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一過性脳虚血発作(TIA)の予後と循環代謝疾患との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
TIAと循環代謝疾患の予後.jpg
2018年のStroke誌に掲載された、
一過性の脳卒中の発作を起こした患者さんの生命予後を、
糖尿病や心疾患との合併に重点を置いて検証した論文です。

一過性脳虚血発作(TIA)というのは、
麻痺や失語などの脳卒中様の症状が、
一時的に出現してその後に元に戻る、
という経過を指した言葉で、
脳の血管が血栓によって一時的に詰まり、
それから血栓が溶けたり流れ去ることで短時間で症状が元に戻る、
というような場合と、
脳を栄養する血管の一部に狭い場所があって、
血圧の低下など血流が低下した時に、
一時的に虚血となって症状が出る、
というような2つの場合があると想定されています。

TIAは脳卒中の前兆、
というように考えられることが多く、
症状はすぐに改善しても、
脳卒中に準じて治療や予防を開始することが推奨されています。

それは、
TIAを起こした人の10から15%が脳梗塞になり、
その半数は48時間以内に発症している、
というデータがあるからです。

そして、より長期的に見た場合、
TIAを起こした人の生命予後は、
起こさない人よりも悪いという疫学データも存在しています。

ただ、このTIA後の生命予後の悪化が、
脳梗塞の前兆としてのものなのか、
それとも別個の病気などの関与が大きいのかについては、
あまり明確なことが分かっていません。

近年循環代謝疾患とか、
心代謝疾患という考え方があり、
英語ではCardiometabolic diseases などと言っていますが、
これは血管疾患の脳梗塞や虚血性心疾患と、
糖尿病などの代謝疾患とが互いに関連していて、
その2つ以上があるとより生命予後に悪影響がある、
というような考え方です。

今回の研究はその考え方を元に、
アメリカのメイヨー・クリニックにおいて、
新規のTIAで入院した患者さん、
トータル251名を登録し、
5年間の観察期間中に、
循環代謝疾患である、
糖尿病、虚血性心疾患、心不全、心房細動のいずれかを併発するリスクと、
その併発が患者さんの生命予後に与える影響を検証したものです。

その結果、
5年間にこの251名のうち、
53%に当たる134名が1つ以上の循環代謝疾患を、
22%に当たる55名が2つ以上の循環代謝疾患を併発していて、
491件の再入院(27%が循環代謝疾患によるもの)があり、
75名が死亡(36%が循環代謝疾患によるもの)していました。

1つ以上の循環代謝疾患を経過中に併発すると、
TIAの患者さんの経過観察中の死亡リスクは、
1.89倍(95%CI; 1.17から3.03)有意に増加していました。
また、入院が1回あると、
その度に死亡リスクが1.5倍(95%CI; 1.37から1.64)
有意に増加していました。

つまり、TIAを1回起こした患者さんの生命予後には、
糖尿病や虚血性心疾患などの循環代謝疾患を、
併発するかどうかが大きく影響していて、
その予後を改善するためには、
脳梗塞の予防のみならず、
心疾患や糖尿病の予防も同じように重要なのではないか、
という結果です。

西洋医学というのは、
どうしても病気中心主義となり、
1つの病気の予防や治療という観点で考えがちですが、
この循環代謝疾患もそうですし、
メタボという概念もまたそうですが、
複数の病気や病態が互いに関連するという考え方が、
今後はより重要になるのではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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有

先生のブログは、ネタが豊富で 自分に関係ない症例でも知識を得るきっかけになります。しかも、〜と〜の関係など、一筋縄ではない盲点になりがちなネタ(と言っていいのか)があり、身体の作り、働きは複雑だなぁと実感します。
いま私が関心があるのは、「胃の手術とNASH(非アルコール性脂肪肝炎)」についてです。近しい人にもう随分と前に胃の手術をして全摘した人がおり、がんはすっかり治して普段の生活をしているものの、この数年で肝臓の数字がオーバー、エコーを受けたら肝臓が丸くなり? 脂肪肝になっていたため糖質制限中とのこと。
その人は手術以降痩せて酒も飲まないのに、まさか脂肪肝とは思いもしませんでした。
聞けばGOT30 GPT40 γ-GT 40 LDH230で、私自身の数字と比べると高いねなんて話していますが、普通の脂肪肝と違ってこれ以上ダイエットも望めない(痩せすぎている)し、非アルコール性脂肪肝炎や肝がんにならないようにするにはどうしたらいいのか、NASHが進行しないような注意点があるのかなど、すごく関心があります。
先生の関心分野とは異なっていたら恐縮ですが、もしも今後機会がありましたら、(近年、胃癌で胃を切ったあとも元気に生活している人が増えていますから)、肥満でないのに脂肪肝になってしまうようなケース、特に胃の手術後の脂肪肝炎や肝障害を酷くしない生活ついての記事を期待します。
by 有 (2018-02-01 17:10) 

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