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プロトンポンプ阻害剤と抗血小板剤併用の脳卒中リスクについて [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
PPIと抗血小板剤との併用のリスク.jpg
2018年のStroke誌に掲載された、
抗血小板剤という血液をサラサラにする薬と、
プロトンポンプ阻害剤という胃薬を併用することによる、
脳卒中などの発症リスクへの影響を検証した論文です。

プロトンポンプ阻害剤は、
強力な胃酸分泌の抑制剤で、
従来その目的に使用されていた、
H2ブロッカ-というタイプの薬よりも、
胃酸を抑える力はより強力でかつ安定している、
という特徴があります。

このタイプの薬は、
胃潰瘍や十二指腸潰瘍の治療のために短期使用されると共に、
一部の機能性胃腸症や、
難治性の逆流性食道炎、
抗血小板剤や抗凝固剤を使用している患者さんの、
消化管出血の予防などに対しては、
長期の継続的な処方も広く行われています。

商品名ではオメプラゾンやタケプロン、
パリエットやタケキャブなどがそれに当たります。

このプロトンポンプ阻害剤は、
H2ブロッカーと比較しても、
副作用や有害事象の少ない薬と考えられて来ました。

ただ、その使用開始の当初から、
強力に胃酸を抑えるという性質上、
胃の低酸状態から消化管の感染症を増加させたり、
ミネラルなどの吸収を阻害したりする健康上の影響を、
危惧するような意見もありました。

そして、概ね2010年以降のデータの蓄積により、
幾つかの有害事象がプロトンポンプ阻害剤の使用により生じることが、
明らかになって来ました。

現時点でその関連が明確であるものとしては、
プロトンポンプ阻害剤の長期使用により、
急性と慢性を含めた腎機能障害と、
低マグネシウム血症、
クロストリジウム・デフィシル菌による腸炎、
そして骨粗鬆症のリスクの増加が確認されています。

その一方でそのリスクは否定は出来ないものの、
確実とも言い切れない有害事象もあります。

プロトンポンプ阻害剤は抗血小板剤と併用されることが多く、
心筋梗塞などの後に頻用されている、
クロピドグレル(商品名プラビックス)との併用が、
同じ肝臓の薬物代謝酵素を利用して代謝されるため、
活性体であるクロピドグレルの代謝産物の血液濃度を低下させ、
心血管疾患のリスクを増加させるのでは、
という危惧が指摘されました。

ただ、2015年に発表されたメタ解析によると、
31の観察研究をまとめて解析した結果としては、
プロトンポンプ阻害剤の使用により、
心血管疾患のリスクは1.3倍増加していましたが、
4種類の介入研究という、
より精度の高い研究のみを解析すると、
そして心血管疾患リスクの増加は認められませんでした。
従って、現時点でクロピドグレルとプロトンポンプ阻害剤の併用が、
心血管疾患のリスクであるかどうかは、
明確ではありません。

クロピドグレル以外に、
チクロピジン(商品名パナルジンなど)と、
プラスグレル(商品名エフィエント)も、
チエノピリジン骨格という同様の構造を持ち、
プロトンポンプ阻害剤との併用において、
同様のリスクが想定されています。

今回の研究はこれまでの臨床研究などのデータを、
まとめて解析するメタ解析の手法で、
これまであまり検証されていなかった、
脳卒中のリスクへの、
チエノピリジン骨格を有する抗血小板剤と、
プロトンポンプ阻害剤との併用の影響を検証したものです。

これまでの22の臨床研究に含まれた、
トータルで131714名の患者さんのデータを、
まとめて解析した結果では、
抗血小板剤を単独で使用した場合と比較して、
プロトンポンプ阻害剤を併用すると、
関連する因子を補正した結果として、
脳卒中のリスクが1.30倍(95%CI: 1.04から1.61)、
脳卒中と心筋梗塞と心血管疾患による死亡を合わせたリスクが
1.23倍(95%CI: 1.03から1.47)、
それぞれ有意に増加していました。
総死亡や、出血系の有害事象、心筋梗塞単独のリスクについては、
有意な差は認められませんでした。

今回のデータも、
矢張りそれほどクリアなものとは言えませんが、
プロトンポンプ阻害剤を、
チエノピリジン骨格を持つ抗血小板剤と、
その影響を考慮することなく併用することは、
あまり賢明なことではなく、
プロトンポンプ阻害剤の使用は必要最小限の期間とすることが、
現状は最善の選択であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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AF冠者

かかりつけのクリニックに代診で来られた獨協大の医師二人に抗凝固剤を服薬している人はPPI剤は必薬とワーファリンを服薬しているのでパリエット10を処方されておりますが、気分的に10は強すぎると5にしてもらいましたが、循環器のDr.は胃内視鏡に異常がなければ服薬はどんなもんか、と否定的。
さて、どうしたものでしょうか。
by AF冠者 (2018-01-22 10:40) 

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