SSブログ

小児の急性気道感染症に対する抗菌薬治療には何を使用するべきか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
今年の診療は本日までで、
明日からは年末年始の休診となります。
ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
広域と狭域の抗生物質の違い.jpg
今年のJAMA誌に掲載された、
小児の気道感染症に対する抗菌薬の選択についての論文です。

抗菌薬は細菌感染症の治療薬ですが、
細菌には多くの種類があるので、
最初の頃に開発された抗菌薬は
(ペニシリンなど主に細菌や真菌などが産生する物質であったので、
抗生物質と呼んでいます)、
ある特定の種類の細菌の感染症には有効であるけれど、
同じ病気の原因となる別の細菌の感染症には効かない、
というような問題がありました。

そのため抗生物質の構造を変えたり、
別個の薬剤と組み合わせたりして、
より幅広い種類の細菌感染に有効な薬が次々と開発されました。

こうしては開発された幅広く有効な抗菌薬のことを、
広域スペクトラム抗菌薬と呼んでいます。

1種類の薬で多くの場合に対応可能なのですから、
当時はこれは大きな進歩と思われました。

ただ、次第にそうではないことが明らかになりました。

多くの細菌性の扁桃腺炎に対しては、
通常のペニシリンで充分なことが殆どであるのに、
より強力で広域な抗菌剤を使用することにより、
耐性菌が増加するような弊害や、
副作用や有害事象が増加するという弊害が生じました。

特に耐性菌の問題が最近は重要視されるようになり、
抗菌剤の適正使用が強く指摘されるようになっていることは、
皆さんも良くご存じの通りです。

さて、小児の上気道感染症のうち、
抗菌剤の使用が必要と考えられているのは、
急性中耳炎、溶連菌による急性扁桃腺炎、急性副鼻腔炎という、
3種類の病気に対してです。

こうした病気に対する第一選択の抗菌剤として、
アメリカ小児科学会は,
ペニシリンかアモキシシリンを推奨しています。
この2種類は狭域スペクトラムの抗菌剤です。
一方で急性中耳炎の臨床試験においては、
アモキシシリンにβラクタマーゼ阻害剤のクラブラン酸を配合した、
商品名クラバモックスなどの抗菌剤を使用し、
その有効性が確認されています。
これは区分から言えば広域スペクトラムの抗菌剤になります。

同様に急性副鼻腔炎においても、
アメリカ小児科学会が第一選択として、
アモキシシリンを推奨しているのに対して、
アメリカ感染症学会の臨床ガイドラインでは、
クラバモックスが推奨されています。

溶連菌による急性扁桃腺炎にも、
ペニシリンのような狭域スペクトラムの抗菌剤が推奨されていますが、
広域スペクトラムの抗菌剤であるセファロスポリンに、
ペニシリンと比較して治療の失敗が少なかった、
というメタ解析の論文が発表されていて、
実地臨床ではそうした広域スペクトラムの抗菌剤が、
多用されているという実態があります。

今回の研究では、
アメリカの31の小児科のクリニックにおいて、
生後半年から12歳で、
溶連菌による急性扁桃炎と急性中耳炎、急性副鼻腔炎の、
3種類の病気にかかったお子さんを、
広域スペクトラムの抗菌剤で治療した場合と、
狭域スペクトラムの抗菌剤で治療した場合とに分け、
その後の経過を比較検証しています。

これは2つの臨床データに分かれています。
一方は30159名のお子さんを後から抽出して、
治療経過を比較したもので、
もう一方は2472名のお子さんを最初に登録して、
くじ引きで治療薬を広域スペクトラムと狭域スペクトラムに分け、
その治療経過を、
医師による記録と、
患者さんの家族からの聞き取りの双方で比較検証したものです。
治療の成功の有無は治療開始後14日の時点で評価します。

ここでの広域スペクトラムと狭域スペクトラムの薬剤については、
こちらをご覧下さい。
広域と狭域抗生物質の表.jpg
狭域スペクトラムの抗菌剤は、
ペニシリンとアモキシシリンのことで、
広域スペクトラムの抗菌剤としては、
セフェム系の抗菌剤とマクロライド系のアジスロマイシン、
そしてクラバモックス(これだけ商品名です)がエントリーされています。

その結果…

まず後ろ向きの解析をした30159名のデータでは、
治療の成功率に狭域スペクトラムと広域スペクトラムの抗菌剤で、
有意な差は認められませんでした。

前向きの解析をした2472名のデータでは、
広域スペクトラムの抗菌剤の使用において、
小児QOLにやや悪影響が認められました。
また、治療者の視点から見た有害事象も、
患者さんの家族から見た有害事象も、
いずれも広域スペクトラムの抗菌剤で多くなっていました。

このように実地臨床におけるデータにおいて、
小児の急性気道感染症の治療の第一選択は、
アレルギーなどの問題がなければ、
ペニシリンかアモキシシリンが適切で、
クラバモックスを含む広域スペクトラムの抗菌剤は、
その有効性において勝るものではなく、
有害事象は多くなる可能性が高いので、
なるべく使用を控えることが望ましい、
という結論になっています。

抗菌剤に関する考え方は最近大きく変わりつつあるので、
その全てに賛同は出来ない面もあるのですが、
臨床医の端くれの1人としては、
日々情報はアップデートを心がけつつ、
目の前の患者さんに対して、
現時点で最善の選択を模索したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

  • 作者: 石原藤樹
  • 出版社/メーカー: 総合医学社
  • 発売日: 2016/10/28
  • メディア: 単行本


nice!(8)  コメント(1) 

nice! 8

コメント 1

seto

耳鼻科開業医です。
「抗菌剤に関する考え方は最近大きく変わりつつあるので、」
について、できれば詳しく教えていただけないでしょうか?
by seto (2018-01-12 16:02) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。