
自分は、毎年人間ドックで膵胆肝のMRCPを受けています。しかし別の病院で今年たまたま受けた造影CTスキャン検査で1cmの膵嚢胞が発見され、超音波でも膵嚢胞を確認でき、ただ小さいので経過観察(年一回)と言われまして、そのつもりでいたところ同日に受けたMRIでははっきり写らずに確認できなかったのでもう受診に必要がないと言われ…。
今まで毎年受けてきたMRCPでも指摘がなかったので、MRIは意味がないのかな? 造影CTを毎年撮った方がいいのかな? そもそも、どの程度の間隔でなんの受けておけば膵嚢胞があっても膵臓癌に怯えることなくいられるのか、判断が難しいです。
一概にいうのは困難でしょうが、一般論として先生ならどの程度の検査を受けたいとお思いになりますか?
検査の結果を聞いてからというもの、夏の怪談話よりも不可解で肝を冷やしております。
by 優 (2018-07-20 13:16)
ちなみにMRIには写っていないものの超音波と造影CTには、はっきり膵嚢胞がうつっており、分枝なんとかで管にふくらみがある程度だ、とのことでした。
by 優 (2018-07-20 13:19)
優さんへ
今のところ悪性度の高い浸潤性膵管癌を、
確実に治癒可能な状態で発見する、
ということは難しいのではないかと思います。
MRIの解像度の問題もあるのではないかと思いますが、
MRCPは造影なしでは、
細部の判断は難しい面があるかとも思います。
ただ、嚢胞性膵腫瘍の多くは良性なので、
あまり神経質になる必要はないのではないか、
というようにも思います。
同じ時期に摂ったMRIとCTとを比較してみることは、
今後のフォローのためには有用ではないかと思います。
by fujiki (2018-07-20 16:04)
理解しました。ありがとうございます。造影剤を入れてMRCPやCTを頻繁に撮るとそれはそれでリスクもありましょうし、悪性で進行の早い厄介なのができないことを願うしかなさそうですね。ただ膵嚢胞がある人はそれ自体が悪性化するリスクに加えて、別の部位に膵癌ができるリスクも高い(22.5倍も?)とのことで、ビクビクしてしまいます。昔は、一般的に癌が発見されると、その治癒率が低かったためショックを受けないよう告知さえしなかったですよね。今は治せる癌が増えたことや、緩和ケア、人の考えの変化に伴ってそういうことは一般的ではなくなりましたが。近い未来に膵臓の癌についても早期発見ができ治癒率が向上しますよう。ありがとうございました。週末の記事も楽しみにしています。
by 優 (2018-07-27 01:34)